TOPICS 2021.06.24 │ 12:00

『のんのんびより』コミック&TVアニメ完結記念 原作者・あっと&川面真也監督対談②

11年にわたる連載が完結したマンガ『のんのんびより』。原作者のあっとと、アニメの監督を務めた川面真也の対談の第2回目は、原作マンガの企画やメインキャラクターたちの成り立ち、そして連載時の思い出を振り返っていく。

取材・文/福西輝明

アシスタントを入れずに続けた11年間の連載

――まずは11年間の連載、本当にお疲れさまでした。
あっと ありがとうございます。とはいえ、最終回のその後を描く「特別編」が何本か残っているので「終わった!」感はまだないんですが……。それでも11年間、大きな病気もせずに無事に完結させられてよかったなと思います。
川面 久しぶりにお顔を見ましたが、ずいぶんすっきりした感じに見えますね。
あっと そうですか?(笑)
川面 あっと先生はアシスタントを入れず、11年間ずっとひとりで連載を続けてきたじゃないですか。それ自体が大変なのに、アニメの制作でもレギュラースタッフ並みにご協力いただいて。作業量も大変なものだったと思いますが、真面目にコツコツ連載を続けて、きっちり予定通りに終わらせた。それはひとつの「偉業」だと思うんですよね。尊敬します。
あっと ありがとうございます。あらためてそこまで持ち上げていただくと、ちょっと変な感じがしますね(笑)。

――どんな経緯で『のんのんびより』の連載企画を思い立ったのでしょうか?
あっと デビュー作の『こあくまメレンゲ』で、ゆるいコメディを描いていたんですが、連載が終わったあと、次はコメディ要素に「癒し」を盛り込んだ作品を描こうと思ったんです。それで考えているうちに、読者の多くが懐かしくも癒されるであろうものとして「田舎」というキーワードを思いつきまして。そこで特定の地域ではなく、多くの人が持つ「田舎」のイメージの総体となる村を舞台にした作品の企画を立てたんです。今は「ご当地マンガ」が人気ですが、ひとりで執筆している身としては取材するのも大変ですし、地域性にとらわれずにいろいろな季節ネタが使えるので、実際にある地域はあえてモデルにはしませんでした。

学校から帰れなくなるくらいの大雪が降ったり、みんなで「田植え祭り」をしたり。特定の地域に絞らないからこそ、さまざまな「田舎ネタ」を盛り込むことができた。

――一読者として、川面監督はどんなところに『のんのんびより』の魅力を感じましたか?
川面 やっぱりゆるくてシュールなギャグにクスっとさせられることが本当に多くて。『のんのんびより』に出会うまでは、こういうタイプの作品をあまり読んだことがなかったので、まずはその独特なノリにハマりました。田舎の要素も、シュールギャグを描くために設定されたものなのかな、とね。
あっと 田舎は何もないように見えますが、だからこそやれるネタもあるんです。そういう意味では、川面監督のおっしゃることは的を射ていると言えますね。

――連載を続けていくうえで、念頭に置いていたのはどんなことでしょうか?
あっと 基本的にはゆるいコメディではあるんですが、それだけだと読者に飽きられてしまいます。なので、ゆるさに特化したお話や、癒されるお話、ギャグに全振りしたお話など、回によってノリを変えるようにしました。そうしてコミックスでまとめて読んだときに、のんびりあり、シュールギャグありと、バランスが取れた内容にしようと。

――あっと先生はどうやってネタを考えているのでしょうか?
あっと 基本的にネタ出ししているときは、ずっと寝ころびながら「何かいい話、降りてこい!」と神頼みみたいな感じでしたね。ネーム作業のときは精神的にキツかったですし、作画作業のときは身体的にキツかったです。
川面 ずっとひとりで作業していたんですから、つらいはずですよ。回によってはめちゃめちゃ絵の密度が高いですしね。それをやり遂げたのは本当に大変だったと思いますし、やり遂げた今はスッキリした顔になっているのもうなずけます(笑)。

小鞠がカレーをおいしく作ったのを見て、寂しくなった

――次は、メインキャラクターについてうかがっていこうと思います。それぞれの設定を作る際に念頭に置いていたことは?
あっと 連載当初は、それぞれのキャラクター性を作り込むことはしなかったんです。というのも、設定を固めすぎると、実際にネームを描くときにうまく動かしにくいんですよね。なので、それぞれにふんわりした設定をつけつつも、あとはネームで動かしていくうちに少しずつ固まっていった、という感じです。

――なるほど。当初から最年少であるれんげを中心にしようとは考えていたのでしょうか?
あっと そうですね。まわりのキャラより年下で、ちょっと変わった子を中心にしようとは思っていました。たしか原作で最初に描いた話が、第2話だったんですよ。当初は第1話のつもりで描いたんですが、担当編集に見せたところ、「もう少し作品の導入となる部分がほしい」と言われまして。それで、あらためて今の第1話のネームを描きました。だから、じつはれんげが最初にしゃべった言葉は「にゃんぱすー」になるんですよ。

こちらがもともと第1話として掲載する予定だった、れんげの初登場シーン。れんげの第一声である「にゃんぱすー」が描かれた記念すべきシーンだ。

川面 僕は『のんのんびより』では、れんげ推しなんですよ。子供らしい繊細な部分と、独特な感性から生まれるシュールな部分のふり幅があって、見ていて飽きないです。アニメでも、れんげを描くのは楽しかったですね。
あっと れんげは普通とはちょっと違う感性を持つ天才肌な子として考えていました。そんな部分が常人からすると「変わった子」に映る、という感じに見えればと思って描いていたんです。
川面 れんげは成長したら、早熟の天才アーティストになるんじゃないかって思うんですよね(笑)。

――では、蛍についてはいかがでしょうか?
あっと 最初は東京からやってきた常識人として描いていたんですが、描いているうちにその路線からだんだんずれてきて。最終的には、けっこうアナーキーな部分を秘めた子になりました。普段は優等生然としていますが、イモリを見つけてテンションが爆上がりしたり、家に帰ると子供っぽいところが出てしまったり。そうしたギャップを入れたほうが、キャラクターとして動かしやすくなると思ったんです。
川面 蛍はものすごくスペックが高いのに、謙虚なところが魅力だと思います。それが、田舎の自然に触れていくうちに、だんだん素直さが表に出てきて、面白い感じに(笑)。声優さんを決めるときも、そんな一面を意識しました。

――夏海についてはいかがでしょうか?
あっと 舞台となる村では事件らしい事件が起こらないので、物語を動かす起点となるキャラとして考えていました。基本的にゆるいお話に勢いをつけてくれるアクセル役で、とても描きやすかったです。でも、夏海が何かやらかしたら、その「報い」を必ず受ける、ということを意識していました。やらかしたまま終わってしまうと夏海のイメージが悪くなりますし、最後におしおきが待っているといいオチがつきますしね。
川面 夏海はやりすぎるとウザく見えてしまうので。意外と扱いが難しいんですよ。やんちゃではあるけれど、やりすぎないように。それでいて、おとなしくはならないように。アニメでは、その強弱のバランスを意識して描きました。そういえば、夏海役の佐倉綾音さんが、夏海が八の段の九九ができないのを見て「こんなに勉強ができないとは!」って驚いていましたね。
あっと 勉強以外のことはそつなくこなすので、頭が悪いわけじゃないんですよね。勉強がとことん嫌いなだけです。ムラッ気が激しい子なんですよね。

――では、小鞠についてはいかがでしょうか?
あっと 五年生だけど最年長に見える蛍と、逆に最年長なのにいちばん小さく見える小鞠、というようにセットで考えました。その凸凹コンビもお話を構成しやすかったです。基本的に背伸びしがちでうまくいかないことが多いんですが、最終話でしおりのお母さんが陣痛で倒れているのを見たとき、真っ先に「タクシー呼ばなきゃ!!」と動いたのは小鞠なんですよ。最終話くらいは、最年長者らしいところを見せてあげたいと思ったんです。

陣痛で動けないしおりのお母さんに対し、みんながアタフタしているなか、真っ先に行動を起こしたのはなんと小鞠。普段は子供っぽいが、意外と中身はしっかり者なのかもしれない。

川面 僕は料理下手だった小鞠がカレーをおいしく作った……作ってしまった回を見たとき、「少女が大人になってしまった」という寂しさをおぼえましたね。
あっと 言い方!(笑)
川面 アニメ第3期の第9話でカレーの話を描くときも、「ああ……。俺の小鞠が……」と、よくわからない寂しさを感じながら作りました(笑)。

恥ずかしくてのたうち回りながらネームを考えた17話

――原作マンガを振り返って、とくに思い入れのある話数について聞かせてください。
あっと 私はれんげが都会からやってきたほのかと初めて出会う第17話ですね。それまではギャグがメインだったんですが、初めてちょっといい話を描いたので、恥ずかしくてのたうち回りながらネームを考えていました(笑)。マンガは16ページしかないので、考えたエピソードをかなり圧縮して、なんとかふたりの出会いと別れをいい形で描けたので、自分としても満足しています。

同い年のほのかと出会ったれんげは、夏休みの楽しいひとときをともに過ごす。しかし、ほのかは父親の仕事の都合で「さよなら」を言う暇もなく去ってしまった。このとき、れんげは初めて「別れ」というものを経験したのだ。

川面 ほのかの話は僕も気に入っています。ああいう話をやってみたいとずっと思っていたのですが、なかなか機会がなくて。でも、『のんのんびより』のアニメ制作でそのチャンスが巡ってきたので、楽しみながらやれました。あとは、やっぱり最終回が印象深いです。お兄ちゃん(越谷卓)が卒業するのはなんとなく想像していましたが、それだけに留まらず、しおりとの交流と新しい季節の訪れまで描くとは。展開と物語の終わらせ方もお見事でしたし、ページ数もすごかったですね。
あっと 3話分のボリュームで48ページもあったので、構成するのもひと苦労でした。あと、最終回にはコミックス第1巻の表紙と同じ構図の絵を入れたんです。1巻から約一年後、同じ構図で、後ろにふたり増やしています。

コミックス第1巻の表紙。最終回での構図もほぼ同じなのだが、実際のイラストはぜひ16巻で確認していただきたい。

川面 しおりという次の世代だけでなく、新しく生まれた彼女の妹を出すことで「次の次の世代」を意識させて終わるところはグッときましたね。

――最後に『のんのんびより』を応援してくれたファンに向けて、おふたりからメッセージをお願いします。
あっと これまで11年も同じ作品の連載を続けられたのも、応援してくださった皆さんのおかげです。本当にありがとうございました。マンガのほうは、最終回のその後を描く「特別編」がまだ少しだけ続きますので、最後までお付き合いいただければと思います。
川面 原作マンガの最初から最後まで、アニメ制作を通してお付き合いできることはなかなかないので、僕としても最後までやりきれたことに大きな達成感があります。僕だけでなく、制作現場のスタッフもみんな『のんのんびより』が大好きで、だからこそいい作品に仕上げられたのだと思います。それも、すべては皆さんの応援に支えられていたからこそ。アニメのほうも最後まで応援してくださってありがとうございました。endmark

あっと
主に『月刊コミックアライブ』誌上で活躍しているマンガ家。2007年に『こあくまメレンゲ』でデビュー。その後、『のんのんびより』の連載をスタート。同作は11年もの長期連載になり、TVアニメ化もされた。また、TVアニメ『ハイスクール・フリート』ではキャラクター原案を担当している。
川面真也
かわつらしんや。フリーランスのアニメ監督・演出家。以前はビィートレインで活動しており、TVアニメ『NOIR』で初めて絵コンテ・演出を担当。その後、『吟遊黙示録マイネリーベ wieder』で初監督を手がける。その他、『ココロコネクト』や『田中くんはいつもけだるげ』『ステラのまほう』『サクラダリセット』といった作品に監督として携わっている。
作品情報

原作コミック「のんのんびより」 著:あっと
全16巻好評発売中!

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