Febri TALK 2022.08.19 │ 12:00

斎藤敦史 アニメーター

③キャラクターにハマる楽しさを知った
『SHIROBAKO』

インタビュー連載の最後に取り上げるのは、アニメ業界ものとして話題を呼んだ一作。いち視聴者として、アニメのキャラクターにハマったことがほとんどなかった斎藤が『SHIROBAKO』に夢中になった理由と、その後の仕事に与えた影響を語る。

取材・文/宮 昌太朗

キャラクターにのめり込まないと出てこない表情がある

――3本目はアニメ業界を舞台にした『SHIROBAKO』です。斎藤さんの大学時代の話を聞くと選んだ理由がわかる気もするのですが(笑)、これは仕事で関わったわけではないですよね。
斎藤 そうですね。自分はもともとアニメを見る習慣がなくて。それこそ『マインド・ゲーム』に出会った頃はちょこちょこ他にも見ていたんですが、就職してからは視聴者として見る機会がまったくなくなっていたんです。そんななかで『SHIROBAKO』に出会ったわけなんですが……これは何年放送でしたっけ?

――2014年なので、8年前ですね。
斎藤 意外と前の作品なんですね。舞台となっているのがアニメ業界で、しかも監督が水島(努)さんということで「どんな感じなんだろう?」と見始めたら、まんまとハマってしまったんです。

――(笑)。いったいどこにハマったんでしょうか?
斎藤 キャラ萌え……という言い方はちょっとアレですけど、たとえば『マインド・ゲーム』の場合だと、キャラクターを好きになるには作品が尖りすぎているし、同じ頃に見ていた『プラネテス』にしても、ドラマの面白さで見ていた部分が大きくて。もちろん、アニメーターとして絵を描くときは、キャラクターの気持ちを考えてお芝居を作るわけですけど、それとは別に、いち視聴者としてキャラクターを好きになった経験が自分はほとんどなかったんですね。ある意味、オタク的な気持ちを初めて体感した作品が『SHIROBAKO』だったんです。

――当時ハマっていたキャラクターというと……。
斎藤 宮森(あおい)がいてくれたらいいな、と思っていました。あんな制作進行がいてくれたらな、と(笑)。だからもちろん、自分の仕事とリンクしている部分はあるんです。というか、現実とリンクしているからこそ実感が湧いたし、ハマったんだと思うんですよね。自分はアニメーターなので、やっぱりそこがフィーチャーされている回は、すごく共感できました。(安原)絵麻が猫を描けずに悩むエピソード(第7話「ネコでリテイク」)とか、描けなくて絵がゲシュタルト崩壊してきて、紙を丸めてゴミ箱に投げて、それも入らなくて……という状況の彼女の気持ちがすごくわかったし。あと、井口(裕未)さんが初めてキャラクターデザインを担当することになるエピソードも、自分がキャラクターデザインをやるようになる前と後では、見たときの印象が全然違う。

――あはは、なるほど。
斎藤 もちろん、ファンタジーといえばファンタジーだし、『SHIROBAKO』が大団円で丸く収まりました……と描いているところでも、現実ではそううまくいかない、みたいなことはあります。とはいえ、適度なリアリティがあって、楽しく見せてくれるエンターテインメントだったな、と思います。

現実とリンクしているからこそ

実感が湧いたし

絵が描けなくなる状況や

悩む気持ちもすごくわかった

――『SHIROBAKO』でキャラクターにハマる感覚を知ったことは、仕事にも影響を与えているのでしょうか?
斎藤 あると思います。というのも、『SHIROBAKO』をきっかけに『花咲くいろは』とか『NEW GAME!』とか『ガールズ&パンツァー』、あと、ちょっとジャンルは違うんですけど『アイカツ!』にもハマって。「キャラクターもの」と括っていいのかはわからないですけど、それまで興味がなかったタイプの作品やキャラクターに興味を抱くようになった。そこが転換点になって、キャラクターデザインの仕事を始めるようになったところがあるんです。やっぱり、キャラクターに興味を持てないと、キャラクターデザインはできないと思うので。

――キャラクターに気持ちが入ることで、デザインにも違いが出てくる。
斎藤 そうですね。同じアニメーターでも、「動きを追求していたい」という人より「キャラクターをかわいく描きたい」とか「魅力的な表情をさせたい」と思っている人のほうが、キャラクターデザインに向いているんじゃないかと思うんです。昔の自分を知っている人からは、『ラブライブ!スーパースター!!』のような作品でキャラクターデザインをやるというのは違和感がある、といまだに言われたりしますね。

――たしかに(笑)。それこそ「『マインド・ゲーム』みたいな作画をやりたい」というところとは180度違う気がします。
斎藤 総作画監督というのは、キャラクターを魅力的に見せる表情をいかに作るか、というのも仕事のひとつだと思うんです。そうなるとやっぱり「このキャラクターが、こういうシチュエーションだったら、こういう表情をするだろう」といったキャラ表に描いてある以上の想像力が必要で、そこはある程度キャラクターにのめり込まないと出てこない気がするんです。そうじゃないと機械的な、整っているだけの表情になってしまう。3Dの進化もあって、手描きの作画でやる意味みたいなものを考える必要がある気がしています。

――キャラクターの内面に入り込むからこそ、出てくる表情がある。
斎藤 現実感がある生っぽさだったり、かわいさを足すには、多少なりとも愛情みたいなものがないと難しいんじゃないかな、という気がします。少なくとも自分の場合は、入り込んだほうが描きやすいんです。

――放送中に『SHIROBAKO』本編に関わる仕事がしたい、と思ったりはしましたか?
斎藤 あっ、そういえば、劇場版のときに応援イラストを描いたんですよ。「公開まであと○日」みたいな感じで、何人かがリレー形式で描いていく中のひとりとして、声をかけていただきました。というのも、『SHIROBAKO』のプロデューサーだった永谷(敬之)さんが、自分が初めてキャラクターデザインを担当した『BLACKFOX』のプロデュースをしていたんですね。

――そうだったんですね!
斎藤 そのとき描いたのは宮森ではなくて、矢野(エリカ)さんとナベP(渡辺隼)のふたりだったんですけど(笑)、でも少なからず関わることができてうれしかったです。

――キャラクターの表情を想像する、というのは、ある意味では演出の領域とも重なると思うのですが、演出や監督の仕事に興味はありますか?
斎藤 じつは数年前から「やりたい、やりたい」と言ってはいて、実際にOP・EDアニメーションやPVの絵コンテ・演出のお誘いをいただいたりしたこともあるのですが、幸いなことにアニメーターの仕事が途切れずに続いていて。それでずっと先延ばしになっている感じですね。とはいえ、いつかチャレンジできるのであれば、チャレンジしてみたい。キャラクターデザインも含めて、アニメ業界に限らず、やるべきと思えることがあったらいろいろなことをやってみたいと思っています。endmark

KATARIBE Profile

斎藤敦史

斎藤敦史

アニメーター

さいとうあつし 熊本県出身。アニメーター。京都アニメーションに入社後、Ordetを経て、現在はフリー。最近の参加作に、ロッテ・ガーナのCM「ピンクバレンタイン」『ラブライブ!スーパースター!!』(両作ともキャラクターデザイン、原画)など。

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