歴史の隙間を埋めるドラマにアムロのリアリティを感じる
――ゲームなどの関連メディアでもアムロ・レイを演じる機会が多くあったと思います。
古谷 たしかにゲームでの収録は多かったし、それは今でも続いていますね。ゲームの場合は一連の流れの演技を求められるよりも、攻撃のときの叫びなど、部分的な収録が多いわけです。僕の場合は主人公だったこともあってセリフの種類が多いから喉がしんどいことはあったけれど、世代ごとのアムロの演じ分けという点で苦労することはなかったかな。
ただ、ゲームでの収録も今では大きく変化していて、たとえば、最近の『機動戦士ガンダム U.C. ENGAGE(以降、U.C. ENGAGE)』ではオリジナルのシナリオも多いんですね。場合によっては、ちゃんと会話になっているドラマパートをひとりで演技しなければならない。そういう場合は、会話する相手と一緒に収録したいなとすごく思います。だから本当に主人公のアムロ役で良かったと思うんだけれど、アムロなら初めてのセリフでも映像が想像できるので、なんとかなっている部分はあると思いますね。
先日は『逆襲のシャア』につながる場面を収録したんだけれど、ブライトも登場するし、普通に芝居が要求されるシーンでした。でも、これまでアニメでは演じたことのない展開なわけですよ。アムロだからある程度は推測できるけど、会話の相手はゲームのオリジナルキャラだったりするから大変なんですね。僕はそのキャラについてよく知らないし、設定は一応読むけれど、相手がどんな芝居をするのかはわからないから。それと、一連のシーンと言っても合間にネオ・ジオン側の場面が挿入されることもあるから、ぶつ切りでの収録だし、そういうアニメにはない難しさがゲームの場合はあります。こういう器用なことができる僕ってすごいなと自画自賛しちゃうくらい(笑)。アムロに関してだけだけど。
――ゲームで『ガンダム』の世界がさらに広がっていくということもありますね。
古谷 そうなんです。たとえば、チェーン・アギと出会ったばかりのアムロを演じるとか、そういう新しい発見はありますね。まだ仲良くなる前だから「チェーンさん」って呼んだりするんだけど、これが意外と難しくて(笑)。僕の中でチェーンとアムロは恋人同士だから、そうなる前の状況を想像するのはとても面白いし、興味深いです。こういう作品の隙間を埋めるシーンがあると、このパートもいつかアニメ化してほしいなと思ってしまいますね。
――今後、アムロ・レイを演じるにあたって、どの時代のどんな立場のアムロを演じたいと思いますか?
古谷 この連載でいろいろな側面を見てきたことで、これまで嫌いだった『機動戦士Ζガンダム(以降、Zガンダム)』時代のアムロについてはさらに理解が深まったと思っているんです。落ち込んでしまった時代であり、ベルトーチカやカミーユとの出会いがあったからこそアムロもまた成長できたし、それが『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(以降、逆襲のシャア)』での復活につながるんだと。そういうことも踏まえて『U.C. ENGAGE』で隙間を埋めていくような芝居をするのは、とても楽しいと感じます。
『U.C. ENGAGE』で一年戦争終結から『Ζガンダム』に至るまでのアムロも演じたし、また『Ζガンダム』から『逆襲のシャア』に至るまでのアムロも演じることができた。アニメ本編ではないとはいえ、こういうことがあった結果の「アムロ・レイ」なんだと、僕の中で納得できるものがあったんです。少しその内容を話すと、一年戦争後の地球連邦軍で、健康診断の名目でアムロだけがホワイトベースの仲間たちから引き離される。
それは軍がアムロというニュータイプを監視し、解析するための口実でしかないんだけれど、アムロはそれに気づかない。ニュータイプだと言っても16歳の少年ですから、軍がアムロの嗜好や食べ物の好みまで調査してきたらかなわないわけですよね。そしてアムロは簡単に籠絡(ろうらく)されてしまう。アムロ自身も収入を得なければならないから選択の余地もなく軍に従ってしまう。そういうリアリティのある設定やシナリオはとても納得できるものだったし、面白いと感じているんです。だから『U.C. ENGAGE』でのアムロ・レイを演じることが、今の僕の中で演じたいアムロをやれていると感じますね。