物語に刺激を与えた、新人ヒーローたちとの世代の差
――今回の『タイバニ2』では、仙石昴、トーマス・トーラス、ラーラ・チャイコスカヤという3人の新たなキャラクターが登場します。キャラクターの人数が多いなかで、どのように彼らの個性を際立たせようとしましたか?
加瀬 彼らは新人ヒーローであり、年齢も若い。そういう世代が入ることで、虎徹をはじめとする年上のヒーローたちが突き上げられる構図が描けたと思います。新人ヒーローからすれば、バーナビーですらおじさん扱いされてしまうわけで、そういう世代の差を物語上の刺激にもできたかなと。その中でも昴とトーマスの関係は、タイガー&バーナビーと近い部分があって。昴とトーマスの関係は、第1期の頃の虎徹とバーナビーのオマージュのようにもなっていますよね。
――では、昴とトーマスの成長もひとつのテーマになっていると。
加瀬 そうですね。だから、昴は最初トゲトゲした雰囲気でしたし、ヒーロー然としていないMr. ブラックという名称にも納得がいっていない。だけど、キャラクターとしてはとても素直なので、彼の成長過程を描くのはすごく楽しかったです。あの子の素直さが、他のヒーローに影響する場面もあって。
――昴の正直すぎる言動はたしかに目立っていましたね。
加瀬 普通だったら、あのくらいの年代の子は自意識が強いので「ごめんなさい」と謝るのもなかなかできないじゃないですか。でも、それをすっと言えちゃうのが昴の良さですよね。息子にしたいキャラクター、ナンバーワンです(笑)。
――それくらいの素直さがあります(笑)。
加瀬 ただ、言おうとしたことは頭できちんと整理してからしゃべりなさい、と思うことも多々ありましたが(笑)。
――そういった直情的なキャラクターが、トーマスと組んでいるのが面白かったですね。
加瀬 昴の暑苦しいくらいのフォローを、トーマスは相当ウザがっているでしょうね。トーマスの過去は第1クールでも少し明らかになっていますが、今後の物語でも描かれていくので、楽しみにしてもらいたいです。
――ラーラは母親や他のヒーローたちに対しても本音を話せない、名前通り「猫」をかぶっているキャラクターでした。
加瀬 その見立てはある意味正解です。そういう風に見られるように意識して演出してきたので。本来は優しい子だし、ママのことも嫌いじゃないから言うことを聞いているのですが、パオリンとバディを組んだことで新たな視点を得て、「ママに言われてきたことは本当なのかな」と違和感をおぼえるようになる。その結果、ますますパオリンへの信頼を深めて、離れず行動するようになっていくわけです。
――パオリンが自分のために尽くしてくれていると気づいてからは自発的に行動するようになりますし、柔軟な考えを持っていますね。
加瀬 そうですね。まだ10代なのに、いや、むしろ10代だから、そのあたりはしっかりしている子なのかもしれません。
ニューヒーローのNEXT能力は今までにない表現に
――ニューヒーローのNEXT能力は、これまでとはまた違う見せ方をしなければいけない部分だったと思います。
加瀬 そうですね。昴のバリアも、トーマスのサイコキネシスも演出に悩みました。サイコキネシスは、文字上では「手が光ることによって何かものを動かしているように見せる」と簡潔に表現できますけど、アニメーションでの表現はなかなか難しかったです。昔だったら、手から物体まで光線がビビビと伸びて動かしていくような見せ方だったと思いますが、それはやりたくなかったので(笑)。
――できるだけ今までになかった表現にしようと。
加瀬 それが大変でしたね。Mr. ブラックのバリアは、いちばん時間がかかったかもしれません。バリアは大きな一枚のパネルではなく、蜂の巣の構造(ハニカム構造)を参考にして、小さなバリアが連結したものにしました。この構造だと、大量に展開するときも画(え)に変化がつけられるので。じつは、このバリアにもまだ秘密が隠されています。
――マジカルキャットの水の表現はどのように進めたのでしょうか?
加瀬 パオリンの電撃、ブルーローズの氷と同じ方向性で表現したかったので、それはCG担当の方にお願いしています。水量のレベルで「大」「中」「小」のモデルを作って、CGで表現できないものに関しては作画で動きを足しました。気を使ったこととしては、あの水は手のひらから出ているのではなく、空気中にある水分を集めて放出しているんです。ラーラ本人も「飲んだ水、出してるわけじゃないので」と言っていますが(笑)。あと、ステッキをどういう風に使うかも話し合いましたね。ステッキの先の空洞部分に手のひらをつけて、そこから水を出すアクションを考えたり。あのアクションはショーアップ要素が強いので、ぜひマジカルステッキとして商品化をお願いしたいです(笑)。
――そうしたNEXT能力の表現も含め、CGの進歩が作品に反映されたところはありますか?
加瀬 基本的にヒーローは全員CGでモデルが起こされているので、引きのカットではそれをそのまま使います。作画だと、それぞれのヒーローを小さく描くのは大変ですから、それはありがたかったですね。キャラクターの表情についてもCGを使っていたりします。CGは使えるカット数に制限があるのですが、作画が不向きなところで使用できれば、より効果的に全体の質感を向上させる力があります。
- 加瀬充子
- かせあつこ 福島県出身。アニメーション監督、演出家。1970年代からアニメーターとして活動を開始し、数々のロボットアニメ、バトルアクションアニメに参加。監督作に『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(第7話まで)、『最終兵器彼女』、『ヤング ブラック・ジャック』などがある。