合理的でユーモラスなマツモトは福山潤さんの演技があったからこそ
――では、AIのマツモトに関してはいかがでしょうか。前回「バディもの」の相方というお話をうかがいましたが、マツモトの物語上の役割から教えてください。
長月 俺は海外ドラマが好きで「バディもの」をよく見るのですが、バディものには、最初は仲が悪いけど、次第にお互いを認め合って最後には本当のパートナーになる、という王道の流れがありますよね。主人公のヴィヴィを成長させるためには、この世界の情報を知らないほうがいい。だから、パートナーAIには「こんなこともわからないんですか?」と彼女の知識のなさを嘆いたり、彼女を旧式とあなどって「何であなたなんかが」とか言ったりする訳知り顔のキャラクターだとハマるのではないかと思ったんです。
――マツモトはヴィヴィと対になるように生まれたんですね。
長月 そうですね。ふたりはシンギュラリティポイントをいくつも乗り越えて、最後のエピソードでマツモトがヴィヴィを認めて「あなた以外は考えられなかった」と思うように育てていきたかった。実際にふたりを動かしてみたら、AIらしからぬ判断をして突っ走るヴィヴィと、行動自体はAIらしい合理性に則ったものだけど、AIらしからぬツッコミやユーモアを醸し出すマツモトという、すごく相性のいいコンビが生まれました。
――マツモト役の福山潤さんの演技はどのように決まっていったのでしょうか?
長月 マツモトの早口は、最初は作劇上の都合だったんです。毎話、時代が変わるので「今の時代で何が起きているか」と、「今、自分たちがやらなければいけないこと」の説明が必要なんです。それを30分という短い尺(時間)にどうやって収めたらいいか。そのときに考えた解決策が「めちゃくちゃ早くしゃべらせよう!」という、力業に近いもので。そして「おしゃべりな説明役のAI」という設定を考えたときに、俺の頭のなかに昔、福山さんが演じていたキャラクターがふと浮かんできたので、セリフを書くときに脳内でマツモトを福山さんの声でしゃべらせてみたら、そのままバチッとハマってしまった。
――アテ書きに近いですね。
長月 正直、台本の文字量も多くて、実際の尺に収めるのは無理だろうから、入らなかったら文字量を削ろう……と思っていたのですが、いざ福山さんがしゃべったら尺が余ったっていう(笑)。
――マツモトは、早口で毒舌な面もあるのに、どこかユーモラスで温かみがありました。
長月 あれは福山さんの演技がすばらしかったんです。マツモトの合理性ゆえの冷たい発言も、ユーモアとか人間性みたいなものを感じさせる口調にしてくれました。福山さんはマツモト役に何を求められているのか、ご自身の役割を、こちらがディレクションするより先に的確に理解してくださっていました。すごく頭の良い方で、論理立てて演じていらっしゃるんですね。その場の雰囲気とか即興ではなく、「マツモトが今置かれている状況がこうだから、こういう役割で演じよう」というように、すべてに理由があるんです。俺が本当に感心したのが第9話の電子戦。マツモトとアントニオが戦っているときの息づかいとか「はっ」「パージ!」「開始です!」とか言っているところ、あそこは全部アドリブなんです。
――えっ!?
梅原 あの電子戦は、脚本ではそういうセリフは1個も書いていないですね。
長月 福山さんに聞いてみたら、「マツモトが電子戦で何をしているのか、見ている人によくわかるようにしたいので、自分のなかでシーンを整理して、こうだろうと思って演ってみました。もし合わなければ外して下さい」ということだったんです。結果的に全部採用で、福山潤はすごいなと。種﨑さんも、福山さんも、こちらの意図以上のことをご自身で考えて演じてくださった。『Vivy』のキャストは本当にすごいんですよ!
- 長月達平
- ながつきたっぺい 小説家。『Re:ゼロから始める異世界生活』『戦翼のシグルドリーヴァRusalka』などを発表。アニメにも積極的に参加し、『Re:ゼロ~』ではシナリオ監修を、『戦翼~』ではシリーズ構成・脚本を担当。『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』では構成補佐として参加。
- 梅原英司
- うめはらえいじ シナリオライター。ゲーム『CHAOS;CHILD』シナリオを手がけ、同アニメにはシナリオ監修で参加。『Re:ゼロから始める異世界生活』脚本のほか、『曇天に笑う 外伝』シリーズ構成・脚本、『劇場版ポケットモンスター みんなの物語(2018年)構成・脚本を担当。
Vivy -Fluorite Eye’s Song-
BD/DVD Vol.03は2021年8月25日発売
- ©Vivy Score / アニプレックス・WIT STUDIO