TOPICS 2024.04.11 │ 18:00

塚原重義監督が語る
『クラメルカガリ』『クラユカバ』制作秘話①

2012年にYouTubeで公開された『端ノ向フ』を筆頭に、インディーアニメの世界で活躍する塚原重義監督の初長編『クラユカバ』と最新作『クラメルカガリ』の2本が同時公開! ここでは監督に制作の裏側をインタビュー。前編では、うだつのあがらない青年探偵・荘太郎が連続失踪の謎に迫る『クラユカバ』をメインに、たっぷり語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

商業作品にすることで長編を作りたかった

――『クラユカバ』と『クラメルカガリ』の2本が同時に劇場公開されます。公開を控えた今の率直な心境は?
塚原 まだ客観視できないですね。たぶん公開になってからも、しばらくは客観視ができない気がします(笑)。これまでは短編を作ってネットで公開する、というかたちだったので、それと比べると今回は状況が大きくなっていて、その流れに身をまかせている……という感じですね。

――なるほど。まずは『クラユカバ』からお話を聞きたいのですが、これまで塚原監督が作ってきた作品の、いわば集大成的な内容になっていますね。
塚原 10年くらい前に『端ノ向フ』を作ったとき、自分の中では「これが自主制作でできる限界だな」という感じがあったんです。できることはすべてやったかな、と。

――そのときに感じていた「限界」というのは、どういうものだったのでしょうか?
塚原 単純に手数が足りないというのもありました。自分としては長編を作りたいんですけど、当時の体制でそれをやろうにも限界がある。今、あらためて思い返すと、それぞれのセクションに専門家がいて、それによってできることが増える、みたいなことがやりたかったんだろうと思います。これまでは大部分を自分でまかなっていたわけで、自分が描けないものは作品に登場させることが難しい。逆に言えば、自分が描ける範囲で世界を構築して、作品を成立させていた部分があって。

――自分が描けないものを、作品世界に入れたいと思うようになった。
塚原 簡単に言えば、そうなのかもしれないです。なので、次は商業作品をやろうと思いました。ちゃんとお金を集めて、スタッフワークを駆使した作品にしないと、これ以上の表現はできないと思ったんです。当初はいろいろなところに企画を持ち込んだりしていたんですけど、なかなかうまくいかなくて。最後の手段としてクラウドファンディングをやった、という流れでした。

――当時、各所に持ち込んだ企画は、完成した『クラユカバ』とほぼ同じ内容ですか?
塚原 描こうとしているテーマは当初から変わっていないですね。企画書を持ち込む段階で、40分くらいの絵コンテを作ってしまったのですが、頭とお尻の部分は完成した作品とほぼ変わりません。変わったところといえば、企画段階では幻想譚であることを意識したお話だったのを、あとからミステリー作品としてまとめる方向で味付けをしていった、という感じですね。

――『クラユカバ』の中盤、主人公である探偵の荘太郎が地下の謎に迫っていくあたりが、あとから加わっているわけですね。
塚原 そうです。なぜ主人公を探偵にしたかったかというと、街をひとつ作って、その中をうろうろさせたかったからなんです。うろうろさせるのであれば、探偵とか新聞記者がいいだろう、と。主人公にはあくまでもカメラの役割を担ってもらうつもりだったのですが、最終的には彼がより強い意思を持って地下に乗り込んでいく、というかたちに変えています。

「活弁」との出会いの衝撃を作品に昇華した

――独特のビジュアルも『クラユカバ』の大きな魅力ですが、大正浪漫的なモチーフはもともと好きだったんですか?
塚原 そうですね。生まれ育ったのが東京の下町エリアだったというのもありますし、あとはたぶん父の影響だと思います。父は古い映画が好きで、昭和30年代の映画のビデオを借りてきて、よく一緒に見ていたんです。そういったこともあって、昔のものに対する興味を持ちやすかったのかなと思いますね。

――その中で、自分にとって大切な作家だったり、作品というと?
塚原 最初は海野十三(うんのじゅうざ)ですね。SFが好きだったこともあって、SFや空想科学ものの原点はどのあたりなんだろう、と。最初はそのあたりに興味を持って、そこからは江戸川乱歩を読んでみたりもしましたね。あとは学生の頃から柳田國男や、民俗学みたいなものにも興味が向き始めたので、そういうものを採り入れて、今のかたちになっていったのかなと思います。

――『クラユカバ』では、セリフがちょっと講談っぽいというか、五七調でまくしたてる感じがあって、そこもまた独特の世界観を補完している印象がありました。
塚原 そこは坂本頼光(らいこう)さんとの出会いが大きいです。初めて会ったのは、25歳くらいのときかな。ある仕事で初めてお会いしたのですが、「活動写真の弁士って、現代にも本当にいるんだ」と思ったんです。しかも、実際に彼が弁士をやっているところを見てみたら、これがすごく面白い。映画を映しているスクリーンの横に弁士が立って話をするのですが、観客席と映画をつないでいるというか、現実世界と映画の中を結ぶ謎の存在、みたいな感じなんです。それが当時ハマっていた民俗学的な興味ともリンクして、弁士ってまさに「境界線上」にいる存在なんだな、と。

――普通の映画体験とは、まったく異なるものなのでしょうか?
塚原 全然、違いますね。映画って1回完成してしまうと、中身はずっと変わらないじゃないですか。2回目を見ても、内容が変わることはない。でも、活弁はそこが違うんです。映している映画は同じでも、セリフが変わったりする。上映しているときに雨が降っていたら、弁士が勝手にセリフで雨を降らせたりするんです(笑)。映画の中の登場人物が「今日は足元が悪い中、すまないね」なんて言ったりして、それを聞いた観客が笑ったり。

―――映画鑑賞がライブになる。
塚原 そうですね。じつに衝撃的でした。それまで映像作品は画面の中にしかないものだと思い込んで作ってきたけど、これは現実世界にリンクするぞ!?と。『クラユカバ』にも、作品内で映画をかけるシーンが出てきますけど、それによって映画の中と現実を行ったり来たりする。そういう演出を最初に採り入れた作品は『端ノ向フ』でしたが、今回はそれをもっと大々的に膨らませてみた、という感じです。endmark

塚原重義
つかはらしげよし 1981年生まれ、東京都出身。アニメーション作家。2002年ごろからアニメーションの自主制作をスタートさせ。2012年に発表された『端ノ向フ』や太宰治の小説をアニメ化した『女生徒』など、独自の世界観を持った作品群が大きな注目を集める。
作品概要

劇場長編アニメーション映画『クラユカバ』『クラメルカガリ』
2024年4月12日(金) より2作品同時公開!

  • ©塚原重義/クラガリ映畫協會