刺激を求めて場をかき乱す稀咲の「刀」
「好きだぜ、稀咲。やっぱオレを楽しませられんのオマエだけ~」
半間修二が初めて花垣武道(以下、タケミチ)の前に姿を現したのは、2005年の8月3日、「東京卍會(以下、東卍)」と「愛美愛主(メビウス)」がぶつかった「8・3抗争」のときだ。長身で細身の身体。手の甲に彫られた「罪」と「罰」のタトゥー。狂気をはらんだ不気味な笑み。そして、佐野万次郎(以下、マイキー)の蹴りを受け止めるほどの喧嘩強さ……初登場時から一度見たら忘れられないインパクトを放っていた。
その後、「芭流覇羅(バルハラ)」の副総長として再びタケミチの前に姿を現した半間は、「血のハロウィン」後になんと東卍に加入。また、2017年でも橘日向(以下、ヒナ)の殺害現場に姿を見せたり、東卍幹部会を仕切っていたりと、何かとタケミチの周囲を怪しく動き回っている。
だが、彼の目的はいまだに不明瞭だ。「8・3抗争」では「オレの目的は“東卍潰し”」と宣言していたものの、彼自身が東卍に恨みを抱いているようにも、勢力拡大を目論んでいるようにも見えない。むしろ、マイキーと拳を交える半間の表情は、喧嘩そのものを楽しんでいるように見えた。また、東卍の傘下に入ったあとも大人しく組織に忠誠を誓う様子はない。次にどんな行動をしでかすのかがまるでわからない底知れなさを持った人物だ。
半間の行動の裏には常に稀咲鉄太の存在がある。「8・3抗争」は龍宮寺堅を廃して自らが東卍のNo.2に入り込むために稀咲が仕組んだ抗争だったし、芭流覇羅も稀咲が裏で手をまわし、マイキーをトップに据えるために作り上げた組織だった。そして「血のハロウィン」後に半間が東卍に入る手引きをしたのも、ほかでもない稀咲なのである。
半間が「仮」総長に就く前に愛美愛主を率いていた長内信高はこう証言している。「オレは稀咲に捨てられた。だが、あいつは次の“刀”を手に入れてる。稀咲の次の刀は半間修二」と。つまり、これまでの半間の行動はいずれも、稀咲の目論みを叶えるためのものだったのだ。そして、その関係性は2017年の現代でも変わってはいない。
では、なぜ半間は稀咲の思うとおりに動いているのだろうか? その答えのヒントは、クリスマスの稀咲との会話に表れていた。
柴大寿と柴八戒の衝突を止めようとしていたタケミチと松野千冬に手を貸すふりをして、土壇場で裏切った稀咲と半間。半間が「初めっから裏切るつもりだったんだろ? だったらなんでアイツらと手ぇ組んだの?」と尋ねると、稀咲は「面白ぇじゃん。だって、なんにもできねぇんだぜ? あいつら」と邪悪な笑みを浮かべる。それを聞いた半間はうれしそうに「好きだぜ、稀咲。やっぱオレを楽しませられんのオマエだけ~」と返すのだ。
「だりぃ」が口癖の半間にとって、予想外の行動を連発する稀咲は何よりも刺激的で「楽しい」存在であり、だからこそ彼は稀咲に協力しているのだろう。半間がそんなにも「楽しさ」を追い求める理由や、何がきっかけでふたりが今のような関係になったのかはまだわからない。ふたりの過去がいずれ明らかになったとき、半間の人間性が明確に見えてくるに違いない。