過酷だった『無敵鋼人ダイターン3』の制作
富野 たしかにそのとおりなのですが、本当に作家としての力量があって物語を作ることができれば、もう少しふっくらと作ることができたんじゃないかと思えます。作家性がないばかりに、細田監督が説明してくれたようなことで、もっともらしいものが作れたから続けてこられたという反省は自覚的には持っているんです。もうひとつだけ対比を思いつきました。『無敵鋼人ダイターン3』という作品では、一話完結でいろいろなジャンルの物語――とくにギャグとかコメディを意識して作りました。この作品は、とても過酷な仕事だった。もっと楽な仕事をしなければ、週ペースの作品はとてもやっていけないというのが『機動戦士ガンダム』を作るいちばんの理由でした。
無敵鋼人ダイターン3 ©創通・サンライズ
細田 ああ、なるほど。
富野 つまり、シリアスなものを作っているほうが楽なんです。もっともらしいセリフは30秒もつけれど、ギャグは3秒しかもたないんです。『無敵鋼人ダイターン3』はそれを何個も入れなければ成立しないわけで、毎週それをやっていたら本当に潰れそうになってしまった。だけど、本来の芸能というのはそっちなのだろうと今でも思っています。でも、それは天性の才能を持った劇作家という人ができることであって、学習をしたからできるようになるものではないと『無敵鋼人ダイターン3』のときに骨身に沁みました。それから逃げるためにシリアスな『機動戦士ガンダム』をやったし、毎週毎週の仕事をこなしてギャラをもらわなければ、住宅ローンが返せないという切迫した事情もあったから、そういう方向へと流されてしまったんです。先ほどの細田監督の解説からもわかるとおり、能力がなくてもシリアスをやればそれらしいものができるという、これはコツですね。
細田 でも、今回の展示を拝見していると『無敵鋼人ダイターン3』の直後に『機動戦士ガンダム』が放送されているわけで、それはつまり『ダイターン3』の放送中に『ガンダム』の企画を考えているわけですよね。これは本当にスゴイことなんです!! 僕らはなんとなく企画書や展示物を見てしまうけれど、準備期間もほとんどないのに『ダイターン3』の最終回の翌週に『ガンダム』の第1話が放送されていることの凄さ。これは皆さんに伝わりますかね(笑)。今、アニメーションを作っている現場の人たちにとっては、あんなことはとてもじゃないけどできませんよ。
富野 客観的にはそういう風に見えるだろうけど、実際には準備期間はあったんです。『ダイターン3』は本当に辛かったから、次はシリアスにいくぞと決めたときに『ガンダム』の第1話はどんなに楽だったか!(笑)
細田 ハハハハ。
富野 そういう反動があるから、『ガンダム』の第1話はビビッドに作れた。
細田 たしかに生き生きしたカットの連続ですよね。
富野 だから楽をしたければとか、生活をしていくうえで重要なのは『ガンダム』みたいなものを作ったほうがいいですよという言い方をする。笑いで生活を立てようというのは、地獄の選択肢です。そう簡単にできるものではないし、クラスでちょっと人気があって笑いが取れるからといって、そこから笑いだけで50年60年やらなくちゃいけないというのは過酷な生活だと覚悟しておくべきです。(つづく)
- 富野由悠季
- とみのよしゆき 1941年生まれ。神奈川県出身。アニメーション監督、演出家。原作となる小説あるいは脚本を執筆することもある。主題歌などの作詞を手がけることもあり、多方面での活躍が知られる。代表作に『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』などがある。現在は劇場版『Gのレコンギスタ』(全5部作)の制作に携わっており、シリーズ第3作目となる劇場版『Gのレコンギスタ Ⅲ』「宇宙からの遺産」が2021年7月22日に公開。
- 細田 守
- ほそだまもる 1967年生まれ。富山県出身。アニメーション監督、演出家。東映アニメーションを経て、自身のアニメーション映画制作会社スタジオ地図を設立。代表作に『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』などがある。自身が原作・監督・脚本を手がけた最新作『竜とそばかすの姫』が2021年7月16日に公開され、3週連続で週末動員ランキング首位を獲得、8月26日現在現在動員390万人、興行収入54億を突破している。また、9月10日(金)より、最高峰の音響と映像が楽しめるドルビーシネマ上映も決定!