TOPICS 2021.07.01 │ 12:00

Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌 虚淵玄インタビュー

『Thunderbolt Fantasy Project』第三の主人公、浪巫謠。その過去を描いた快作『Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌(セイユウゲンカ)』の裏側を虚淵玄(ニトロプラス)に聞いた。怒涛の勢いで広がる作品世界の今後の展開を占うヒントも!?

取材・文/前田 久

※雑誌Febri Vol.58(2019年12月発売)に掲載されたインタビューの再掲です。

――そんな「啖劍太歳」時代の殤不患一味と、鬼畜眼鏡……嘯狂狷(ショウキョウケン)との因縁も今作の見どころかと。思った以上に深いもので驚きました。
虚淵 前のシリーズで活躍してくれると情が移るんですよね。それでついつい、前日譚で出番を作りたくなっちゃう。せっかく人形もありますし。今回の展開で新キャラの役人を出すくらいなら、嘯狂狷にその役をやらせたい……ということで、ああなっちゃいました(笑)。

――2期に続いてまたいい塩梅の小物ぶりで。小物感はあるけれども、鬼畜で非常にひどいことをやるあの感じは、虚淵さんとしても描いていて手応えがあったのでしょうか?
虚淵 僕としては、あいつはあいつで巧みな処世術を持っているというか、ひとつの賢いやり方をしている人物だと思っているんです。いわゆる「英雄好漢」の生き様にそんなに見劣りしないくらいには、筋の通ったやり方をしているのではないか、と。

――成り上がるためなら何でも利用する姿勢を貫いていますもんね。悪辣なところと可愛げのバランスが絶妙で、興奮した嘲風に殴られる扱いの悪さなど、たまりませんでした。
虚淵 しかも、それで傷を負うわけでもなく「そういうものだ」みたいにあきらめているあたりが嘯狂狷らしいところです(笑)。

――神誨魔械(シンカイマカイ)の一撃を喰らってもギリギリで生き延びるところにも、らしさを感じました。彼と殤不患たちの間には、2期までにまだまだ接点がある?
虚淵 まあ、そうですね。2期で名前が出たとき、あれだけ警戒されるくらいには、繰り返し殤不患たちを窮地に陥れるような展開があったんだろうなと思います。しばらく追いかけ回されたんじゃないでしょうか。

――キャラクターだけでなく、作品の舞台の広がりという点でもいろいろと興味深い描写のある外伝でした。たとえば、あの世界には今で言うライブハウス的な店がある(笑)。
虚淵 歴史上の中国とも全然違う世界観ですからね(笑)。宮廷では澤野(弘之)さんの音楽が流行するファンタジー世界なわけで。あの世界では、あの音楽性が雅なものなんです。

――「雅な音楽」という言葉から連想されるような、いわゆるベタな民族音楽調ではない。そうしたいい意味での遊び心がこのシリーズの魅力のひとつで、嘲風の言動にもバンドのおっかけのようなテイストを感じました。
虚淵 一線を踏み越えてしまったファンっぽいところがありましたかね(笑)。

――手でハートマークを作る動作の細やかさも素晴らしくて。
虚淵 ああいった工夫は現場から出てきたもので、僕も映像を見て驚きました。嘲風は年齢的にも若い設定なので、若いスタッフさんの意見を聞いて、若者の動きを取り入れたそうです。普段の布袋劇でそういう動きをする機会ってなかなかないと思うんですよね。だから、そういう意味でも、楽しみながらいろいろと工夫してもらえたんじゃないかと思います。

――映像の進化はすごいですよね。もともとレベルの高い表現でしたが、さらに加速している。虚淵さんが見て驚いたところはありますか?
虚淵 いやもう、それに関してはどこもかしこもです。とくに今回の外伝は、最初から劇場作品の長さで作ると決めていて、けっこう贅沢な予算の使い方をしてもらえたので、ひときわ見ごたえのある画になったかな、と。テレビはテレビで、創意工夫によって経済的かつ見栄えする作り方でいいんですが。……ああ、あえてひとつ挙げるなら、血しぶきの量が違うところは驚きました。「そこまでやるかー」って(笑)。

――たしかに(笑)。折った竹で顔の横から串刺しにする描写など、こんな殺し方もあったんだ、としびれました。
虚淵 まったくねぇ。アクションに関してはほぼこちらからのオーダーはなくて、完全に現場の工夫で紡いでもらっています。せいぜいセリフや、どっちが押している、どっちが負けている、どっちが逆転する……みたいな段取りをシナリオに書くだけです。それを実際どのように表現するかは、回を重ねるごとに、先方に委ねる部分が多くなっていますね。

――萬世神伏(マンセイシンプク)を使って起こす地割れも、大スペクタクルなシーンに仕上がっていました。
虚淵 あそこの撮影は大変だったみたいですね。なまじ実写で、一発勝負でしか押さえられないすごい画を撮っているだけに、それをどうCGと合成するかというのが大きな課題になったそうです。でも、その甲斐のあるシーンになったと思います。

本編を作り終えたら、それぞれのキャラクター外伝を作りたい

――今後放送を控えている3期、さらに今日のお話だともっと先もありそうですが……ひとまず現状、虚淵さんの中では『Thunderbolt Fantasy Project』に関して、どのような展開を考えているのでしょうか?
虚淵 そうですね。具体的なことをお話するのは難しいのですが、日本のお客さん、台湾のお客さん、両方にびっくりしてもらえるようなギミックを今後の展開に仕込もうと思っています。あえて設定をフワッとさせて作ってきた世界観なので、その分だけ掘り下げようもある。3期のシナリオも、じつはもう、あと最終話を残すだけの状態まできています(2019年10月31日取材日現在)。撮影も好調に進んでいて、また1期、2期とも違ったベクトルの映像を楽しんでもらえるように心がけつつ、世界観も広げられるような3期になっていますので、ご期待いただければ。

――そういえば『西幽玹歌』では、東離と西幽だけではなく、新たに「南方」という土地が描かれました。蛮族がいて、そこにも広大な土地が広がっている。
虚淵 そういうイメージですね。公式サイトのキーワードにも説明がありますが、萬輿(バンコウ)という大きな国が、たまたま窮暮之戰(キュウボノセン)で真っ二つに割られて東離と西幽になった……というだけなので、じつはさらにその周囲にいろいろな国が存在しているんです。電車や飛行機で移動できる世界ではないので、そういう国ごとの交流は足頼み。だから、あの世界には未開の土地も相当あるんだと思います。萬輿の民がまだ出会っていない国もあるでしょうし。

――聞くほどに気になる話ばかりで……3期の物語は、時系列的には先に進むのですか?
虚淵 進みます。いわゆるナンバリングされた『東離劍遊紀』とついた本編シリーズは、なるべく時間軸を先へ先へと進めて、過去に戻ったり裏話をするのは外伝で。ひとまずはそういう方針で進めたいと思っています。

――今後、外伝で掘り下げてみたいキャラクターはいます?
虚淵 どのキャラもその余地はあると思っています。本編シリーズを完全に作り終えたあとで、それぞれのキャラクターの外伝を作っていくような拾い方ができるコンテンツになるといいなと思っています。

――広げる先は大量にありますもんね。
虚淵 そういう作り方をするのは初めてなので、楽しいです。

――そういえば、『Thunderbolt Fantasy Project』そのものとは離れますが、関連した動きで、霹靂社のオリジナル布袋劇シリーズが、Netflixで『PILI人形劇: ウォー・オブ・ドラゴンズ』として配信され始めました。
虚淵 こういう流れを作りたくて始めた『Thunderbolt Fantasy Project』だったので、うれしいです。もうちょっと世界に注目してほしいというか、台湾の外からも見ることができるコンテンツになってほしいという気持ちがあって、それがようやくNetflixで可能になった。あらためて見るとやはり味わいが違って、「これがあるべき姿なんだよな」みたいな感覚にはなります。『Thunderbolt Fantasy Project』は、けっこう日本向けにチューニングをしているので。

――以前の取材で少し聞きましたが、霹靂社制作の布袋劇では、素還真(ソカンシン)という主人公を巡る壮大なサーガの一部が、ほとんど何の説明なくスタートするのに驚きました。
虚淵 ええ、そうなんです。しかも、主人公なのにいきなり死ぬ(笑)。ただ、日本の作品にもそうした、壮大な年表の途中をいきなり作品化して見せるような内容で成功しているものがありますし、世界の例を見ても、『スター・ウォーズ』はいきなりエピソード4から始まるわけですよ。うまく広がっていってほしいですね。

――この流れで何か『Thunderbolt Fantasy Project』と絡めた展開も……?
虚淵 じつはもう、ちょっとしたお遊びで、殤不患と凜雪鴉(リンセツア)が向こうの本編にカメオ出演したりはしているんです。本格的なコラボは……こちらのシリーズも長く続いて、先行きでそういう夢が広がればうれしいですが、まだまだです。そんなところも含めて、今後にご期待いただけたらありがたいですね。endmark

虚淵玄
うろぶちげん。株式会社ニトロプラス所属。小説家・シナリオライター。主な作品に『魔法少女まどか☆マギカ』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『OBSOLETE』などがある。
作品情報

『Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌』

Blu-ray、DVD好評発売中!

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