TOPICS 2021.11.11 │ 12:00

監督・大森貴弘に聞く
『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』の舞台裏②

11月5日に公開を迎えた『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』。大森貴弘監督へのインタビュー後編では、本作のオリジナルキャラクターである魔法使い5人きょうだいの誕生エピソードや『すみっコぐらし』の魅力について語ってもらった。

取材・文/福西輝明

コロナ禍で気づいたリモート作業の利便性

――制作を振り返って印象に残ったことはありますか?
大森 念願かなって挑戦した子供向け作品で、内容を考えること自体が楽しかったですが、制作過程も面白かったですね。コロナ禍のまっただなかということもあって、大部分がリモート作業で進行したんです。シナリオ制作まではなんとか対面でやれたのですが、その後、あがってくる絵のチェック作業などはミーティングアプリのZoomを使って、スタッフと直接会うことなく進めました。とくに本作はCGアニメだったので、あがってきたデータを見ながらZoom上で「ここはこうしてほしい」と、自宅にいながら指示できたのは新鮮に感じました。

――リモートでの作業に不便は感じるところはなかったのでしょうか?
大森 今回の制作に関しては「これは便利だなー」という思うことのほうが多かったですね。CGアニメはすでに用意してあるCGモデルを背景の上に配置して、モーションまでつけて、映像の状態になったものをネットを介して確認できるんです。そのため、映像を見ながら細かい指示を出せるし、指示を受けて修正するほうもやり直しが利きやすい。だから、一度あげてもらったものをブラッシュアップしていく作り方だとリモート作業は向いていると思います。一方で、作画のアニメーションの場合はあまり何度もやり直しが利きません。そのため、最初の打ち合わせで作画スタッフにこちらの意図を可能な限り伝えなければならないし、あがってきたレイアウトを修正するにしても、どう修正したいのかをうまく伝える必要がある。いわば一発勝負の要素が大きいので、顔を突き合わせてのやり取りでないと伝わらないことも多いんです。

すみっコたちがもつネガティブさに共感

――『すみっコぐらし』というコンテンツのどんな部分に魅力を感じますか?
大森 「油っこいから食べてもらえない」とか「正体を隠している」など、表舞台には立てないすみっコたちは独特のネガティブな一面を持っています。でも、そういうちょっとしたコンプレックスって誰もが持っている要素だと思うんですよね。僕自身、今はアニメーション監督としてこんなふうにベラベラしゃべっていますが、20代の頃はすみっこにしかいられないようなキャラでした(笑)。仕事中はほとんど人と会話せず、目も合わせずという感じで、いわゆる「陰キャ」だったんです。そんな僕とかわいらしいすみっコたちを同列に語るのは失礼だと思いますが、すみっこのほうが落ち着くという彼らの気持ちはすごくよくわかるんです。すみっコたちひとりひとりが持っている「陰」の部分は僕自身にもあるし、きっとお客さんたちも心のどこかに同じような要素を持っている。だからこそ、世界のすみで暮らしているすみっコのかわいらしさが、心に響くのではないかなと思います。

――大森監督が特に気に入っているすみっコは誰でしょうか?
大森 最初はぺんぎん?が好きでした。自分が何者なのかわからず、自分自身を探しているという設定が、他のキャラクターとはワンランク違う深みがあって心に刺さったんです。でも、映画の制作を進めていくうちに好きになっていったのは、とんかつですね。最初はコンテを描いているときも、あのモコモコしつつも丸いフォルムがポーズが取り難くて描きにくかったですし、形状や色味からして地味めな印象があったんです(笑)。でも、だんだんあの健気な感じが面白くなってきて。思いあまって三角コーナーをかぶっちゃうところなんかも、愛おしく思えてきたんですよね。えびふらいのしっぽとのコンビ感もかわいらしくて、描いていて楽しいキャラクターになりました。

――これから映画をご覧になる方々へ向けてメッセージをお願いします。
大森 この2年ほど、コロナのせいでなかなか人と会えなかったり、やりたいことができない状態がずっと続いていたと思います。そんななか、会いたい人がいるというのはどういうことか。思うようにやりたいことができなくても、心に秘め続けているものは何なのか。そんなことを映画に込められればと思いながら作りました。かわいらしいすみっコたちの姿から、何かを感じ取っていただけるとうれしいです。endmark

大森貴弘
おおもりたかひろ 1965年生まれ。東京都出身。アニメーション監督・演出家。主な監督作は『地獄少女』『夏目友人帳』『デュラララ!!』など。近年は自身が監督を手がける作品で音響演出も兼任することが多い。
作品情報

『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』

絶賛上映中

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