アニメ化決定を知り、喜びに打ち震えた
――アニメ化を知ったときの気持ちを教えてください。
仲村 ある日の収録後にスタッフの方から「じつは『まほやく』のアニメ化プロジェクトが始まっていまして」と言われて。驚いて語彙力がなくなり「えー! えー!」としか言えなくなるくらい、すごくうれしかったのを覚えています。帰りの電車の中でも喜びに打ち震え、心臓がバクバクして手も震えたりして、完全に挙動不審になってしまい(笑)。アプリの収録を通して、スタッフの方々が作品をとても大切にされていることを知っていたので「ついにきたか……!」という想いが本当に強かったです。と同時に「しっかりやらなければ!」と若干のプレッシャーも感じていました。
立花 ファンの方々も待ち望んでいたのではないかと思うので、ようやく「アニメ化」という大きな動きをお知らせできたことがうれしかったですね。『まほやく』はアプリでのストーリー更新がメインですが、ファンの方々がしっかり支えてきてくださったからこそ、こうしてアニメ化のお知らせができたと思うので、本当にありがたいです。
――アニメで動いている魔法使いたちを見ていかがでしたか?
仲村 動きがつくことで、スピード感や緊迫感がぐっと増して一気に物語へ引き込まれました。とくに魔法使いたちが大挙して空を飛んでいるシーンを見て、あらためて魔法使いたちの威圧感に驚きました。これはたしかに人間から恐れられるなと、初めてリアリティを持てたというか。たとえば、第2話でファウストが死を迎えそうなシーンなど、細かいカットひとつひとつの表情や仕草から魔法使いの内面がうまく表現されていて、無駄なカットが一切ないんです。当たり前かもしれないのですが、龍輪(直征)監督がすべてのカットに意味を持たせてくださって、それがしっかりと視聴者に届くよう丁寧に作られているのがとても印象的でした。
立花 アプリはテキストと立ち絵という形式なので、ユーザーの脳内でそれぞれ補完していただいていましたが、アニメでは動きがつくことでより作品の奥行きが出ましたよね。魔法使いたちが暮らしている世界を視聴者の方と共有できるのは、アニメならではの良さだなと思います。『まほやく』は魔法使い同士や賢者との会話劇が軸ではありつつ、魔法を使ったり戦ったりするシーンもあるので、そういったアクションシーンがアニメで楽しめるのは個人的にも非常に気になるところでした。
仲村 ムルに関して言えば、アニメーションでの動きがとてもダイナミックなんです。空を飛んでいたり、床に寝っ転がっていたり、テーブルの上に乗っかっているときもあれば、箒(ほうき)にまたがってひっくり返っているときもある。しかもセリフがないところでもそういう動きをしているので、それをチェックするのも楽しかったです。「こういう動きをしているなら、ここはこうやって演じてみよう」とムルが見ている景色や感じている思いを追体験しながらお芝居のプランニングを考えていくのがとても面白く、楽しい時間でした。
第1話冒頭は作品全体にとって意味のあるシーン
――お芝居について意識したことは?
仲村 アプリから大きく芝居を変えたところはありません。ただ、第1話冒頭の晶をいざなうシーンは、ムルにとって大事なシーンだという認識がアプリの収録時より強くなっていたので、アニメの収録でも気合が入りました。あそこはムルだけでなく、作品にとって大きな意味のあるシーンだと思っていて。龍輪監督ともお話ししたのですが、ムルがあそこで晶に声をかけて、晶をこの世界に呼んできたことには絶対に意味があったし、晶じゃなければ駄目だったと思うんです。他の誰でもなく晶を連れてくることが、ムルが人生の目的を達成するきっかけになったんだと。だからこそ、第1話冒頭の「あなたにお会いできる時を、長い間、待ち焦がれておりました」「本音を言えば、世界はどうでもいいのです」というセリフは嘘でも気取りでもなくて、彼が心から欲している、人生の目的に到達するための手駒がようやく揃ったという本心が表れていると思うんです。今後、アプリの本編でもムルは一体何がしたかったのかということが見えてくるのを僕自身も心待ちにしています。
――立花さんはいかがでしょうか?
立花 最初に練習用の映像をもらったときに、シャイロック的には少し口調が早いなと思ったんです。シャイロックの大人の余裕を表現するためにはゆっくりとした尺がいいなと思い、スタッフの方に相談させていただいたところ、アフレコがアニメーション完成前のタイミングだったので、セリフの尺はあとから合わせるから気にしなくても大丈夫ですと言っていただけました。なので、アフレコ自体はとてもやりやすかったです。序盤のシャイロックは少し大人のポジションで、他の魔法使いたちを見守る立ち位置だったり、彼の中でムルの存在が他の魔法使いとは違うということも垣間見えていたので、シャイロックらしさは表現しやすかったですね。
――第4話までのムルとシャイロックの掛け合いのシーンを演じてみてどうでしたか?
仲村 まだこのふたりの深い部分はそこまで描かれていないのですが、第2話のムルが月を見上げているところにシャイロックがやってきて会話をするシーンは、このふたりにとってとても意味のあるシーンなんだと再認識しました。シャイロックは内側のナイーブな部分を表に出さないタイプなのですが、あそこはシャイロックの本音が出ていたと思うんです。「どうか、世紀の智者よ。月に連れて行かれたりしないで」というセリフは、シャイロックにとっては紛れもない本心。でも、それを聞いているムルの心にはあまり届いてなくて……それがまた儚くて、すごく良いシーンだなと心に残っています。
立花 あのシーンはシャイロックとムルの関係がうかがえるシーンでしたよね。ただ思い出に浸っているわけではなく、「いろいろとやらかしてくれたよな、ムル」っていう憎らしさもあって。シャイロックは感情の起伏が見えづらいキャラクターなのですが、ムルに対してだけは本心を見せていることがわかるシーンでもあったと思います。初めて見る方もいると思うので「あれ、このふたりはどういう関係なんだろう?」と思っていただけたらうれしいです。