ツクルナとミカサの秘密
――ここからは映像上で疑問に思ったことを聞きたいのですが、シブヤサーバーにいたツクルナというキャラクターはどのような存在なのでしょうか?
下田 先に説明しておくと、「オルタモーダ編」の原案となった「α」という企画では、オルタモーダたちは全員独立した個人として存在しています。『STA』で描かれている彼らは今回用に設定が異なっていて、ハル・ヴェルトというマスターから生まれた多重人格の分身なんです。ハルの幼児性の部分がセフトになり、兄貴分的なところがギテンになった。シドは、自家中毒の部分ですね。そして最後に残ったハルの良心が、ツクルナです。
――なるほど。
下田 そしてツクルナ自体は、原案の「α」ではオルタモーダ世界における人工幻体なんです。要するに、シズノと同じ立場。
――イェルということですね。
下田 オルタモーダ世界のイェルですね。だから、記憶を失ったシズノと接触したときは、彼女のサポートをしています。
――ふたりが接触したシーンの直後、シズノが記憶を取り戻すのも同種としての共鳴があったのでしょうか?
下田 そうです。ツクルナはハルの良心そのものなので、オルタモーダとセレブラントの衝突自体にも悲しみをおぼえています。
――ちなみに、今回はセリフも活躍シーンもあるミカサというオケアノスのオペレーターは何者ですか?
下田 TVシリーズのときにクロシオ(・ハヤト)というオペレーターがいたのですが、彼はガルズオルムに寝返って、永遠の命を受容しようと考えました。結局は断念しましたが、クロシオとほぼ同一のポジションとして『ADP』からミカサ(・タモツ)を登場させました。じつは、彼もクロシオと近しい思想を抱いているキャラなんです。
――ということは、ラストシーンでオルタモーダ側が使う金色のオケアノスが映りますが、ミカサもそこに乗っている?
下田 はい。今回の『STA』のオルタモーダはハルとその分身のみなので、じつはひとりきりの存在なんです。そんな彼に同情したのか、新たな探求ができると思ったのか、ミカサはそちらに付くことを決断した。あのあと金色のオケアノスが――名前はキヴォトス(ギリシャ語訳・方舟)というのですが、どこに行くのかも設定上は決まっています。その行き先をいつ発表できるのかはまだわかりませんが、ミカサに関しては、もうひと捻(ひね)りしています。
シズノの罪悪感を解放してあげたかった
――劇中のポイントとなるのが、キョウVer.1(幻体)がシズノと、キョウVer.2(実体)がカミナギと、それぞれタッグを組んで出撃するシーンです。幻体、実体のふたつのキョウとの共存は『STA』で描きたかったことなのでしょうか?
下田 シナリオを詰めていくなかで、必然的にそうなっていきました。『ADP』はキョウVer.1とシズノの物語だったので、『STA』ではその先を描きたかった。もうひとつ、『STA』では記憶を失ったシズノが、カミナギの「後輩」として登場するじゃないですか。あのシーンで、シズノとカミナギが共闘できることを描写できた。その結果、キョウVer.1とシズノだけでなく、キョウVer.2とカミナギがペアとなって、それぞれ“元サヤ”に収まるわけです。
――三角関係のはずが四角関係になり、結果、丸く収まったと。キョウVer.1とシズノは、オルタモーダ戦のあと、ふたりでいることを選びます。
下田 シズノは、かつてキョウVer.1が自爆しようとしたのを助けることができなかったわけです(TVシリーズ第1話)。そのせいで彼女は強い罪悪感を背負ってしまった。そこから解放してあげないと、シズノはこのあと心の底から笑うことはできないだろうと。だから「オルタモーダ編」では最後まで一緒に戦いますし、戦いのあと、幻体として不安定な状態であるキョウVer.1を見守るべく、冬のサーバーにやってくるわけです。
――ところで、あのサーバーにはキョウVer.1とシズノ以外には誰か存在するのでしょうか?
下田 いや、ふたりだけですね。幻体として再構築不可能なデータや断片は存在しますが。キョウVer.1は、もしかしたら数秒後には量子崩壊しかねない状態です。そのときまでは一緒に寄り添うというシズノの愛です。わざわざ転校生の制服なのも意味があります。
データだけど人間らしく生きたいセレブラントたち
――『ゼーガペイン』が「是我痛」という言葉から転じたように「痛みを抱えて生きることこそ大切」というテーマが本作でも貫かれています。下田監督のその思いは、TVシリーズの頃から今日まで変わらないのでしょうか?
下田 変わっていないですね。変化、ということで言えば、キョウは「変わってしまったら俺じゃない」という考えを持っていて、一方のナーガは「変化を恐れる者の終着駅は滅亡だ」という考えです。どちらも正しいと思っているのですが、『ゼーガペイン』という作品は「不変こそ美」というか。もちろん、新しい技術は取り入れるべきだし、オルタモーダなど新しい種との接触もあるなかで、個々の問題に対する対策や変化は重要です。ですが、データ(幻体)になっているけれど人間らしく生きたい、人間らしさを失いたくないと考えているのがセレブラントたちなんです。
――最後に『STA』を複数回観る人への見どころを聞かせてください。
下田 細かいところですが、今回登場するアルティールには1カットずつですが、それぞれ型式番号を付けています。キョウVer.1が乗っているアルティールと、キョウVer.2が乗っているアルティールでは番号が異なりますし、じつは3号機も登場しています。ぜひ型式番号付きアルティールを発見してください!
- 下田正美
- しもだまさみ アニメーション監督・演出家。1996年、『セイバーマリオネットJ』で監督デビュー。『ゼーガペイン』では、TVシリーズ、『ADP』、『STA』と、すべての作品で監督を務めている。
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