TOPICS 2022.01.18 │ 12:00

『ワンダーエッグ・プライオリティ』が特別なアニメだった理由①

世の中を席巻する数々の大ヒットドラマを生み出した野島伸司(以下、野島)が、初めてアニメの原案・脚本を手がけた『ワンダーエッグ・プライオリティ(以下、ワンエグ)』。若きクリエイターたちの情熱と瑞々しさがありつつも、行き届いた演出力で見せる個性豊かなフィルムとなった『ワンエグ』が、なぜオンリーワンになり得たのかをコアスタッフへの取材をもとに探る。第1回はキャラクターデザイン・総作画監督の高橋沙妃(以下、高橋)と監督の若林 信(以下、若林)に、キャラクターのビジュアル面の制作について聞いた。

取材・文/日詰明嘉

生きているキャラクターを描くための履歴書

本作がTVシリーズ初監督作品となる若林は野島から脚本を受け取った際、「女の子の青春群像劇的な部分をドキュメンタリックに作ってほしい」と伝えられたという。「キャラクターが勝手に動くことを求められていると理解しました。ロジックで固められたストーリーは、たしかに綺麗に説明できると思いますが、それだけでは面白くならないと思うんです。最初はキャラクターをわかりやすく描こうとするあまり、セリフや描写に力が入りすぎてしまったので、野島さんに相談したところ『もっと、何を考えているかわからないぐらいの距離感がいい』と教えていただきました。『その人が予定調和を壊すことで面白いドラマが生まれる』。僕自身も予定調和にはしたくないと思っていたので、粘り強く取り組んでいきました」

本作の制作において最初に取り組んだのは、キャラクターづくりだった。野島が書いたシナリオはすでに存在する。しかし、そこにはまるで演出の力を試すかのように余白が残されており、魅力的なドラマを描くためには、生き生きとしたキャラクターを作り上げる必要があった。現場スタッフたちは、そのキャラクターの性格や家庭の様子、特技や趣味、好きな俳優は誰かといった詳細な履歴書を作成し、キャラクタードラマや演出を構築していく。

「いろいろなスタッフに『この人物ってこういうことを言うと思う?』と尋ねることを繰り返し、そこで少しでも『言いそう!』という意見があれば採り入れました。そこはフィーリングでいいんです。実際の人だって、すべてが明確な理屈で説明できるわけではありませんし、僕自身も突拍子もないことをするようなキャラクターが好きなんです。大事なのは『いかに飛躍できるか』。設定の外にそうした考える余地が生まれたとき、このキャラクターは生きていると感じました」(若林)

表面的な「属性」に頼らず本質を捉えたキャラクターに

キャラクターデザインの作業に入るに当たり、若林は高橋に白羽の矢を立てた。「ラフを見たときに『この人がキャラクターを描いたら魅力的になるだろう』と想像できたのが高橋さんの絵でした」。高橋は、これまでに『ダーリン・イン・ザ・フランキス』や『空の青さを知る人よ』で作画監督を務めるなど若手ながら頭角を現しており、オリジナルのアニメーション作品でキャラクターデザインを担当することを夢見て業界に入った人物だった。「私は『少女革命ウテナ』のような女の子の心情や戦いを描く作品が好きでしたし、野島さんが描く人間の暗さやナイーブな面にも惹かれていたので面白そうな企画だと思いました。誰も完成形を知らないオリジナル作品がどのように作られているのか、そして工程の上流にあるキャラクターのデザインがどのように構築されていくのかにもとても興味があり、ワクワクしながら現場に入りました」(高橋)

キャラクターづくりは若林と高橋、そしてアニメーションプロデューサーの梅原翔太らが中心となり、主人公・大戸アイから着手した。高橋は当初、アイの「引きこもり」という要素に注目して彼女の表情を暗めに描いたが、若林は「彼女は結果的に引きこもりになっているけれども、好奇心旺盛でいろいろなことに興味がある子なんです」と表層的な「キャラクター属性」を良しとしなかった。高橋は若林とディスカッションを重ねてイメージを擦り合わせ、アイが持つ本質的な明るさを捉えて表情集を描いていった。

高橋による大戸アイの初期ラフ案
「アイちゃんは毛量が多く、髪型的には野暮ったい感じです。シルエットのボリューム感や影の付け方で重さを表現しました」(高橋)
作品情報

『ワンダーエッグ・プライオリティ』
好評配信中
Blu-ray&DVDシリーズ好評発売中

  • ©WEP PROJECT