霧原直人・霧原直也
飯田 直人と直也はもともと自分の中にあったキャラクターでした。自分の人生観を反映した人物なのかなと考えるときもある一方で、このふたりが持つ性質は誰にでもある部分だと思うので、それを素直に表現したキャラクターです。強そうに見えて、「こんなに一生懸命やっているのに、なんでわかってくれないんだ」とすぐキレそうになる直人。優しいように見えて、いざとなると逃げ出してしまいそうになる直也。構図としては直人に守られている直也ですが、さまざまな苦難を乗り越えてふたりの精神的な支柱になっているのは直也です。
また、物語の装置として「バディもの」がありますが、その中でも兄弟という存在は育った環境や記憶の共通項を生まれながらに持っていて、ときにはライバル的な存在にもなり得るし、命を懸けて助けようとする間柄にもなる。それは絆と言ってもいい。いろいろな面白いことが詰まっている存在だと思います。
黒木タクヤ・黒木ユウヤ
飯田 『NIGHT HEAD 2041』では、霧原兄弟に対峙する兄弟を配置し、2対2の構造にしようと思い、この新たなキャラクターを作り始めました。今どきの20代の視聴者さんから「いるよね、こういうヤツ」と思ってもらえて、しかも愛すべきキャラとして作りたかったので、平川(孝充)監督をはじめ、さまざまなスタッフの知恵を借りて構想しました。軽そうに見えて、じつはとても弟思いのタクヤ。ツンツンしているけど、じつは良いヤツなユウヤ。自分としても挑戦ではありましたが、楽しいキャラクター作りになりました。彼らは、保安隊が正義だと刷り込まれて生きてきた人物です。じつはタクヤとユウヤは、直人と直也が転生した存在なのですが、ふたりの意識を通じて迫害されてきた人の立場を把握することができます。
霧原兄弟と黒木兄弟のどちらの正義も理解し、何かを組み換えなければいけないときが来たとき、この世界でどんなことをしていくべきなのか。それをあらためて考えさせるのが、この作品のいちばん大きなテーマです。最終回まで見て、それを感じていただければうれしいです。
小林君枝
飯田 最初はミラクルミックをだまして、その後、保安隊に戻る程度のキャラクター構想だったのですが、書いているうちにどんどん筆が進んで、最終的には奥原晶子(おくはらあきこ)が転生した人物というキャラクターになりました。書き始めはいつも漠然と展開を考えてはいるのですが、進めていくとストーリーの中でキャラクターが動き出していくんです。そうなると、こちらとしてはそのキャラクターをいかに面白く生かすかを考えるから、結果的にキャラが立っていく。彼女の場合、自分の好みも反映された人物かもしれません。僕は、独立独歩でけっこう強い感じの女性がタイプなので(笑)。また、キャラクターデザインの大暮維人さんがシナリオからアイデアをふくらませてすばらしい服装にしてくれました。演者の日笠陽子さんのお芝居もとても良かったです。
彼女に限らず、この作品のキャストは皆さん台本をしっかり読み込んでキャラクターを受け取ってくれたうえで、お芝居をしてくれたことがとてもうれしかったです。自分が書いたときの感覚に寄せてくれて、さらに声の芝居でキャラクターとして立たせてくれる。完パケを見るときはシナリオを書いたときからだいぶ時間が経っているので、発せられるセリフも自分の書いたものだと忘れて純粋に楽しむことができました。
双海翔子
飯田 双海翔子は、カート・ヴォネガットの『タイタンの妖女』にオマージュを捧げたキャラクターです。作中で主人公が時空の狭間に入ってしまい、すべてを見渡せる意識のみの存在になってあらゆることを把握できるようになる。定期的にさまざまなところで実体化するけれども、それがいつどこで起こるかはわからない存在。翔子もそういうキャラクターにしています。他にもフィリップ・K・ディックの『火星のタイム・スリップ』には自閉症の男の子が出てくるのですが、じつはタイムスリップの能力を持っている。そうした不自由に見える人間がじつははすごい力を持っているという設定も好きで、それも参考にしています。
ちなみに、ディックの『ユービック』には中間世界が出てくるのですが、それが奥原晶子の中間世界の元ネタになっているんです。先人たちの作品を読み込み、生み出したキャラクター設定だからこそ、こうして時代を経てもさまざまな形で楽しんでもらえているのではないかと思います。
- 飯田譲治
- いいだじょうじ 1959年生まれ。長野県出身。映画監督、脚本家、演出家、小説家。TVドラマ『NIGHT HEAD』演出・脚本、『沙粧妙子-最後の事件-』脚本、『アイアングランマ』原作・脚本・演出、映画『アナザヘブン』原作・監督・脚本などを担当。