TOPICS 2021.11.09 │ 12:00

監督・大森貴弘に聞く
『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』の舞台裏①

11月5日に公開を迎えた『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』。前作『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』の大ヒットを受けて作られた本作では、すみっコたちが暮らす街に魔法使いの5人きょうだいがやってくる物語が描かれる。大森貴弘監督へのインタビュー前編では、作品のコンセプトについて語ってもらった。

取材・文/福西輝明

すみっコたちの個性を普段の生活のなかで描く

――本作のモチーフとして「魔法」が登場しますが、これはどのようにして決まったのでしょうか?
大森 前作はすみっコたちがよそへ出かけるお話だったので、今回は逆によそからすみっコたちの世界に来訪者がやってくる話にしましょう、という提案が脚本の吉田さんからありました。また、作品に盛り込みたい要素として「ナイトパーティー」や「空から見たすみっコの世界」といったアイデアはデザインチームから出ていたんです。それらを組み合わせて、「魔法の国からやってきた魔法使いが、すみっコたちの夢をかなえる」という「夢」を軸とした物語の骨子を、吉田さんが作ってくださいました。これなら「空飛ぶ船でやってきた魔法使いたちが夜の町を魔法で彩る」など、「魔法使い」という要素ひとつで会議に出た案をすべて解決できる。さらにビジュアル的にも前作と差別化が図れますし、新しいキャラクターも登場させやすいという、素晴らしいアイデアでした。

――魔法をモチーフとして扱うにあたって、どんな映像を作ろうと思いましたか?
大森 魔法のかわいらしく派手なエフェクトを映えさせるために、夜をメインに描こうと考えていました。魔法をかけるときのエフェクトを、なるべくすみっコたちのデザインに合うような、手描きのマンガのような味わいにしたいなと。また、光などの表現も写実的なものは避けて、すみっコの世界に合う光のデザインを作るなど、なるべく原作のイメージに沿う画作りを目指しました。

――先ほど「すみっコたちの生活を盛り込む」というお話がありましたが、映画ではどのように描こうと考えたのでしょうか?
大森 部屋のすみっこにいたがるとか、ちょっとしたことを心配しちゃうといったすみっコたちの個性は、彼らの普段の生活を見せたほうがもっと出せるのではないかと思ったんです。前作では、家の中や喫茶店などで日常シーンが描かれましたが、本作ではそれを町や公園、スーパーマーケットといった生活の身近な場所に広げています。日常の中のちょっとしたできごとに対するすみっコたちの反応をつぶさに拾えば、彼らのかわいらしさをより強調できるなと。また、魔法で夢がかなう展開になったときにも、彼らの個性がどこからきているのか、根幹の部分が伝わりやすいと考えたんです。

挫折した大人の心に刺さるメッセージ

――子供たち以外のターゲットは意識しましたか?
大森 前作の公開後、男性ファンがかなり増えたそうで、そこで「ある程度大人になった男性が見ても、心に届くような深みのあるお話にしてほしい」という要望がプロデュースサイドからありました。そのため「子供向けのコンテンツ」であることを意識しつつも、いろいろな年齢層の方が楽しめるようにと考えました。かわいいキャラものが好きな小中学生や親子連れが中心になるとは思いましたので、あくまでもそこは外さずに、でも物語を読み解いていくと、大人の方の心にも深く刺さる。そんな作品を目指しました。

――その「さまざまな世代」のお客さんに向けてどんなメッセージを込めたのでしょうか?
大森 どんなものでもいいので、「夢」を持ち続けてほしいということです。「がんばって夢をかなえろ!」と言うつもりはなく、たとえかなわない夢だとしても、それも含めてあなた自身の個性になっている。抱えた夢が前に進もうという勇気につながっていればいい。そして、すでに夢破れたあとであっても、そこに向けてがんばったことは、今のあなたを形作る血肉となっている。そんなことが伝わってくれたらいいなと。

――かつて目指したものになれず、挫折した大人に心に深く刺さるメッセージですね。
大森 具体的に「こうなりたかった」というものでなくていいんです。何かが好きだったあの頃、何かに打ち込んだあの頃、自分はいったい何を欲しかったのか。あのときの思いを捨てずに持ち続けることで、他の何かを得られるかもしれない。だから、自分の心からわきあがるものから目をそらさず、大事にしてほしいんです。それが自分自身を見つめ直して、「次」へと歩み出すきっかけになってくれればと思います。endmark

大森貴弘
おおもりたかひろ 1965年生まれ。東京都出身。アニメーション監督・演出家。主な監督作は『地獄少女』『夏目友人帳』『デュラララ!!』など。近年は自身が監督を手がける作品で音響演出も兼任することが多い。
作品情報

『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』

絶賛上映中

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