プロデューサーとの「SFやろうよ!」が出発点
――本作は出渕さんにとって『ラーゼフォン』以来、19年ぶりとなるボンズとのオリジナル作品です。企画はどのように進んでいったのでしょうか?
出渕 ざっくり言うと、僕が『宇宙戦艦ヤマト2199』の作業から抜けたあたりから、なんとなく話が進んでいきました。プロデューサーの南(雅彦)君とはプライベートでもたまに飲みに行く仲なんですけど、彼も社長ですし現場を若手に任せる立場になっているから、しばらく南くん本人とはガッツリと組むことがなかったんですよ。だから「久しぶりに何かやろうよ」という話になって。僕らの世代で何かやるとなったら、これは何というかもうSF一択なので(笑)、自然とジャンルは決まった感じです。
――「SFをやろう!」が出発点なんですね。
出渕 なんとなくですけど、そうですね。ただ、単純に「1クール作品を作って終わり」ではなくて、将来的にボンズの自社IP(知的財産)として共有できる世界観にしよう、という話をしていて。そのためにもまずは大きなひとつの世界や歴史的背景を作って、今回やるテレビアニメはその歴史の一部分のお話にしようという青写真はありましたね。
――キャラクターやテーマではなく、世界観ありきだったと。では、最初に詳細な年表を作ったりしたのでしょうか?
出渕 そこまでカッチリとした設定はまだ作りませんでした。わりとゆるい感じで、最初にこういう事件が起きて、そのあと世界はこうなっていって……というようなイメージで、ひとまず大雑把な歴史や世界観を作り上げました。そこから「この世界観にはどんなお話が映えるだろう?」と考えていく作業でしたね。世界観を共有する話が出る前に、じつは3つほどアイデアを出していたんです。そのうちのひとつを南君が気に入ってくれて、これならばその世界観に合わせて展開ができるなと。それが本作の原点になりました。それまでは本当にゆるゆると、なんなら飲みの席の与太話として進んでいた記憶があります(笑)。
こだわったのは「古典SFの雰囲気」
――原点になったそのアイデアはどんなものでしたか?
出渕 根幹の部分は今とあまり変わっていないですね。簡単にいうと「アンドロイドのアサシンが同族殺しをする物語」で、当初は今よりも昏(くら)くて重めの話を思考していました。痛い萌えで「イタ萌え」みたいなことを標語にしてたかも(笑)。その当時から主人公の名前は「ルジュ」と名付けていましたし、変身時の名前も「メタルルージュ」でした。ともかく、そのアイデアを世界観に組み込んでみて「これはいけそうだ」となって、そこから一気に制作が現実味を帯びていきました。
――SF面で見ると、『ブレードランナー』的なサイバーパンク感もありつつ、表面的にはライトな印象もあって、そのバランス感覚が絶妙ですね。
出渕 おっしゃる通り、テクノロジー的なアプローチとしてはそこまで厳密に作り込んでいるわけではないんです。むしろ『ブレードランナー』のような古典SFの雰囲気を出すためにはあえてアナログに戻す必要もあったりして、そこは気を使いました。たとえば、アッシュがタバコを吸うシーンがありますけど、冷静に考えると「こんなに未来になってもタバコってまだ吸えるの?」って疑問じゃないですか(笑)。それよりも、体内に注入されたナノマシンが「これ以上吸うと○○の役職を剥奪します」って警告してくるほうがリアルに見える。でも、それをやるとストーリーにおいてはノイズになっちゃうし、ハードボイルドな雰囲気も出ない。やっぱりタバコって、古典には欠かせない小道具なんですよ。なので、大枠のテクノロジー設定は「宇宙人が人類に超技術を授けた」ということで片付けつつ、細かいところではアナログ感の強調にこだわっています。今回はそういう設定の厳密さよりはオーソドックスなSF、テック・ノワールな作品を目指してみようと。
ルジュとナオミの掛け合いだけでも見て楽しめる
――ルジュのパートナーの「ナオミ」はいつ加わったんですか?
出渕 もともとはルジュひとりの物語で、彼女が「自分は何者なのか?」を追い求めながら、ひとりずつ敵を葬っていく展開でした。僕自身はそういうレゾンデートル(存在意義)に迫っていくお話が好きではあるんですが、いかんせんひとりだとモノローグばかりが続くし、主人公の孤独感が増幅されるとハードでビターな方向にどんどん行ってしまうんですよね。それは避けたいなと思い、「相方」を作ることにしました。男性/女性、年上/年下と、いろいろな組み合わせが考えられるんですが、やはり同世代の女性がいちばんしっくりくるな、と。ドラマの深い部分にはシリアスなテーマやバックボーンが流れつつ、表面的には女の子同士のたわいないやり取りが心地いいというバランスが、今回のようなロードムービー形式の作品にはちょうどハマるんじゃないかと。
――ルジュ役の宮本侑芽さんとナオミ役の黒沢ともよさんの掛け合いは、独特なテンポ感で面白いですよね。
出渕 ありがとうございます。キャスティングはオーディションでしたが、まず宮本さんが面白かったですね。基本的にはかわいいんだけど、どこか抜けている感じをうまく出してくれて、まさにルジュにピッタリだなと思って。それに対して黒沢さんは……「変」なんですよ(笑)。とにかく型にハマっていなくて、よく言えば天真爛漫で、悪く言えば本能だけで演じているというか。でも、その身体性のようなところがすごく印象的で、この組み合わせならこれまでのバディものとはひと味違ったものが出せるんじゃないかと直感しました。わりとシリアスなテーマを扱っている作品でもあるのですが、それとは関係なく、このふたりの掛け合いだけでも見て楽しんでもらえるものになったかなと思います。
- 出渕裕
- いづぶちゆたか 1958年生まれ。東京都出身。メカニックデザイナー、キャラクターデザイナー、アニメ監督、イラストレーター、マンガ家。1978年に『闘将ダイモス』でメカニックデザイナーとしてデビュー。以降、『ガンダム』シリーズや『機動警察パトレイバー』、スーパー戦隊シリーズなどでデザインを担当。監督(総監督)作に『ラーゼフォン』『宇宙戦艦ヤマト2199』がある。