アニメ『NO.6』は自分にとってすべての基礎となった作品
――アニメ『NO.6』は今年で放送15周年。長崎監督のキャリアの中で『NO.6』はどのような作品ですか?
長崎 初めての監督作品なので何もかもが手探りで、当時の思い出を振り返ってみると、やることなすことすべてが新鮮でした。原作ものをやったこともそれまでなかったので、それも含めていろいろなことを勉強させていただきました。そういう意味で『NO.6』は、自分にとって、すべての基礎になった作品です。
――とくに苦労したのはどんな点でしたか?
長崎 原作のストーリーをどのようにピックアップしていくかを決めることがいちばん大変だったと思います。話数が全11本だったので、そもそも原作の物語は絶対に入りきらない。でも、途中で終わらせずに物語の最後までやることは決まっていたので、要素をいかにして詰め込むか、いろいろな案を出し合って決めていきました。最初は「どこかを削るくらいなら、いっそのことネズミ視点でやろうか」というアイデアも出ていたんです。でも、そうするとNO.6内の描写ができなくなってしまう。それならばやはり紫苑の成長物語としてまとめたほうがいいだろうということで、紫苑目線で要素をピックアップしていくことになりました。
今振り返ると自分の好みがはっきり出ていた
――今、あらためて本作を見返して、当時から感じ方が変わった部分はありますか?
長崎 「紫苑の成長物語」という軸があるので、基本的な感じ方は今も変わっていないです。ただ、当時は「作品にとっていちばんいいものをチョイスした」と思っていたんですけど、あらためて客観的に振り返ると自分の好みがはっきり表れているな、と(笑)。自分の好きなものって変わらないんだなと思いました。
――たとえば、どんなところにそれが表れていると感じますか?
長崎 全部ですね。キャストも、主題歌も、デザインも。たとえば、沙布役の安野希世乃さんは芝居の生っぽさが作品に合うと思って選んだんですけど、今考えると、僕が「芯の強さのある声が好き」というのが影響していたんだろうな、とか。ED主題歌のAimerさんも、ハスキーで強さを感じさせる声ですし。NO.6のデザインも、僕がもともと好きだったとある公園がベースになっていますし、紫苑やネズミのビジュアルについても、原作のイメージに加え、当時自分が見ていたドラマを参考にして、キャラクター原案・コンセプトデザインのtoi8さんにデザインしていただきました。
紫苑は透明を描くような難しさがある
――紫苑は俳優の佐藤健さん、ネズミは同じく俳優の伊勢谷友介さんをモチーフにしたとか。
長崎 そうそう、佐藤さんは『仮面ライダー電王』が、伊勢谷さんは『龍馬伝』の役柄がとても印象的だったので、そのイメージを取り入れたんです。NO.6の中と外とで色を変えたのも、『龍馬伝』の緑っぽい画面からのインスパイアですね。そのときは「作品にとってこれがいちばんいいだろう」と思ってフラットに選択していたつもりでしたけど、今に振り返ると、無意識のうちに自分が好きなものの中から選択していたことがよくわかります。
――力河の蝶ネクタイも長崎監督からのリクエストだったそうですが、それはどういった理由で提案したんですか?
長崎 蝶ネクタイはチャップリンみたいなイメージですね。「貧乏で惨めな人だけど、一生懸命見栄を張っている、心意気はある、というニュアンスを出したい」という話をしたのを覚えています。力河は年齢的にも自分と近かったぶん、感情移入しやすいので描きやすかったです。紫苑やネズミも思い入れはあるんですけど、どちらかというと親目線で見ていたので、感情移入とは少し違う感覚でした。アニメーターさんも力河は描きやすかったらしくて、皆さんよく「力河とネズミは描きやすいけど、紫苑は難しい」と言っていましたね。
――デザインに関しては、toi8さんが「紫苑はすんなりできたけどネズミは苦戦した」と言っていましたが、アニメーターの皆さんにとっての描きやすさは逆だったんですね。
長崎 そうですね、紫苑は感情をつかめないところが魅力のキャラクターなので、「透明を描いてください」みたいな難しさがあるんです。逆にネズミはリアクションの人だから、わかりやすいんですよね。デザインはたしかに何度かやりとりをした記憶がありますが、目的や感情が理解しやすいぶん、アニメーター的には描きやすかったんだと思います。
――toi8さんのクリエイティブの魅力を、長崎監督はどのように感じていますか?
長崎 すごくオシャレですよね。でも、ちゃんと地に足がついてもいて、それでいて地味なわけでもなくて。原作で描かれたニュアンスにきちんと血を通わせている感じがいいなと思います。toi8さんは『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』にも「路地デザイン」という役職で参加されていましたけど、もともと生活感があるものを描くのがお好きだったそうなんです。そこへの興味がたぶんキャラクターにも表れているんでしょうね。
――とくに長崎監督がデザインを気に入っているキャラクターは?
長崎 やっぱり紫苑かな。何を考えているかわからない感がすごくよく出ていますよね。あと、文庫第1巻のフル帯の紫苑がとても好きなんです。男の子の危うさみたいなものが表れていて、まさに会心の出来だと思いますね。でも、ネズミや力河も好きだし、イヌカシの中性的な感じもいいし、沙布の優しくて強い感じも印象に残っているし……結局、どのデザインも全部好きなんです(笑)。![]()
- 長崎健司
- ながさきけんじ アニメーション監督。制作進行・絵コンテ・演出としてキャリアを積み、2011年に『NO.6』で監督デビュー。主な監督作品は『ガンダムビルドファイターズ』『僕のヒーローアカデミア』ほか。

























