TOPICS 2021.06.22 │ 12:00

『のんのんびより』コミック&TVアニメ完結記念 原作者・あっと&川面真也監督対談①

2009年に『月刊コミックアライブ』で連載がスタートしたマンガ『のんのんびより』が、2021年2月に発売された4月号でついに完結。そして、3期にわたって描かれたTVアニメもその1カ月後、大好評のうちに最終回を迎えた。両作品の完結を記念して、原作者であるマンガ家・あっとと、アニメを手がけた川面真也監督の対談が実現。第1回目はTVアニメについて語ってもらった。

取材・文/福西輝明

癒されながら臨んだアニメの制作

――まずは3期にわたる『のんのんびより』のアニメ制作、お疲れさまでした。大役を果たした今の思いはいかがでしょうか?
川面 自分としては原作通りにやっているだけだったので、じつはそれほど大変ではありませんでした。アニメを作っている最中は、作品内容に作り手の心も引っ張られるもので、たとえば、殺伐とした作品を作っているときは心までギスギスしてしまいます。その点、『のんのんびより』の制作は、作業自体は大変でしたが、作りながら癒されていました。ロケハンにしても「いい絵を撮れるかな」という緊張はありつつ、自然あふれる場所を巡るだけで気持ちがリフレッシュできましたしね。幸い、スタッフにも恵まれて、楽しみながら制作に臨めました。

あっと 全部で3シリーズ+劇場映画まで、すべてを川面監督にやっていただいて、本当によかったと思います。ほかのスタッフの方々にも最高のものを作っていただけて、原作者冥利に尽きます。今までお疲れさまでした。そして、本当にありがとうございました。
川面 あっと先生には本読み(脚本会議)にも毎回参加していただいていたので、先生ご自身もアニメスタッフのひとりなんですけどね(笑)。ともあれ、お疲れさまでした。

――あっと先生もアニメの制作に深く関わっていたんですね。
川面 そうですね。セリフの言い回しなどをチェックしていただきました。また、アニメでは原作で描かれていない部分も含めて尺を埋めなくてはいけないので、必然的にオリジナルパートが必要になります。そういう場合に、あっと先生にアイデアをいただくことが少々……いや、かなりの部分でありました。

――なるほど。『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』には、原作にいないオリジナルキャラ・新里あおいが新たに登場しましたが、彼女もあっと先生のアイデアだったのでしょうか?
あっと いえ、あおいはシリーズ構成・脚本の吉田玲子さんのアイデアですね。劇場映画化の企画をお聞きしたときに、原作のままだと尺が30~40分にしかならないので、オリジナル展開を盛り込みつつ、一本筋の通ったストーリーを入れてほしい、とアニメサイドにお伝えしたんです。そうしたら、吉田さんから「新キャラを入れましょう」というご意見が出て、旅先の宿の娘であるあおいとの出会いと交流という、原作にはなかったオリジナル展開が生まれました。最初は、「こんなのんびりしたマンガで劇場映画を作れるのか……?」と心配していたんですが、沖縄旅行を通してロードムービー的な作品に仕上がって驚きました。思った以上にちゃんとした劇場映画になっている、と。

れんげたちが泊まった民宿「にいざと」の看板娘であるあおい。夏海は同い年の彼女とすぐ仲良しになっていった。

川面 せっかく村から飛び出すのだから、いつもとは違った形にしたいと思いまして。原作のラストで、夏海が「帰りたくない」と言って泣くんですが、そこに「まだ遊びたい」というのと、「新しい友達と離れたくない」というふたつの意味を込めれば、映画のラストにふさわしい盛り上がりを作れるだろうと。僕も小学生時代の旅行先で同じような経験をしたので、あのときの気持ちを思い出しながら作ってみました。
あっと 川面監督も旅行先で誰かと出会って、遊んだりしたんですか?
川面 子供の頃に親戚の家に遊びに行ったんですが、そこは家の前の田んぼにホタルがうようよいるような、すごい田舎だったんです。そして、その家には年上のお姉さんがいて、仲良くしてもらいまして。お風呂に入ろうとして扉を開けたら、ちょうどお姉さんが着替えをしていた、みたいなこともありました。
あっと ベタベタな展開じゃないですか!(笑)
川面 そんなこともあったせいか、帰省するときにつらくなって泣いてしまったんですね。なんというか、ものすごく強く「別れ」というものを実感してしまって。あのときに僕が感じた思いを夏海に投影できれば、映画で気持ちが盛り上がる部分をひとつ作れるし、自分としても感情移入できると思ったんです。
あっと 夏海とあおいの別れのシーンは、川面監督の実体験にもとづくものだったんですね……。

記憶にある「田舎のイメージ」を盛り込んだ風景描写

――川面監督はこれまで、どんなことを心がけて『のんのんびより』らしさを出していったのでしょうか?
川面 原作で描かれている魅力を、忠実に視聴者に伝えることです。物作りをしている以上、作品にはどうしても作り手の体験からくるものなどの「個性」がにじみ出ます。それ自体は悪いことではないし、僕もとくに抑えてはいないんですが、あまりやりすぎると作品が原作を離れてひとり歩きしてしまいます。だからこそ、僕は原作へのリスペクトをいちばん上に置くよう心がけています。

――『のんのんびより』を映像化するにあたって苦労したことは?
川面 日本の田舎の風景は、ビジュアル的にも雰囲気的にも、どうしても湿っぽくなりがちなんです。そのため、風景を見ていて心癒される、さわやかなものとして見せる方法を構築するところが、制作の最初の段階で苦労しました。

――原作では、田舎の風景を描くうえでどんなことを念頭に置いていたのでしょうか?
あっと カラーのときは別として、基本的にマンガはモノクロなので、季節ごとの色をどうやって表現するかはあれこれ考えました。たとえば、秋の紅葉の色をモノクロでは表現できないので、落ち葉を地面に描いて「秋ですよ」という感じを強調してみるとか。背景を描くときはかなり神経を削りました。

秋を舞台にしたエピソードでは、落ち葉のほかにどんぐりをコマに描くなど、季節を感じさせるものが意識的に盛り込まれている。また、コミックスは各巻ごとに季節が統一されている。

――ちなみに、作画の参考にした「田舎のモデル」はあるのでしょうか?
あっと 連載開始前にちょっと田舎のほうに行って写真を撮ったりしましたが、基本的にはネットや本などを参考に描いているので、明確に「ここが舞台のモデル」という場所はないですね。あまり特定の地域にモデルを限定してしまうと、「その地域にはこんなに雪は降らない」とか「海はそんなに近くない」など、お話作りの足かせになってしまいます。ですから、いろいろな季節ネタを盛り込みやすいように「ふわっとした田舎のイメージ」を詰め込んだ架空の村を舞台にしました。ただ、私の両親の田舎がそれぞれ和歌山と新潟で、とくに新潟のほうは一面田んぼだらけで『のんのんびより』の舞台にイメージが近いんです。なので、記憶にある田舎の体験では、モデルにしていると言えますね。

――アニメでは田舎の風景を描く際に、どんなことを心がけましたか?
川面 頭のなかのイメージだけで田舎の風景を描いていると、どうしても情報がかたよりがちになって、ありきたりな感じに見えてしまいます。ですから、ロケハンに行って撮ってきた写真の内容を、ちゃんと反映させるようにしました。「田舎」というと、のどかな自然の風景が頭に浮かぶと思いますが、実際は意外と人工物がちらほら見えるんです。たとえば、道に止められたトラクターだとか、その辺に置いてある農具だとか。そうした田舎を思い起こす「トリガー」となるものを邪魔にならないところに配置するようにしています。ただ、すべてを写実的に描いてしまうと、それはそれでリアルにより過ぎてしまって面白くない。ロケハンの写真をもとにしつつ、記憶にある「田舎のイメージ」を盛り込むことで、皆さんの「田舎を訪れた原体験」を刺激できればと。そのために、風景を描写するシーンでは少し長めに尺をとって、田舎の記憶を思い出していただくようにしました。

田舎では珍しくないポリタンクや農作業用のバケツ。何気ない小物の描写へのこだわりが画面から見て取れる。

最終回に向けて収束していった第3期

――TVアニメ第3期の『のんのんびより のんすとっぷ(以下、のんすとっぷ)』で、それまでのシリーズと比べて意識的に変えた部分はありますか?
川面 『のんすとっぷ』では、お話がシリーズとしての最終回に向かっていくことを意識しました。突然最終回がポンとやってくるのではなく、各キャラクターが以前よりも成長したり、しなかったりというのを少しずつ積み重ねたうえで、作品世界が次の世代へ続いていくことが伝わるようにと。
あっと 『のんすとっぷ』では篠田あかねや、しおりといった新キャラが登場しましたが、主人公であるれんげたちだけでなく、サブキャラである彼女たちに焦点を当てたエピソードが増えていたのが印象的でした。最終回ではお兄ちゃん(越谷卓)の卒業式が描かれましたが、分校の基本的な顔ぶれは変わりません。でも、そのあとにしおりが新一年生として入学してくることで、新しい分校での生活が始まることを示しながら物語に幕を下ろしたわけですが、そこに至るまでにちゃんとしおりに焦点を当てて、視聴者に彼女の存在を刷り込んでいたのはさすがでした。おかげさまで、いい最終回になったと思います。endmark

あっと
主に『月刊コミックアライブ』誌上で活躍しているマンガ家。2007年に『こあくまメレンゲ』でデビュー。その後、『のんのんびより』の連載をスタート。同作は11年もの長期連載になり、TVアニメ化もされた。また、TVアニメ『ハイスクール・フリート』ではキャラクター原案を担当している。
川面真也
かわつらしんや。フリーランスのアニメ監督・演出家。以前はビィートレインで活動しており、TVアニメ『NOIR』で初めて絵コンテ・演出を担当。その後、『吟遊黙示録マイネリーベ wieder』で初監督を手がける。その他、『ココロコネクト』や『田中くんはいつもけだるげ』『ステラのまほう』『サクラダリセット』といった作品に監督として携わっている。
作品情報

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小岩井ことり、村川梨衣、佐倉綾音、阿澄佳奈>
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