日向未南さんの素直でストレートな声がボッジとマッチした
――ボッジは耳が聞こえず、口がきけない少年です。キャスティングは悩んだのではないでしょうか?
八田 ボッジのセリフは、原作でも「あう」といったシンプルな表現になっていて、声を想像することが難しいキャラクターでした。でも、実際にオーディションで皆さんの声を聞いてみると、日向未南(ひなたみなみ)さんの声がいちばんイメージに近かったんです。すごく素直でストレートな雰囲気があり、ボッジの性格にもマッチしていると感じました。

――対してカゲは実力派の村瀬歩さんです。
八田 じつは、順番的には先に村瀬さんのほうが決まっていたんです。実際に作品中でいちばんよくしゃべっているのはボッジではなくボッジの言葉を受けとるカゲのほうですから。ですので二次オーディションでは村瀬さんと実際にかけ合いをする形でボッジ役を決めました。そのときのフィーリングの良さも、起用の大きな理由ですね。

――ボッジの役作りについて、アフレコ時にはどのようなディレクションをしましたか?
八田 カゲと出会う前のボッジは、自分がしゃべると周囲から良くない反応が返ってくるので控えめであまりしゃべらないんです。一方、カゲには自分の言っていることが伝わるので、すごく雄弁に語ろうとします。つまり、同じ「あうあう」でも会話相手や状況によってテンションが異なるので、そこは音響監督のえびなやすのりさんと話し合いながら調整していきました。日向さんはすごく理解の早い方なので、一瞬でこちらの意図を汲み取ってくれて助かりました。
手話やカゲの表現など何気ないシーンに詰め込まれた工夫
――ボッジまわりの作画でいえば、ヒリングやドーマスによる手話の描写も多いですよね。
八田 手話シーンについては、手話を使われている方に協力していただきました。実際の手話をビデオ撮影し、それを元に作画して、東京都聴覚障害者連盟に監修していただくという流れです。手間はかかりますが、そこはしっかりやらないといけないところですから丁寧に描いています。

――他に作画面で工夫や苦労をした部分はありますか?
八田 カゲの表現ですね。カゲは地面に張り付きながら移動する平面的なキャラクターなので、リアルに描写すると、背景がほとんど地面になっちゃうんです(笑)。そのため、カゲとボッジの会話シーンは、不自然でない範囲でカゲを地面から浮かせたりして、なんとかアングルのバリエーションを増やすようにしています。

――何気なく描かれているシーンにもいろいろな工夫が詰まっているんですね。現在第十一話まで放送済みですが、これまででとくに印象深いエピソードやシーンはありますか?
八田 個人的に印象深いと感じているのは第五話です。ドーマスに裏切られたことで絶望から始まる第五話は、冒頭こそカゲとの再会に心温まりますが、そのあとはボッス王の遺体が秘薬にされたり、ダイダの決意が垣間見えたり、ドーマスとホクロがぶつかり合ったりと、物語が怒涛のように進んでいきます。そして、ミランジョの本性が明らかになるにつれて世界観が一気にダークになっていくんですよね。僕はあの感じが好きなんです。


――ダークファンタジーがお好きなんですね。他にはありますか?
八田 第八話で描かれた、ボッス王が魔神と契約する過去エピソードです。これは原作では第1巻の巻末に書き下ろしとして収録されているエピソードなのですが、僕はこのエピソードを読むことでより深く作品世界へとのめり込むことができたんです。本編で描かれている世界の裏側が垣間見えたことで、これはすごいスケールの物語なんじゃないかとワクワクしました。
カゲの存在はみんなの願望で理想
――最後に今後の展開についての見どころを聞かせてください。
八田 ミランジョによって冥府の罪人たちが解き放たれたことで、事態は混乱を極めていきます。罪人たちのパーソナルな描写もあって、とくに次の第十二話には『王様ランキング』というタイトルに直接関ってくる貴重なシーンがあったりもします。より奥深い世界観を感じることができると思いますので、ぜひご覧ください。
――さらに2クール目では、厳しい修行を経て強くなったボッジの活躍が見られるんですよね。
八田 それも楽しみにしていてください。ただし、いくら強くなったからといって、これから先ずっとボッジが無双し続ける作品ではないことは明言しておきます(笑)。努力して技術や知識を習得したとしても、それがそのまますぐに通用するほど世界は甘くないということは、僕たちも経験のあることですよね。その意味で、2クール目のボッジは、より多くの方々に共感してもらえるのではないかと思います。

――まだまだ壁が立ちふさがるんですね。でも、ボッジにはカゲというパートナーがいますから、そこは心強いですね。
八田 そうですね。これは十日先生もおっしゃっていますが、カゲの存在は僕たちみんなの願望であり理想なんですよね。いつだってそばにいて「どんなことがあってもお前の味方になりたいんだ」って励ましてくれたら、それはどれだけうれしいことか。この作品は、僕たちのそういう気持ちをしっかりとすくい取ってくれるからこそ、思いきり感情移入できるんだと思います。
――おっしゃる通り、大人でも泣ける理由はそういうところにあるような気がします。
八田 アニメのキャッチコピーは「小さな勇気が、世界を変える」です。最後まで見ていただければ、きっとその理由がわかると思いますので、どうか引き続き応援をお願いいたします。
- 八田洋介
- はったようすけ 演出家として『デス・パレード』『ワンパンマン』『ACCA13区監察課』『ブギーポップは笑わない』『映画ドラえもん のび太の新恐竜』など多数の作品に参加。『王様ランキング』が初監督作品となる。