TOPICS 2024.03.30 │ 12:00

榎戸駿に聞いた 『マッシュル-MASHLE- 神覚者候補選抜試験編』OP映像メイキング
BBBBダンスができるまで①

魔法界を舞台に繰り広げられる熱いバトルと友情、そしてシュールなギャグが話題のTVアニメ『マッシュル-MASHLE-』。現在、第2期「神覚者候補選抜試験編」が放送中の本作だが、そのOPアニメーションも大きな反響を呼んでいる。その絵コンテ・演出を担当した榎戸駿に、制作の裏側について話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

『フリクリ』に「アニメーションの面白さ」の洗礼を受けた

――『マッシュル-MASHLE-(以下、マッシュル)』の話題の前に、榎戸さんのこれまでのキャリアについて聞きたいと思います。そもそもアニメーターになるきっかけというか、影響を受けた人というと、誰になるのでしょうか?
榎戸 中村豊さんをはじめ、さまざまな方から影響を受けているんですけど、それこそ「Web系」と呼ばれているアニメーターさんたち――たとえば、山下清悟さんをはじめとする方々に刺激を受けて仕事をしてきたところはあります。業界に入る直接のきっかけとなったのは、『ブラッククローバー』の監督をされている𠮷原達矢さんですね。

――なるほど。そもそもアニメに興味を持つようになったのは、いつ頃なのでしょうか?
榎戸 高校生の頃からアニメは好きだったんですが、大学に進学するにあたって何をやりたいのかを真剣に考え始めた頃にちょうど「アニメというのは人が描いていて、作画という概念があるんだ」というのを知ったんです。高校3年生の夏でした。

――当時、ファンとして見ていた中で印象に残っている作品というと……?
榎戸 オタク文化に触れるきっかけになった作品として『月姫』や『撲殺天使ドクロちゃん』があるんですけど、アニメーターを志したきっかけと言えるのは『フリクリ』です。こんなにアニメーションとして面白い作品があるんだ、と衝撃を受けました。他にも、アニメへの価値観を大きく変えてくれたのは『らき☆すた』ですね。キャラクターデザインの堀口悠紀子さんのお名前を知って、堀口さんの作画監督回を見ては「この人が描いている回はなんて絵が可愛いんだろう」と(笑)。そこから、先ほども話したように「アニメって人が描いているんだ」というところに注目するようになって、「この人が描くからこういう画面になっているのか」とか、そういう目線でアニメを見るようになりました。そこからアニメーションを勉強できる学校、美術系の大学に行きたいと思うようになったんです。

もともとは「かわいい女の子」が見たいアニメファンだった

――そういう流れだったんですね。
榎戸 なので、最初はキャラクターの絵に惹かれて入ったんですけど、そのうちに波とか炎とか煙みたいな自然物も、同じようにアニメーターが描いているんだってことに気がついて。むしろこっちのほうが楽しそうだな、自分に合っているなと思ったんですね。そこからいわゆるアクション作画だったり、動きを描くことを自分の武器にしたい、みたいな気持ちがだんだんと芽生えてきたんです。

――今でこそ、アクション作画が得意な印象がありますが、最初はそうではなかった。
榎戸 どちらかといえば、かわいい女の子が見たくてアニメを見るタイプでした(笑)。気がついたら、まわりの人から「アクションがお好きなんでしょ?」と言われるし、結果的にそういうキャリアの積み方にはなっているんですけど、原点は女の子がかわいいアニメです。

演出やお客さんへの見せ方を学んだ『FGO』

――榎戸さんがアニメの仕事を始めてから約10年になりますが、これまでの仕事で転機になった作品は何でしょうか?
榎戸 初めて仕事としてアニメに関わったのはまだ学生の頃だったんですが、じつはそこから一度マンガ家の道に進もうと思って離れていた時期があるんです。結局、そちらは自分には合っていないなと感じてしまって、やっぱりアニメの仕事しかないとなったんです。そのときに大学の同期だった中山竜(『チェンソーマン』監督)に紹介されて、当時、りょーちもさんが監督で『夜桜四重奏 ~ハナノウタ~』を制作していたタツノコプロに行きました。そのタイミングで、先ほど名前を挙げた𠮷原さんもタツノコプロにいらっしゃって。𠮷原さんのところでデジタル作画の基礎みたいなものを一緒に勉強させてもらったのが、今のアニメーターとしてのキャリアを本格的にスタートさせるきっかけになっていますね。

――なるほど。
榎戸 2度目の転機は、A-1 Picturesに席を置いて『Fate/Grand Order(以下、FGO)』のCMを作り始めるようになったことですね。タツノコを出てから坂詰嵩仁さんと一緒に仕事をしていたところを、A-1 Picturesの藤田(祥雄)プロデューサーに声をかけてもらって。原画をやっていた頃は「どうやって暴れようか、目立とうか」みたいなところがあったんですけど、『FGO』のCMでは、そのコンテンツを面白く見せるために自分たちの仕事をどう作品にフィットさせていくか、みたいなところに重点が移っていきました。どうすれば面白いと思ってもらえるのか、あるいは興味を持って見てもらうにはどういう絵作りが必要なのかを考え始めたんです。その流れの中で『Fate/Apocrypha』のアクションディレクターを坂詰さんと共同でやったことで、より大きなシークエンスでの演出とか、ディレクションというものを自分なりに考え始めたのが大きかった気がします。

――見ているお客さんのことを意識するようになった、ということでしょうか?
榎戸 そうですね。『FGO』はソーシャルゲームなので、シナリオの解釈だったり、キャラクターの見せ場をどんな風に作るとお客さんに喜んでもらえるんだろう、と。あと、CMはTVシリーズと比べても次の納期までのサイクルがすごく短いんです。作って納品して作って納品して……の中で、視聴してくれた方の感想もほとんどリアルタイムで目に入ってくる。そのスピード感の中で何が求められているのか、そのアプローチや取捨選択を試行錯誤できたのは、いい経験になったなと思います。とくにCMの最初の頃は、絵まわりに関しては自分と坂詰さんのふたりで完結させるという作り方をしていたので、大変ではありましたけど、同時にすごく勉強になりましたね。endmark

榎戸駿
えのきどしゅん 1990年生まれ、茨城県出身。アニメーター・演出家。最近の主な参加作品に『Fate/strange Fake -Whispers of Dawn』(監督/坂詰嵩仁と共同)、『Fate/Grand Order』(CMディレクター)、『ホロライブ・オルタナティブ』(ティザーPV監督)など。愛犬は柴犬のべーちゃん。
作品情報


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8,030円(税込・Blu-ray)/6,930円(税込・DVD)
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2024年4月24日(水)
 

  • ©甲本 一/集英社・マッシュル製作委員会