Febri TALK 2022.08.15 │ 12:00

斎藤敦史 アニメーター

①アニメーションの面白さを知った
『マインド・ゲーム』

キャラクターデザインを務める『ラブライブ!スーパースター!!』をはじめ、数々の注目作で腕をふるうアニメーター・斎藤敦史に影響を受けた作品を聞くインタビュー連載。第1回は、アニメに関心を持つきっかけになったという、あのカルト的名作について。

取材・文/宮 昌太朗

映像の特殊性に衝撃を受けた

――斎藤さんが自分から「アニメを見よう」と思ったタイミングはどのあたりになるのでしょう?
斎藤 自分の場合、それがすごく遅くて――もちろん、食卓で夕方とか夜の7時頃にやっていたアニメを見る機会はあったんですけど、自分から「見るぞ」と思って、初めて触れたのは20歳くらいなんです。それこそ、大学のときに見た『マインド・ゲーム』がそのうちの一本なんですよね。

――それはかなり遅いですね。他に子供の頃、夢中になっていたものというと……。
斎藤 部活がテニス部だったので、テニスを一生懸命やったり、あとはゲームセンターに通いまくったり。当時は『鉄拳』や『パワースマッシュ』というテニスゲームや、いわゆる「音ゲー」と呼ばれるゲームでめちゃくちゃ遊んでいました。

――たとえば、マンガは?
斎藤 いちばん読んでいたのは『こちら葛飾区公園前派出所』ですね(笑)。ウチは3人兄弟だったので、全員で回し読みをしていました。台風の日とかは外に出られないから、暇を潰すために親からお金をもらって、近くの本屋で『こち亀』を買ってくる……みたいな習慣があったんですよ(笑)。

――いいエピソードですね(笑)。アニメを見始めたのが20歳くらいというと学生時代だと思うのですが、どのような学科だったのでしょうか?
斎藤  映像学科です。もともとPVを制作したりCGをやりたいと思って進学しました。1~2年のときにチームを組んで短編映画を作るという課題があったのですが、自分は暗幕を張ったり、雑用みたいなことばかりやっていて(笑)。3年でいくつかのコースに分かれることになったときも、一緒によく遊んでいた同級生が「アニメーションのコースに行く」と言ったので、とくに考えなしについていったんです。

――アニメーションのコースとなると、周囲はかなりアニメに詳しい人が多そうですね。
斎藤 そうですね。自分も含めて3人でチームを組んで作品を作ることになったんですけど、他のふたりは当然、中学や高校からアニメを見続けていて、自分よりも圧倒的に詳しかったです。で、そのうちのひとりから「あれを見ろ、これを見ろ」とすすめてもらった中の一本が『マインド・ゲーム』だったんです。

――他にすすめられた作品というと?
斎藤 『プラネテス』と『るろうに剣心』の『追憶編』と『星霜編』、あとは『フリクリ』。じつは『プラネテス』は、今回の3本に入れようかどうしようか迷った作品です。あと『星霜編』は「極まりすぎていてちょっと人を選ぶかもしれない」と説明されたのをおぼえていますね。

――そのラインナップはかなりのアニメファンですね(笑)。『マインド・ゲーム』を見て、まずどのように思いましたか?
斎藤 あれだけ尖った作品なので、内容をすべて受け止めきれたかというと、きっとそうではなかったと思うんです。ただ、映像表現の特殊性みたいな部分にとにかく衝撃を受けました。サイケデリックなセンスだったり、パース感の効いた画面。あとこれは湯浅(政明)監督の特徴だと思うんですけど、平面的なのに動きが生っぽかったり、そうかと思えばコミック調に動いたり。それはもう、衝撃を受けたとしか言いようがなかったです。

平面的なのに生っぽかったり

かと思えばコミック調に動いたり

こういう動きや画面を表現できる

アニメって面白いなと思った

――そこで一気にアニメの面白さに目覚めた。
斎藤 そうですね。アニメを見て楽しむというよりは「アニメーションを作りたい」と思わされたんです。こういう動きや画面を絵で表現できるアニメーションって、面白いなと思った。そういう意味で『マインド・ゲーム』は憧れの対象だったんです。湯浅さんのお仕事をきっかけにして、大平晋也さんの存在も知りました。

――湯浅さんとの絡みで言うと、大平さんは『THE 八犬伝~新章~』にも参加していますね(大平は演出・コンテ、湯浅は作画監督を担当)。
斎藤 大平さんはアニメーターとしてもかなり特殊な方ですけど、「こんな動きや絵を描いてみたい!」という気持ちが芽生えたんです。他にもオムニバス映画『アニマトリックス』の一編「Kid’s Story」でのスケボーのシーンの作画とか、湯浅さんとはまたちょっとテイストが違って、もっと生々しい感じの作画なんですよね。生々しいリアルさという意味だと、沖浦啓之さんも代表格なんだと思うんですが、大平さんとは出力の方法が違うリアルという感じがしています。『イノセンス』の大平さんのパートとかは動きの生々しさと沖浦さんの絵の整合性がミックスされていてものすごく好きでした。

――斎藤さん自身は、それまでも絵を描いていたのでしょうか?
斎藤 アニメーションという意味では、まったくやっていなかったですね。ノートに落描きをしたり、ちょっとした一枚絵を描くくらいでした。ただ、本格的にアニメーションに触れたあとに、やたらと絵を描くのにハマったんです。最初の頃のクロッキー帳は、家のどこかに眠っているはずですけど、もうヒドいものだと思いますね(笑)。色気も何もないような絵がズラズラと並んでいる……みたいな感じで。ただ、やりたい方向だけははっきりしていたんですよ。

――そうやって絵を描き始めた成果は、たとえば、学校の課題にも反映されたのでしょうか?
斎藤 そうですね。とはいえ、3人のチームだったので、監督をやっていた人と共同でキャラクターの作画や美術を描いて。で、僕にアニメをすすめてくれた人は編集を担当して、という。ただ、やり方も何もわからないまま作っていて――原画のあとに動画を描くといったアニメーションの制作工程もわかっていなかったので、カットの最初から最後まで送り描き(※)だったり、口パクの作り方とかセルの概念もよく知らなかった(笑)。

※動きのキーとなるコマ(原画)を定めず、ひとコマずつ順繰りに描いていく手法

――ある意味、本当に自主制作らしい作り方だったわけですね。
斎藤 最終的には7~8分くらいの作品になったのかな。電車の車内でスリに遭って、その犯人を探す……みたいな謎の内容のアニメでした(笑)。映像にはなったし、面白いけど、絵は全然描けないし、動きも自分が思っているような滑らかさがまったくなくて。本当にもう紙芝居のようなものしかできなかったんです。当時はその経験を、次の作品に活かそうと思っていた気がします。endmark

KATARIBE Profile

斎藤敦史

斎藤敦史

アニメーター

さいとうあつし 熊本県出身。アニメーター。京都アニメーションに入社後、Ordetを経て、現在はフリー。最近の参加作に、ロッテ・ガーナのCM「ピンクバレンタイン」『ラブライブ!スーパースター!!』(両作ともキャラクターデザイン、原画)など。