ひっそりと終わっていくつもりだった!?
――昨年の11月に劇場公開されるやいなや、口コミを中心に大ヒットを記録した本作ですが、公開後の反応や手応えをどのように受け止めていますか?
古賀 とてもありがたいですし、僕自身もビックリしています。公開時の舞台挨拶などでは「この映画はひっそりと公開されて、ひっそりと終わっていくはずの作品でした」と言っていたくらいですから(笑)。公開初日に映画館に行ってみたんですけど、お客さんがあまり入っていなかったんです。ただ、それからジワジワとお客さんが増えて「この感じが年越しまで続いてくれたらいいなあ」なんて思っていたら、そこからさらに伸びて、イベントの依頼なども来るようになって。そのあたりで初めて「これは思っていた以上に皆さんに受け入れられたのかも」と実感しました。
――SNSを通じて、どんどんと拡散していきましたね。
古賀 熱量の高いお客さんが多くてうれしかったです。本来そういう宣伝活動は僕たちがやらなきゃいけないんですけど、それがなかなかできていなくて(笑)。結果的にお客さんに広めていただくことになって、感謝しかないですし、そういう作品に携われたことは作り手冥利に尽きると思っています。
――「真生版」は、327カットのリテイクと音を再ダビングした「R15+」バージョンとなります。今回、こちらが劇場公開されることになった背景について教えてください。
古賀 アニメの劇場作品というのは、ソフト化する際にブラッシュアップを図ることが多いんです。今回も、最初はソフト化に際しての修正作業として、僕たちが当初作ろうと思っていた「R15+」の恐怖表現と絵のブラッシュアップをすることが決まっていました。そのうえで、せっかく大規模なリテイクができるのならば、一度でいいからイベント上映をやりたいですと東映本社に打診したんです。そうしたら「イベントと言わず、ぜひ劇場公開しましょう」と言っていただけたんですよね。
――そもそも「R15+」版は作る予定だったんですね。
古賀 そうです。制作の初期段階で、自分たちがやりたかった表現が「R15+」に該当することがわかったんです。でも、映画自体は「PG12」で公開することがすでに決まっていたので、じゃあソフト化の際に修正させてくださいとお願いしていました。
「R15+」で胸により刺さるドラマに
――「PG12」から「R15+」にレイティング変更するにあたり、どのような修正をしましたか?
古賀 主に血液の「色」と「量」です。まず「色」については、もともと昭和期の「金田一耕助」シリーズのような色合いをイメージしていたんです。木々の緑色や土の茶色、建物のグレーなどが画面の大半を占めていて、その中で朱色の鳥居だけがひときわ目立っているような。全体的にくすんだ色合いなんだけど、赤だけは鮮烈に映るというフィルムの特性を生かした色設計で、だからこそ血の赤が脳裏に焼き付けられる。本作でもそれは大事にしたかったんですけど、そこはレーティングに引っかかる部分だったので、そこまでくっきりとは出せなかったんです。でも「真生版」ではそれを鮮明にして、結果、クライマックスの「血桜」と同様に、随所で「赤」がより映える画面構成に出来たと思います。
――なるほど。一方で血の「量」に関しては、わかりやすく恐怖感が増していますね。
古賀 そうですね。「恐怖感」はもちろんなんですけど、それ以外でもキャラクターの感情がより胸に迫ってくる感覚もあるんです。制作中はそこまで意識していなかったのですが、試写を見たときに強く感じました。たとえば、血液製剤「M」の工場で裏鬼道衆が倒されていくシーンは、「PG12版」だとアクションシーンとして捉えてその流れで見ていたのが、「真生版」だとちょっと違う印象を抱いたんです。
――なんとなくわかります。ただのアクションシーンでは終わっていないというか。
古賀 そうなんですよね。血の「量」が増えて「色」も鮮明になったことで、生命がほとばしって散っていく感覚を覚えましたし、死人たちの恨みや呪いの怨念も際立っている気がして、ゾクゾクが増したのを覚えています。
――それまでアクションシーンだと思っていた描写に、もうひとつ別のドラマが立ち上がってくる感覚ですね。
古賀 その通りです。だからこそ、最後に起きた長田と沙代の顛末(てんまつ)も、より壮絶で執念を感じさせるシーンに仕上がっていると思います。
変化はあまり意識せずに見てほしい
――音の再ダビングについてはいかがですか?
古賀 音まわりでやったのは、音響を追加するということではなく、基本的にはタイミングなどの微調整です。もともと原撮(原画撮影)が混じった素材で、完成画面を想定しながら音響を入れていたのですが、今回は完成画面があるので、完璧に調整しています。そのため見ている際はほとんど気づかないかもしれませんが、終わったときにはなんとなく音響が良くなったように感じてもらえると思います。
――カットのリテイクも含めて「目に見えてここが違う」というよりも、全体的にクオリティアップしている感じですね。
古賀 そうですね。関係者に試写で見ていただいた際、「●●のシーンの光の射し込みがキレイになっていますね」と言われたのですが、そのシーンの光はとくにイジっていないんです。絵は少し修正しているので、それが光の見え方に影響を与えているのかもしれませんし、いろいろな相乗効果があるんだと思います。
――試写を鑑賞して「ここがこう変わった」とハッキリとは言えないけれど、没入感が格段に増していて驚きました。
古賀 ありがとうございます。それはある程度は狙っていたことではあるんですけど、予想以上の効果が生まれたような気がして、僕自身もうれしいです。細かいブラッシュアップの積み重ねで印象が変わるというのは、とくにアニメ映画のような作品にとってはひとつの希望でもあると思うので、こういう上映の仕方が他にも増えていけばいいなと思っています。
――では最後に、これから「真生版」を見ようと考えているファンに向けてメッセージをお願いします。
古賀 今お話に出たように「どこがどう変わっているんだろう?」ということはとくに意識せず、フラットな気持ちで鑑賞していただくのがいいんじゃないかなと思います。僕たち作り手は、より美しい画面になったと確信していますので、ぜひ一度映画館に足を運んでください。
――ありがとうございました。後編では、作品に込めたテーマや想いについて聞かせてください。
古賀 よろしくお願いします。
- 古賀豪
- こがごう 福岡県出身。アニメーション演出家、アニメーション監督。東映アニメーション所属。主な監督作に『ゼノサーガシリーズ』『祝!(ハピ☆ラキ)ビックリマン』『ドキドキ!プリキュア』『デジモンユニバース アプリモンスターズ』『劇場版 ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』などがある。