TOPICS 2021.08.19 │ 12:52

歌姫100年の旅を振り返る 『Vivy』シリーズ構成・長月達平×梅原英司対談③

『Vivy -Fluorite Eye’s Song-(以下Vivy)』シリーズ構成・長月達平と梅原英司のインタビューも今回で最終回。「AI」×「歌」から始まった本作では、ヴィヴィが「歌で世界を救うこと」をマストに置いていた。AIたちの反乱を覆す鍵となったのはヴィヴィが作った「創作物」。歌に心を込めるという問いを突き詰めたAI・ヴィヴィが響かせる歌は、物語世界のAIや人類、そして観客である私たちにどんな波紋を作ったのか? 両氏に「AIと創作物」から「こじらせた男・垣谷」までじっくりうかがった。

取材・文/渡辺由美子

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

使命を貫くために起こる悲劇に立ち向かうヴィヴィ

――梅原さんは『Vivy』でご自身の趣味を入れたところはありますか?
梅原 趣味……というか、好きなセリフやシーンで言えば、第6話ですね。ヴィヴィが自分のことを「滅びの未来を変えるための、AIを滅ぼすAIです」と自分の立場を明確に規定したうえで、似姿のグレイスと、本物のグレイスを破壊する一連のシーンです。原案小説には、アニメでは使っていないセリフがあるんです。尺の都合と、アニメのヴィヴィのキャラクターからは若干ずれてしまうという理由だったんですが、小説ではヴィヴィが似姿のグレイスを破壊する前に、挑発するんです。「来なさい。AIとして、その使命を果たしなさい」と。

――ヴィヴィが挑発をするというのもカッコいいですね!
梅原 でも、ヴィヴィの本心では当然、似姿のグレイスも、本物のグレイスも破壊したいわけではない。けれども、ヴィヴィも「AIを滅ぼすAI」として使命を貫かなければならない、という。ままならない状況でも、自分の使命や役目を貫き通さなければならないという悲劇や、それに立ち向かうキャラクターがとても好きですね。

「AI」×「歌」という題材だったから「歌に心を込めるとは何か」を追求できた

――『Vivy』は「AI」と「歌」を題材にした物語でしたが、振り返ってどのようなことが描けたと思いますか?
長月 「AI」と「歌」というお題をいただいたときから、ヴィヴィというAIが「心を込めて歌うとはどういうことか」に執着するドラマを自然と思いつけたのが良かったです。「歌に心を込める」って、人間が主人公でもできる題材ですが、人間だと個人それぞれにいろいろな性格や生活パターンが考えられてしまうので、シンプルにテーマを突き詰めるようなお話にはならなかったと思うんですね。
梅原 たとえば、人間を主役にしていたら、作品のなかでどんな定義づけをしても、断定しづらくなってしまうと思うんです。今回、ヴィヴィからは「心を込めるというのは、思い出と一緒に歌うこと」という答えが出てきたけど、もし、人間が主役だったら、たとえば「記憶(思い出)を失っちゃった人は心を込めて歌えないのか?」みたいな疑問が出てきてしまう。だけどAIであれば、人間のような複雑な事情などがないから、テーマをシンプルに描くことができる。これは、AIがイノセントな、純粋に目的に向かっていく存在であるという面もあるのかなと思います。
長月 ヴィヴィにしてもエムにしても、AIのイノセントさは、お話を作るうえでかなり有効だった気がしますね。
梅原 これはAIというものが、2021年時点では世界にあまりなじんでいないからこそ描ける部分があるんですけれども。AIが主役であれば、どんな定義でもそこに納得がいくようにストーリーを組めれば、お客さんはわりとすんなり受け入れてくれるという利点があったと思います。
長月 AIのヴィヴィがまだ感情があまり育っていないスタートラインから、本人にとっての答えを導き出すゴールに至るまで、見ている方もヴィヴィと一緒になって、出来事や感情を順々に追いかけることができた。それがあったからラストの「世界を救うために歌う」ところに自然とたどり着けたのではないかなと。そう考えると、『Vivy』は「心を込めて歌う」というテーマにすごく真摯に向き合えた作品だなと思います。
梅原 ヴィヴィというキャラクターが100年の旅を経て、「心を込めるとは、思い出と一緒に歌うことなんだ」という本人にとっていちばん大事な答えを得る。だけれども、これはあくまでヴィヴィの答えなんですよね。
長月 そうですね。たとえば、ディーヴァが第9話で「この歌を聞いてもわからない?」とヴィヴィに問いかけていましたけど、「ヴィヴィ」と「ディーヴァ」の答えは違うものだと思いますし。

――そうなんですね……!
長月 「テーマ」はシンプルに描けましたが、「答え」はAIによって違う。これは「愛ってなんだろう」という究極的な問いと同じで、答えは人それぞれ違う。自分たちも「『Vivy』の物語の答えとしては、この結論にしました」というだけなので、皆さんとヴィヴィの答えが同じにはならなくても、自分はこうだと思ってくださっていただければいいんです。『Vivy』という作品が、自分がふだん考えないことを呼び覚ますきっかけになればいいんじゃないかなと思います。endmark

長月達平
ながつきたっぺい 小説家。『Re:ゼロから始める異世界生活』『戦翼のシグルドリーヴァRusalka』などを発表。アニメにも積極的に参加し、『Re:ゼロ~』ではシナリオ監修を、『戦翼~』ではシリーズ構成・脚本を担当。『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』では構成補佐として参加。
梅原英司
うめはらえいじ シナリオライター。ゲーム『CHAOS;CHILD』シナリオを手がけ、同アニメにはシナリオ監修で参加。『Re:ゼロから始める異世界生活』脚本のほか、『曇天に笑う 外伝』シリーズ構成・脚本、『劇場版ポケットモンスター みんなの物語(2018年)構成・脚本を担当。
作品情報

Vivy -Fluorite Eye’s Song-
BD/DVD Vol.03は2021年8月25日発売

  • ©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO