「鳳凰院凶真になりたい!」と憧れた
――『STEINS;GATE』は2011年の放送ですが、リアルタイムで見ていたのですか?
岡田 ばっちりリアルタイムかどうかは曖昧なんですけど、ほぼ同時期に見ていたと思います。そのあと2013年に公開された『劇場版 STEINS;GATE 負荷領域のデジャヴ』を見に行こうと思ったんですが、きっと感動で鼻水やら嗚咽やらで大変なことになると思い、我慢してBlu-rayの発売を待ったおぼえがありますから(笑)。
――なるほど。作品のどんなところに惹かれましたか?
岡田 SF設定の巧妙さに尽きます。もともと学生時代はSF好きだったんです。『宇宙兵ブルース』(ハリイ・ハリスン)や『エンダーのゲーム』(オーソン・スコット・カード)、『ヴォルコシガン・サガ』(ロイス・マクマスター・ビジョルド)など、ハヤカワや創元SFなど海外の翻訳小説をよく読んでいました。
――そんなSFファンですら、『STEINS;GATE』には唸らされたんですね。
岡田 タイムリープをテーマにした作品はそれまでもたくさんありましたけど、その設定を使ってここまでうまくドラマを盛り上げている作品を、僕は他に知りません。それにブラックホールを利用したタイムリープの仕組みだったり、そのリフターがブラウン管だったりなど、どれもがSFファンの心をくすぐる設定ばかりなんですよ。フィリップ・K・ディックの『ペイチェック』を初めて読んだときのドキドキハラハラを思い出しました。フィリップ・K・ディックの作品って、SFでありながらもミステリー要素も入っていて、読者をうまくミスリードさせて騙すみたいなところがあるじゃないですか。『STEINS;GATE』もそれと同じで、知らず知らずのうちにうまく誘導された感覚があって、それがまた気持ちよかったんですよね。
――たしかにSFをベースにしつつも、それによるキャラクターのドラマが濃密ですよね。
岡田 そうですよね。これがSF抜きの青春群像劇だったらそこまで刺さらなかったと思うんです。素晴らしいSF設定に引っ張られる形で、いつの間にかドラマにもどっぷりとハマっていた感じなんですよね。結果としては、SFもドラマも楽しめて、おまけに女の子たちもかわいいというレアな体験ができました。
タイムリープの設定を使って
ここまでうまくドラマを
盛り上げている
作品を他に知らない
――とくに好きなキャラクターはいますか?
岡田 やはり主人公の岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖(まきせくりす)ですね。とくに岡部には完全に感情移入をしちゃって、見ているときは「僕も鳳凰院凶真(ほうおういんきょうま、倫太郎の二つ名)になりたい!」と思っていました(笑)。
――岡部は世界線の変更のために奔走する、かなり過酷な運命を背負っていますが。
岡田 そうなんですよね。実際に岡部になったら、とても精神が耐えられそうにはないんですけど、でもやっぱりどこかで憧れがあるんですよね。だから続編の『シュタインズ・ゲート ゼロ』では屈託のある岡部を見ているのが本当につらかったです(笑)。
――なるほど(笑)。とくに好きなシーンはありますか?
岡田 岡部たちがいるラボの1階にある、42型ブラウン管がDメール送信の鍵であることが判明したシーン(第11話「時空境界のドグマ」)です。冷静に考えるとかなり強引な感じだったりしますけど、SF好きとしてはそのギミック感がたまらないんですよね。原案の志倉千代丸さんは本当にSFが大好きなんだなと感動しました。そのあと同じ科学アドベンチャーシリーズである『ROBOTICS;NOTES』のアニメも見て、そちらも面白かったですね。とくにパワーアシストスーツが暴走して瑞榎(みずか)が崖から落ちるシーン(第16話「巨大ロボットが、大好きです」)は衝撃を受けました。「ロボットの反乱」というありきたりなネタでも、使い方によってはここまで新しい描写になるんだと感じましたし、『STEINS;GATE』もそういう驚きが詰まっているような気がします。
――志倉千代丸さんのファンでもあるんですね。
岡田 そうです。じつは『翠星のガルガンティア』に参加したあとに志倉さんとお会いできる機会があって、その際に僕が描いたガルガンティアのイメージを褒めてくださったことがあったんです。あれはうれしかったですね。いい思い出です。
――『STEINS;GATE』が自身の仕事に与えた影響はありますか?
岡田 具体的に何がどうということではないんですけども、あらためて日本のSFアニメはすごいなと感じました。前に挙げた『AIR』は作品の演出や作り手の熱量に圧倒された感じなんですけど、『STEINS;GATE』に関しては単純にユーザーとして大ファンになってしまった感覚で『スター・ウォーズ』と同じレベルで好きなんです(笑)。ハリウッドの大作やマーベル作品に負けないくらいに面白い作品が日本のアニメにもあるじゃないかと感動しましたし、もう一度純粋なアニメファンになれた気がしました。しばらく離れていたSF小説もまた読み始めるようにもなりましたし、すごく刺激をもらいましたね。
KATARIBE Profile
岡田有章
美術監督/メカニカルデザイナー
おかだともあき 1960年生まれ。東京都出身。1980年代から美術マンとして主にサンライズ作品に参加。ゲーム業界に転身後、フリーランスとして再びアニメ業界へ。主な参加作品は『勇者エクスカイザー』をはじめとする勇者シリーズの他、『星界の紋章』『絶園のテンペスト』『翠星のガルガンティア』『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE』『さよならの朝に約束の花をかざろう』など多数。