TOPICS 2024.06.05 │ 18:00

メインキャストが振り返る
『最遊記歌劇伝ー外伝ー』②

2008年の初演『最遊記歌劇伝-Go to the West-』から15年。2023年9月に上演された『最遊記歌劇伝ー外伝ー』でシリーズ出演が最後となった、鈴木拡樹さん、椎名鯛造さん、平井雄基さん、藤原祐規さん。前編で『外伝』の上演が奇跡だと噛み締め、いかに己の役と向き合ったかを語った4人。中編では舞台上でのいろいろな事件(?)を振り返ります。

取材・文/おーちようこ 撮影/松本祐亮

場面の切り替えが多い分、気持ちの切り替えに苦労した(藤原)

――楽しい場面と切ない場面との緩急があったからこそ救われる舞台だったと思います。
鈴木 緩急については舞台ならではの描き方だと思っています。前編で話に出ていた悟空のボール遊びをはじめ、僕ら4人が少しずつ仲良くなるきっかけなど、原作のすべては演じられないけれど、いろいろな場面が折重なっていくからこそ時間の流れを表現できると気づいて。あ、だから舞台化する意味があるんだ、と思うことが多かったですね。

藤原 ただ、場面の切り替えが多い分、気持ちの切り替えは大変でした。たとえば、悟空と全力で遊んだ次の場面に真面目な長台詞があって、遊びながらも「次の台詞は……?」と毎回、緊張していました。

椎名 それを言ったら俺だって! いきなりマントをつけて登場して遊び始める場面が大変で……。まあ、あのマントは自分からやりたいって言ったから、自業自得なんだけど(笑)。これが日替わりのお楽しみネタになっちゃったから、歌っている最中に「今日はこれをやるぞ、でも次はこの台詞だぞ」と考えながら歌っていたので毎回必死でした。

鈴木 その騒ぎの中で僕はずっと座っていたので、それはそれで大変でした……。じつはものすごく寒かったんです。衣装もノースリーブですし。

椎名 俺は最初から歌って踊るから暑くなっちゃうんです。だから出番前に舞台袖でアイシングしていたんですけど、となりで一緒に待っている拡樹に「これ、いる?」って差し出して「いらないよ!」って結構強めに拒否されるっていうやりとりを毎回していました(笑)。

鈴木 本当にいらなかったからね!(笑)

藤原 温度調節といえば、捲簾(けんれん)の衣装が大変だったよね。

平井 あのー……言っていいんでしょうか。僕の衣装は素材がレザーで、汗が背中に溜まりやすくて。その汗が自分の体温でだんだん温まって、結果的にはサウナスーツを着ているみたいになってしまい、一度、汗をかきすぎてマイクを水没させてしまったことがありました。

椎名 だから舞台上を冷やすほうが大事、ってことになっちゃうよね。

鈴木 そうだね(笑)。毎公演、何かが起こって、そのたびに変化があって、それを別の人が発見して、よりよくなっていく、そんな連鎖があって。長い公演でしたが、常に物語を新鮮に感じながら演じていました。

藤原 印象的だった出来事をひとつ挙げると、この4人(金蟬、悟空、捲簾、天蓬)で花見をする場面のとき、始めはいつも悟空を見ていて「この純粋無垢な子を守らなくちゃ」と思っていたんです。でも、あるとき、その悟空を見ている金蟬(こんぜん)の優しい眼差しを見ちゃって。それからは悟空だけじゃなく「この尊い親子を守らないと」という風に気持ちが変化したんです。すごくいい発見だったなと思いましたね。

平井 僕もとても印象に残っていることがあって。“ナタク”と戦う場面での最後、いつも自分がどこを見るかということを意識していたんですが、ある日、たまたま敖潤(ごうじゅん)を見たときがあって。そのとき、ふいに敖潤の見え方が変わったんです。敬礼を返す姿から上官としての思いがあふれていたというか……。言葉で説明するのが難しいんですが、見送らざるをえない部下への愛情みたいなものを本当に感じて。それが、皆さんの言う「変化」だと思うんですが、お芝居の醍醐味みたいなものを感じることができた瞬間でした。

椎名 あー、わかる。見える景色で芝居が変わることはあるよね。花見の場面で、俺はいつも花びらで遊んだりして自由に遊びながらみんなを見ていたんですが、たまに目があうと歌詞によっては照れくさいのか気まずい感じでそらされたり、笑いかけたりしてくれて。毎回、それぞれの反応が変わるのがくすぐったくて、勝手にうれしくなっていました。

キャパシティを超えた先で金蟬としての愛を見つけた(鈴木)

鈴木 変わったといえば、李塔天役の山﨑雅志さんが素敵な方で! 金蟬と悟空が時空ゲートのある部屋にたどり着くものの、カードキーのパスワードを変えられてしまいゲートを開くことができない、という場面があるんですね。そのときに山﨑さんは上手(かみて)にあるセットから、台詞を言いながら階段を降りてくるのですが、最初は僕を見ていなかったんです。それが、あるときから途中で立ち止まって、こちらを見て、カードキーを指差す演技に変わったんです。

じつは僕、このときにカードキーを意識したとても繊細な動きをしていたんですが、距離もあるし山﨑さんには見えていないと思っていて。おそらく記録用映像をご覧になったんだと思うのですが、僕の演技に気づき、ご自身の演技を変えてくださったのがすごいなと思いました。

椎名 次空ゲートといえば、ゲートの前に俺(悟空)がいて、観世音菩薩(かんぜおんぼさつ)役の髙﨑俊吾くんに抱きしめられるシーンがあるのですが、抱きしめる力が日に日に強くなっていったんです。悟空は斉天大聖(金鈷の封印から解き放たれた、悟空の本来の姿)の状態だから朦朧としているんだけど、たぶん本能で悲しくて、うわあって抱きつくんです。そうすると、あの筋肉質な腕でさらに強く締めつけてきて、メリメリメリメリ……って(笑)。

今回、悟空はいろいろな人に抱きしめられていて、拡樹(金蟬)にも抱きしめられたけど、力強く抱きしめられるって心地いいんだなって思いました。あのシーン、金蟬はどういう気持ちだったの?

鈴木 あー……。ベースは愛情なんだけど、演技を超えた先があったかな。稽古場で「これが金蟬が思う悟空への愛だな」っていうのを作って本番を迎えたのですが、初日を迎えてから徐々に増していって積み重なり、あるとき自分のキャパシティを超えた先に金蟬としての愛があることを発見して。きっと役をずっと重ねてきたから得ることができた感情だな、と。

椎名 それ、すごくわかった! 2幕の頭でも金蟬に抱きしめられるんだけど、あそこはまわりに人がいたし、まだ途中だったから、そんなに強くないんだよね。でも、最後の場面では抱きしめる力がすごく強くて、心ごと包まれている感じがしたので。今日、それが聞けてよかったです。

――最後といえば、玄奘三蔵(鈴木拡樹)、孫悟空(椎名鯛造)、沙悟浄(平井雄基)、猪八戒(藤原祐規)の一行の登場に驚きと喜びで客席がわきました。
椎名 あれは演出家の三浦香さんからの贈り物です。そして、カンパニー全員からの感謝の気持ちでした。

藤原 喜んでもらえてよかったな、という思いもありましたが、『外伝』では悟空以外の僕らは役として仕草ひとつから、すべて意識的に変えて演じていたので、だからこそ「本当に3人は死んでしまったんだ、と感じてしまって悲しい」という声もあって。そう受け取ってもらえたことは申し訳ない気持ちもありつつ、うれしかったですね。

――捲簾大将と天蓬元帥の最後をどう演じるかについては、おふたりでどんなお話をしていたのでしょうか?
藤原 うんとドラマチックに悲しく別れてやろうか、とか考えていたんです。でも、捲簾の「またあとでな」っていう、最後の台詞のニュアンスが毎回変わっていたので、僕も余計なことを考えずに、その日に来たものを返す、で落ち着きました。「今日、俺らが絡んで積み重ねていった答えはこんな感じだったね」「そうだね」「バイバイ」みたいな思いでいましたね。

平井 たしかに毎公演、その日だけの「別れ」でした。ただ、俺は“ナタク”と戦う時点で死の覚悟をしつつも、負けるつもりはないというか、精一杯やったことを誇りたいと思っていて。だから「きっと天蓬とはまた会えるんじゃねえの?」くらいな感じで演(や)っていました。悲しい場面だからこそ明るく、いつも通りにするほうが見ている人に響くんじゃないかなとも思ったし。だからこそ、いつも通りの別れ、ということは意識していましたね。endmark

鈴木拡樹
すずきひろき 1985年6月4日生まれ。俳優。舞台『刀剣乱舞』シリーズの三日月宗近、『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』主演のシーモア(Wキャスト)、 ミュージカル『SPY×FAMILY』主演の ロイド・フォージャー(Wキャスト)と2.5次元舞台から帝国劇場ミュージカルと幅広く活躍。
椎名鯛造
しいなたいぞう 1986年6月17日生まれ。俳優。舞台『刀剣乱舞』シリーズの不動行光、『HUNTER×HUNTER』THE STAGEのゼノほか多数。唐橋充さんとの「鯛の唐あげフェスティバル」など独自のアイディアあふれるイベントも多数企画。
平井雄基
ひらいゆうき 1992年8月22日生まれ。俳優。『MEMORY BOYS〜想い出を売る店〜』でデビュー。2.5次元ダンスライブ『ツキウタ。』シリーズ、『IdentityV STAGE Ep4』納棺師イソップ・カールなどに出演。
藤原祐規
ふじわらゆうき 1981年4月24日生まれ。俳優・声優・ナレーター。『最遊記歌劇伝』シリーズ」猪八戒、『銀河英雄伝説』シリーズのオーベルシュタイン、『チャージマン研』星くんなど幅広く出演。声優として『CHAOS;CHILD』伊藤真二、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』結城正勝役ほか、ゲーム作品など多数。
作品概要

Blu-ray『最遊記歌劇伝-外伝-』
発売日 2024年5月29日(水)
価格:税込11,550円(税別10,500円)
販売場所:アニメイトほか、全国CD、DVD、アニメショップ、通販サイト等にて
発売元:『最遊記歌劇伝』製作委員会 2023
販売元:株式会社フロンティアワークス
仕様:Blu-ray2枚組

収録内容
DISC-1:本編映像/DISC-2(特典ディスク):メイキング

商品説明
2023年9月10月に東京・ステラボール、大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA WWホ-ルにて公演された新作『最遊記歌劇伝―外伝―』をBlu-ray化!
公演本編に加え、特典ディスクにはメイキングなどの特典映像を収録した、Blu-ray2枚組!

CAST
金蟬童子:鈴木拡樹、悟空:椎名鯛造、捲簾大将:平井雄基 、天蓬元帥:藤原祐規、西海竜王 敖潤:佐奈宏紀、李塔天:山﨑雅志(劇団ホチキス)、観世音菩薩:髙﨑俊吾、二郎神:うじすけ、哪吒太子:北村諒 他

特典
<アニメイト特典>
ポストカード(峰倉かずや先生イラスト柄・Blu-rayジャケットイラスト使用)

  • ©峰倉かずや・一迅社/『最遊記歌劇伝』製作委員会2023