TOPICS 2023.12.15 │ 18:00

自分と違う存在に対する思いやりと寛容さ
監督が映画『窓ぎわのトットちゃん』に込めた思い①

黒柳徹子が自身の幼少期を綴った自伝的小説『窓ぎわのトットちゃん』が、アニメーションとして初の映画化。第二次世界大戦が終わる少し前の時代を舞台に、トットちゃん(黒柳徹子)の日常を通して、思いやりや優しさ、教育や戦争など、さまざまなテーマを投げかける本作。監督・脚本を務めた八鍬新之介(やくわしんのすけ)に、企画の成立から制作がスタートするまでの経緯を聞いた。

取材・文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

一貫して「子供から見た世界」だったのが心に響いた

――『窓ぎわのトットちゃん』の原作が発表されたのは1981年です。世界中で愛されるベストセラー小説ではありますが、なぜ今、このタイミングで映画化しようと思ったのでしょうか?
八鍬 じつは、僕が初めて原作を読んだのはわりと最近で『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』の作業を終えた2016年頃ですね。ちょうど自分が親になったこともあって、ふと「この子たちが大人になる頃、この社会はどうなってしまうんだろう?」と思ったんです。当時、海外ではシリアの内戦が激化し、国内でも虐待事件が報道されることが多くて、すごく不安でした。僕が普段、手がけている『ドラえもん』シリーズのような、王道のエンタメ作品ももちろん必要ではあるんですけど、もっと現実とリンクしていながら、明るい光が射し込むような作品を作りたいなと感じたんです。そこで原作になりそうな本を手当たり次第に読んでいたときに、たまたま見つけたのが『窓ぎわのトットちゃん』でした。

――原作のどんなところに惹かれましたか?
八鍬 戦争や教育、差別や思いやりなど、いろいろなテーマが内包されているにもかかわらず、一貫して子供の目線で描かれていたのが大きかったです。トットちゃんはなぜ日本が戦争をしているのかもわからぬまま、子供の目線で大人たちの社会を見つめています。シリアの内戦で僕がいちばん心を痛めていたのは、戦争行為に対して何の罪も責任もない子供たちが多く犠牲になっていたことなんです。だからこそ、大人の論理の入る余地のない、あくまで「子供から見た世界」であることが心に響いたんだと思います。

描きたいテーマと直結していた泰明ちゃんの存在

――原作は小さなエピソードの集まりですが、映画ではトットちゃんと泰明(やすあき)ちゃんのふたりの関係性を軸に構成していますね。
八鍬 一本の映画として成立させるためには、全体を貫く物語が必要だったので、泰明ちゃんにフォーカスしました。泰明ちゃんは原作にも頻繁に登場していますし、『赤毛のアン』におけるマシューや『若草物語』におけるベスなど、大切な人の喪失が主人公の成長につながる文学作品は多く、この作品もその構造に思えたんです。もうひとつの理由は、泰明ちゃんの存在が、本作で描きたいテーマに直結していたからです。泰明ちゃんはポリオ(急性灰白髄炎)の罹患者で、手足の麻痺という身体障がいを抱えています。一方で、トットちゃんも今でいうところの「発達障がい」に近い子供だったと思うんです。そうした一般社会からはじかれてしまった者同士が理解を深め合い、支え合いながらお互いが成長していく姿が素敵で、このふたりを通じてなら、そういうことを説教臭くなく描けると感じました。

――そこから映画化に至るまでは、どのような経緯を辿りましたか?
八鍬 2016年の夏に企画書をお送りして、そこから徐々に話が進んでいきました。僕が再び『ドラえもん』の映画(『映画ドラえもん のび太の月面探査記』)を監督することになったので、そちらと並行してプロットや資料集め、ロケハンなどを進めつつ、映画の作業が終わった2019年から本格的に制作をスタートしました。

勘違いから入った「戦争中の日本」のイメージ

――黒柳さんの反応はどのようなものでしたか?
八鍬 ストーリーやキャラクターデザインなどに対して要望を出されるようなことはなかったです。それどころか、徹子さんから当時の資料などをたくさん提供していただき、とても助かりました。たとえば、僕たちが最初にデザインしたトットちゃんは、戦時下のおてんばな女の子ということもあり、実際のキャラクターデザインよりもずっと庶民的な雰囲気だったんです。でも、ご本人からお話を聞いたり、お借りした写真などを見ると、全然違うんですよね(笑)。僕たちが戦争中の日本を思い浮かべるときは、どうしても『火垂るの墓』に近いものを想像しがちですが、あれは本当に終戦間際の様子で、それより5年ほど前だとガラッと変わるんです。ましてや徹子さんは山の手のお嬢様ですから、身につけているものも上等だった。そんな勘違いから入って、当時の時代背景をつぶさに調べながら、ひとつひとつコレクト(修正)していきました。

――ストーリーやデザイン以外で、黒柳さんからの要望はありましたか?
八鍬 いちばん気にされていたのは泰明ちゃん、つまりはポリオの描写についてです。身体に障がいを持っていらっしゃる方や、そのご家族の方が不快な思いをしないように、ということは最後までおっしゃっていたので、泰明ちゃんの歩き方の基本設定が完成したときに、ある意味で完全に映画化の許諾をいただけたなと感じました。それが2020年か、それよりもう少しあとのことだったと思います。

――トットちゃんと泰明ちゃんに加え、小林先生(小林宗作)もキーパーソンだと思います。劇中では熱心な教育者ながら、それだけではない多面性も感じます。描く上で意識したことはありますか?
八鍬 小林先生については、彼について書かれた本が出ていて、それも参考にしつつ設定していきました。おっしゃる通り、子供たちに見せている顔だけが彼のすべてではありません。戦争中にもかかわらず、なぜトモエ学園があそこまで自由な校風を守り続けることができたのか、そこには理由があるんです。映画はあくまでトットちゃんが見ている世界なので、あまり裏事情を描くことはしていませんが、まったく無視することもできないと思い、小林先生が感情をむき出しにして怒るシーンを入れました。あのシーンについては「先生はなんであんなに怒っていたんだろう?」と考えていただければ、それでいいのかなと思っています。endmark

八鍬新之介
やくわしんのすけ 北海道出身。アニメーション演出家、監督。TVアニメ『ドラえもん』の制作進行としてキャリアをスタートさせ、絵コンテや演出などを経て、2014年に『映画ドラえもん 新・のび太の大魔境 〜ペコと5人の探検隊〜』で長編映画の監督デビュー。他の監督作に『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』『映画ドラえもん のび太の月面探査記』がある。
作品情報


映画『窓ぎわのトットちゃん』
全国東宝系にて絶賛上映中!

  • ©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会