愛憎と懐かしさが混ざり合った第9話
――第9話ではムルとシャイロックの新たな関係性が描かれました。演じてみていかがでしたか?
仲村 ムルの魂の欠片が登場してシャイロックと舌戦を繰り広げるシーンですよね。あそこはムルとシャイロックの関係のこじれた部分……言い換えれば、特別な部分が描かれているのですが、ムルの欠片がシャイロックを煽り倒すので、演じている側としてはすごくワクワクして楽しいシーンでした。シャイロックって普段は完璧に見えるのですが、時折本音がこぼれるんですよね。瓶の中に入っている水が、ふっと溢(あふ)れるような。そういうシャイロックを見て、ムルは楽しんでいるんでしょうね。
――ムルの欠片を演じるうえで意識したことはありますか?
仲村 意識して、普段のムルと声を変えようとはしませんでした。ただ、ムルは子供のような純真な部分もあれば、元のムルが持っていた聡明な部分や、狂気的に月を求めるマッドサイエンティストのような部分など、いろいろな面を持っています。そこから彼の子供の部分を排除して、目的を達成するためには手段を問わない少し恐ろしい部分をお芝居のメインに据えようと思っていました。なので、意識的に声を変えたというよりは、内面が変わった結果、自然と表現も変わっていったという感じです。

――立花さんは、第9話を演じていかがでしたか?
立花 第9話は、昼ドラですよね(笑)。ムルにちょっと似た泥棒猫がやってきて、さんざん煽り散らしていく話なので、そういう意味ではシャイロックがこれまでは見せてこなかった荒げた感じやイライラした感じがふんだんに詰まっているシーンでした。でも、やっぱりそういったことも全部含めてムルだよね、と最後に受け入れるところはシャイロックらしいなと。ただ単に好きなだけでムルを愛でているわけではなくて、いろいろな面を全部ひっくるめてムルだと認められる、もしくは納得してあげられるシャイロックの大人な部分が表れていたと思います。
仲村 僕はあのシーンのシャイロックに、ほんのりと懐かしい気配を感じたんです。もしかしたら、シャイロック自身はそういう風に思っていなかったかもしれませんが、こういうやり取りを昔からしていたんだろうなというニュアンスが感じられて。だからこそスリリングで楽しくて、同時に癇(しゃく)に障(さわ)ったんだろうな、と。

立花 あとはやっぱり、このふたりの関係性に特別感を覚えましたよね。普段感情をぶつけないシャイロックが唯一ぶつけられる相手がムルで、反対にシャイロックに対して感情をぶつけてくる相手も珍しい。そういう意味であのふたりの関係はとても特別なので、第9話を通して視聴者の方にもその特別感が伝わったのではないかと思います。
ふたりの関係は見返りを求めない「親子の愛」
――第9話までで描かれているムルとシャイロックの関係性について、ふたりはどう捉えていますか?
仲村 すごく良い関係性だと思います。言いたいことをお互い率直に言い合えているし、ああ見えてお互いのことをちゃんと尊重していますし。憎らしいのも本当だし、親しく思っているのも本音。晶やクロエは第9話でのふたりのやりとりを見て深刻に捉えていましたが、当人たちにとってはそうでもないのかもと思ったんです。ムルが煽らなくても誰かが欠片に戻さなきゃいけないわけで、それは誰かと言ったらきっとラスティカでもクロエでも晶でもなく、シャイロックしかいない。ああいう風に煽ったりしなくても、結局話した末に欠片に戻して、ムルに食べさせるという結論になっていたと思うんですよね。
立花 このふたりは「愛憎コンビ」と言われていますけど、たぶん「愛」の部分が大きいんでしょうね。「見返りを求めない愛」と考えると、親子の関係に近いのかなと思ったりします。「親の心子知らず」なんて言いますけど、親が子供のためにしてあげたことであっても、子供は無邪気にそれを裏切ることもありますし、親は親で子供に対して腹が立つこともあったりするけれど、それも含めて自分の子供なわけで。「自分がこうだったから子供にはこうなってほしい」というのを求めないのが親子の愛なのかなって僕は思ったりするので、お互いを認めて拒絶しないところは、喜怒哀楽が混ざった親子の愛に近いような気がしています。

――直感的に親がシャイロックで子供がムルなのかなと思ったのですが、お互いが認め合っているという面では、ムルからシャイロックへ親から子の愛の矢印が向いているという捉え方もできますね。
立花 そうですよね。どちらにも向いていると思うんです。お互いに、見返りを求めない無償の愛を持っているんだと思います。
――最後に、第10話以降の放送を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします。
仲村 物語もいよいよ佳境です。最終回に向けて加速する魔法使いたちの物語、ぜひ最後までお楽しみください。
立花 物語が佳境になるにつれて、ムルとシャイロック以外にもいろいろな関係値を持つ魔法使いたちが登場します。彼らがどんな関係でどんな風に物語に絡んでいくのか、楽しみにしていてください。そして、アニメから入った方はぜひアプリのストーリーも読んでいただきたいですし、アプリから入った方には、もう一度アプリを振り返っていただけたらうれしいです。
- 立花慎之介
- たちばなしんのすけ 4月26日生まれ。岐阜県出身。BLACK SHIP所属。主な出演作は『アイドリッシュセブン』シリーズ (千)、『ブルーロック』(時光青志)、『百千さん家のあやかし王子』(紫)など。
- 仲村水希
- なかむらみずき 7月18日生まれ。福井県出身。ぷろだくしょんバオバブ所属。主な出演作は『ちはやふる3』(土屋憲一)、『魔法少女まどか☆マギカ』(市役所広報車)など。