TOPICS 2024.09.17 │ 12:46

第2期決定!
監督に聞いたTVアニメ『小市民シリーズ』の演出術①

高校生の小鳩常悟朗と小佐内ゆきが互いに助け合って「小市民」を目指そうと奮闘する青春ミステリ。『氷菓』『黒牢城』でおなじみの直木賞作家・米澤穂信の人気シリーズをアニメ化した本作は、岐阜市の美しい美術背景をベースに、印象的な演出や音楽、生々しいお芝居が詰め込まれた野心作だ。ここでは監督の神戸守に、さまざまな演出アイデアと、それらがもたらす効果について聞いた。

取材・文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

小鳩くんと小佐内さんの関係性がいちばんの特徴

――いわゆる「青春ミステリ」に分類される作品ですが、原作小説を読んだときはどんな印象を持ちましたか?
神戸 「印象」と聞かれるとちょっと難しいですね。と言うのも、僕はアニメ監督のオファーをもらった状態で読んだために、純粋な読者としてではなく、「どうアニメ化するか」を念頭に置きながらの読書体験だったんです。なので、多くの場合は「このシーン、どうしよう?」という感じでした(笑)。とは言え、印象的だったのは、小鳩(こばと)くんと小佐内(おさない)さんの関係性ですね。作中では「互恵関係(ごけいかんけい)」と表現されていて、たしかに同性同士ならありえるかもしれませんが、ふたりは思春期の男女ですからね。「『互恵』以外の感情は本当にないのかな?」とか、勘ぐりながら読んでいました。

――「互恵」とはお互いに利益を与え合う存在で、言ってしまえばビジネスパートナーですよね。でも、「本当にそれだけなの?」というところですね。
神戸 そうです。そこが本作の特殊性で、いちばんのオリジナリティだなと感じました。

演出の「背景チェンジ」は以前から温めていた

――アニメ化にあたっては、いくつもの挑戦的な演出が施されています。そのひとつとして、本編は通常よりもワイドな「シネマスコープ」(※1:2.35の縦横比)となっていますね。
神戸 これは以前からやってみたかったんですよ。映画的な雰囲気を出したかったので、コンテから画面の縦横比を意識して描いています。やってみると、やっぱり画面がグッと締まりますし、チャレンジして良かったと感じています。

――もうひとつは、会話シーンの「背景チェンジ」です。これは監督のアイデアですか?
神戸 そうです。もともとは『君と僕。』という作品で一度だけ似たようなことをしたんです。キャラクターが心情を吐露するシーンだったんですけど、全体的にトーンが暗かったので、ふたりが電車に乗っているイメージカットを挟み込んだんです。そのときに「これは使えるかも」と思い、それからずっと温めてはいたんですけど、トライできる機会がなくて。本作は推理もので会話シーンも多いので、これは大々的に使えるぞと思って取り入れました。
――それも抽象的なイメージ背景ではなく、リアルな背景というのは珍しいですよね。
神戸 そうですよね。スタッフさんからも「色を変えたり、ボカしたりしないんですか?」と聞かれたんですけど、「普通ならそうするからこそ、やらないんだ」と言い張りました(笑)。

――新たな挑戦ですね。差し込まれている背景は、すべて岐阜市のリアルな風景なんですよね。
神戸 そうです。岐阜市には4回ほどロケハンに行きまして、本編に登場する場所以外もいろいろと回ったんです。雰囲気も景色もすごく良かったので、少しでも多くの場所をお見せしたいなと思い、無理を言って美術さんに描いていただいています。
――会話中の「背景チェンジ」は、すべて監督が指示しているんですか?
神戸 いえ、基本的にはコンテを描かれる方におまかせしています。同じ場所で長い会話が続くと、やっぱり描いているほうも辛くなってくるので「辛くなったら場所を変えていいです」とだけ伝えていて(笑)。辛いか辛くないかは個人の感覚なので、わりと頻繁に背景が変わる話数もあれば、そうでもない話数があったりと、そこは自由にやってもらっていますね。

音楽の付け方やカメラアングルの工夫

――音楽の使い方も特徴的です。1曲をしっかりと長く流す一方で、無音のシーンも多いですよね。
神戸 それにはふたつ理由があるんです。ひとつは音楽を小まめにつけていくと、すべてを音楽で説明してしまう感じがして、それが嫌だったんですね。なので、2分の曲を流したら次は2分間音楽なし、というくらいでいい気がしたんです。音楽の効果も明確になりますし、メリハリが生まれるのではないかと。ふたつめは推理要素が強い作品なので、会話を聞き逃してほしくないという意味合いもあるんです。実際、当初考えていたところで音楽をかけてみたら、どうにも会話に意識が向かないケースがあって、それであえて外したりもしています。
――その他にも本作で挑戦していることはありますか?
神戸 細かいことですが、同ポジションでカメラを切り返して、それを繰り返すという手法を多用しています。通常であれば、同じアングルのカットが繰り返されるのはいい演出とはあまり言われなくて、むしろ悪手だとされているんですよね。

――たしかに。同じカットを繰り返すので、どうしても単調に見えてしまうイメージがあります。
神戸 そうすると「じゃあ、その『悪手』だとされているものを、どうやったらうまく見せられるんだろう?」って思っちゃうんです。これは僕の癖のようなもので、普段から「なんでこの手法は使われていないんだろう?」とか、ついつい考えちゃうんですよ。他にも、場面転換の際に外観カットを挟まずにいきなり内観につないだりしているんですが、それも同じ発想です。やってみると、外観を見せなくてもとくに問題なかったりするんですよね。
――演出術の常識を疑っていくスタイルなんですね。
神戸 そんな意識はないんですど(笑)。でも、そういうことなのかなあ。

狐と狼のイメージは無視したキャラクターデザイン

――次にキャラクターデザインについて教えてください。斎藤敦史さんにはどのようなオーダーをしましたか?
神戸 「斎藤さんの絵を描いてください」とだけお伝えしました。ただ、ひとつだけ「小鳩くんが狐、小佐内さんが狼というイメージは無視してください」ということはお願いしました。第4話で小鳩くんが小佐内さんのことを「あれは昔、狼だったんだ」と言うシーンがあり、(堂島)健吾が「いや、信じんぞ」と返すんですけど、ビジュアルがかけ離れていたほうがこのセリフの説得力は増しますし、ギャップが引き立つと思ったんです。

――小鳩くんと小佐内さんの掛け合いは独特の雰囲気ですが、収録ではどのようなディレクションをしましたか?
神戸 各シーンで細かいディレクションはありましたが、前提として「静かな図書館で話をするくらいの声量でお願いします」とお伝えしました。小鳩役の梅田修一朗さんと小佐内役の羊宮妃那さんには、どちらも素晴らしいお芝居で応えていただきました。なんとなく自分の頭で想像していたキャラクターたちが、おふたりの声を通じてクリアに立体化した気がします。キャストさんたちには本当に感謝です。
――後半は、印象的だった各話のシーンについて聞かせてください。
神戸 よろしくお願いします。endmark

神戸 守
かんべまもる 大阪府出身。アニメーション演出家、アニメーション監督。『風の谷のナウシカ』の制作進行としてアニメ業界に入り、その後、演出家へ転向。主な監督作に『エルフェンリート』『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』『君と僕。』『すべてがFになる』『約束のネバーランド』などがある。
商品情報

Blu-ray
「小市民シリーズ」 Vol.1
2024年10月30日(水)発売

9,900円(税込)
GNXA-2541

収録話
1~3話

初回限定生産特典
1)キャラクターデザイン斎藤敦史・描き下ろしデジジャケット+クリアスリーブ
2)特製ブックレット(神戸守絵コンテ集(一部抜粋))
3)映像特典:AnimeJapan 2024イベント映像(梅田修一朗/羊宮妃那/古川 慎/MC:天津飯大郎)
4)キャストスタッフオーディオコメンタリー
※発売日、仕様、特典、キャンペーン内容は都合により予告なく変更する場合がございます。

  • ©米澤穂信・東京創元社/小市民シリーズ製作委員会