TOPICS 2021.07.06 │ 12:00

Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3
虚淵玄ロングインタビュー①

虚淵玄(ニトロプラス)が原案・脚本・総監修を務め、台湾布袋劇で随一の知名度とクオリティを誇る制作会社・霹靂國際多媒體股份有限公司(略称:霹靂社)が制作する、武侠ファンタジー人形劇『Thunderbolt Fantasy Project』。その最新作『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀3』の放送が先月、最終話を迎えた。ますますスケールを増した作品世界をより深く楽しめる、裏話満載のロングインタビューを全3回でお届けしよう!

取材・文/前田 久

※本記事はTVシリーズ3期最終回までの内容を含みますので、ご注意ください。

萬軍破は『Thunderbolt Fantasy Project』では初の「殉職者」!?

――話を戻すと、『Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌』で描かれていた西幽のキャラクターをTVシリーズ3期で再登場させるにあたって、どんなことを考えながら新キャラクターを造形したのでしょう? 
虚淵 全体のバランスを意識して、なるべく既存のキャラクターと方向性がかぶらないようにするのは神経を使いました。たとえば、コメディリリーフみたいな物語の要請から生まれる役割に関しては、可能な限り既存のキャラクターに背負ってもらう。そのうえで足りない役割に新キャラクターをあてていくという作り方をしました。

――たしかに、新キャラクターで物語上大きな役割を果たした萬軍破(バングンハ)は、これまで登場してきたキャラクターとは、立ち位置がまた違う印象でした。
虚淵 萬軍破に関しては、西幽が暗君と汚職役人しかいない世界観になってしまっていたので、あの国における正義の在りかを代弁するキャラクターがほしいと思って、あんなキャラクターになりました。最後に明かされた西幽での禍世螟蝗(カセイメイコウ)の立ち位置も、2期の段階で漠然と構想があったんですよ。そうすると、西幽の偉い人はみんな悪い人だということになってしまう。それはさすがによくないなと。悪人が権力を握ってはいるものの、ちゃんと西幽にも良心を備えた人がいると見せるためのキャラクターでしたね。

――非常に熱い最期を迎えて。まさに燃え尽きるというか。
虚淵 ですよねえ。その話だと、萬軍破はじつは『Thunderbolt Fantasy Project』で初の、撮影中の「殉職者」でもありまして……。

――!? どういうことですか?
虚淵 萬軍破の「本尊」は、激しい演技を撮影しすぎて、撮影中に傷がついてしまったんです。そのため、今後、回想シーンなどに元のきれいな姿で出そうと思ったら、人形の傷をなおすしかない。そこまで追い詰められたキャラクターなんです。終盤、片目が赤くなっていたのも、血のりを使いすぎて目のなかに入り込んじゃったからなんです。

――最期の満身創痍な姿は演出ではなかった……。
虚淵 そういうことです。本来だったらもう撮影には使えない状態なんですけど、最後の戦いを経たあとのシーンだったから、その状態で撮影続行しましょうと相談して、続けてもらったんです。

――それは実物を使って撮影する、布袋劇ならではのエピソードですね。
虚淵 キャラクターとしてだけではなく、モノとしての人形にもやはり何か、運命がある感じがしますね。そんなこともあり、非常に思い出深いキャラクターになりました。

異飄渺は企みそのものはうまくいっていた大したヤツなんです

――一方で、もうひとりのTVシリーズ3期からの西幽の新キャラクター、異飄渺(イヒョウビョウ)。ある意味では美味しいのかもしれませんが……。
虚淵 まあ、なかなかかわいそうなというか、シナリオの割を食ってしまったキャラクターではありますね。

――TVシリーズ2期の嘯狂狷(ショウキョウケン)に続く『Thunderbolt Fantasy Project』小悪党列伝の一員という塩梅ですが、また嘯狂狷とはタイプが違って。
虚淵 そうですね。外法の武術といいますか、正当ではない戦い方をするキャラクターを前に押し出したいという狙いがあって書いたキャラクターです。そういう意味では、嘯狂狷というよりは、きれいに戦うことにこだわった殺無生(セツムショウ)のネガみたいなポジションなんですよ。

――ああ、なるほど!
虚淵 ただ、殺無生もそうでしたけど、このシリーズはどうも、そういうある種の「武辺一辺倒」なキャラクターがちょっと活躍しづらい物語になってしまったなあ……という気持ちはありますね。死に方も、本当に企みごとの犠牲になってしまった感じで(笑)。

――キャラが立っていたので「これで退場!?」という感はありました(笑)。
虚淵 いい誤算なんですけど、人形の顔もすごくいい感じで作ってもらえたので、思わぬ方向にキャラが立ったんですよね。

――三白眼気味な造形がまた新しかったです。
虚淵 あまりに没個性なキャラだと、逆にあのオチが見透かされてしまったと思うんです。そういう点では、人形のデザインに助けられましたね。あとまあ、たしかにあっさり死んでしまったとはいえ、一旦はまんまと魔剣目録を奪取してのけたわけで。企みそのものはうまくいっていたという意味では、大したヤツなんですよ。endmark

虚淵玄
うろぶちげん。株式会社ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『仮面ライダー鎧武/ガイム』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『GODZILLA 怪獣惑星』『OBSOLETE』など、数々の映像作品の原案や脚本を手がける。
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