TOPICS 2024.10.03 │ 12:22

谷田部透湖が語る
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版』のキャラクターデザイン①

「水木しげる生誕100周年記念作品」として、昨年11月に公開されたアニメ映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」。昭和31年の日本を舞台に鬼太郎誕生の背景に迫ったホラー作品で、興行収入27億円を突破するロングランヒットを記録。2024年10月には327カットをリテイクした「真生版」がR15+で全国公開される。ここでは、キャラクターデザインと総作画監督を務めた谷田部透湖さんに、キャラクターデザインのこだわりや「真生版」での修正について聞いた。

取材・文/岡本大介

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

水木しげる先生の「丸目」の魅力を伝えたい

――昨年11月に劇場公開され、口コミを中心に大ヒットを記録した本作ですが、「真生版」が劇場公開されると聞いたときはどう思いましたか?
谷田部 まずはシンプルにありがたいことだと思いました。ソフト化に際してリテイク作業をすることと、「R15+」に対応したバージョンを制作することはあらかじめ決まっていたのですが、まさかそれを劇場公開していただけるとは思っていなくて。それもこれも、お客さんがこの作品を盛り上げてくれたからこそですので、もう感謝しかないですね。
――修正したクオリティの映像が劇場で見られるというのは大きいですよね。
谷田部 大きいですね。リテイクの規模も大きいですし、恐怖表現以外にもたくさんのカットを修正しているので、劇場の大きなスクリーンで見ていただけるのは、ひとりのアニメーターとしてもすごくうれしいです。
――ここからはキャラクターデザインについて聞かせてください。もともと谷田部さんは、水木しげる先生の作品が好きだったんですよね?
谷田部 そうなんです。水木先生のファンでしたし、アニメの鬼太郎や悪魔くんも大好きだったので、スキあらば水木先生の絵の特長やエッセンスを取り入れたいという想いが、キャラクターデザインの根幹にありました。
――谷田部さんはシナリオを作っていくプロット段階の打ち合わせから参加していたそうですね。
谷田部 そうです。打ち合わせに参加させていただきつつ、その場でキャラクターのラフスケッチを描いたりして、自分が面白いと思うことだったり、水木先生の作品から感じたことなどを意見させていただきました。とても貴重な経験をさせていただいたと思います。

――また、谷田部さんはTVシリーズ第6期で一度だけ登場した鬼太郎の父のシーンの原画も手がけています。
谷田部 はい。登場から戦闘シーンの原画を担当させていただきました。TVシリーズで登場した鬼太郎の父は、目が切れ長で、キラキラしていて、もう少しイケオジな雰囲気のデザインでした。こちらは第6期のキャラクターデザインの清水空翔さんがデザインを担当されて、放送当時とても話題になりました。すごく思い出深いデザインなのですが、映画は怖い要素を強めたいとのことだったので、今回の鬼太郎の父(ゲゲ郎)は目を丸くして、水木先生の絵のテイストやエッセンスをより取り込んだデザインを提案させていただきました。
――たしかに、大きくて丸い目が特長的ですね。
谷田部 昔から水木先生の描かれる丸い目がすごく魅力的だなって思っていたんです。可愛くて愛嬌があるんだけど、ふとしたときに怖く見えたり、カッコよく見えたりもして。普通は「丸目」ってもっと記号的なイメージがあると思うんですけど。
――一般的なイメージでは「丸目」はマンガ的表現で、可愛いイメージが強いですね。
谷田部 そうですよね。でも、水木先生の「丸目」からは、それだけではない多彩な感情を感じるんですよ。なので、そんな「丸目=可愛い」という世間のイメージを払拭したいというか、この目にはすごいポテンシャルがあるんだよということをみんなに伝えたいという気持ちもありました。
――牢屋の中から水木を見つめるシーンでは、丸目なのに底知れぬ怖さを感じました。
谷田部 ありがとうございます。普通の目の表現であれば、目を細めたり見開いたり、あるいは釣り上げたり垂らしたりすることで感情を表しますが、鬼太郎の父の目はそれがほぼないので、何を考えているか読みにくい。でも、それが逆に奥の深い雰囲気を出すこともできるんですよね。それは私にとっても挑戦だったんですけど、映画を見たお客さんから「カッコよかった」とか「イケメン」という反応をいただくことがあって、丸目の魅力を伝えるプレゼンが成功した気がしてうれしかったです。

バディ感を意識した鬼太郎の父と水木のシルエット

――対して、水木のデザインは、いかにも「昭和の男」です。こちらはどんなイメージでデザインしましたか?
谷田部 水木に関しては、鬼太郎の父の丸目案を出したあとに、こういうアレンジもありなのかと思い、内面の性格も含めて、今の水木の原型となるラフをシナリオ会議で描いて提案しました。ちょっと突っ張った、強がっている野心家イメージの水木です。こちらも採用していただけたので、今回の水木の大まかな方向性が決まり、プロットの制作が進むのと一緒に作り込んでいきました。水木というキャラは原作(『墓場鬼太郎』)ではコマごとにデザインがバラバラなんです。マンガだとそれがいい味を出しているんですけど、アニメでは統一させる必要があるので、そのたくさんあるコマの中からひとつを選び、それをベースに作っています。とはいえ、どのコマの作画も美形の文脈で描かれているのは変わりないと思ったので、男前であることはだいぶ初期から決めていました。
――『墓場鬼太郎』は2008年にアニメ化されていて、そこにも水木が登場していますよね。
谷田部 『墓場鬼太郎』の水木も、キャラクターデザインを務められた山室直儀さんが同じように原作のコマをベースに作ってらっしゃると思います。私とは元にしたコマが違うので、それでデザインも違うんだろうなと。
――スラッとした鬼太郎の父とは対照的に、ややズングリしたプロポーションなのも印象的です。
谷田部 鬼太郎の父が大柄な人物だというのは、原作の包帯グルグル巻き状態の描写からも明らかなので、水木のほうが身長が低いのは最初から決まっていました。そのうえで、水木は昭和31年当時の男性の平均身長くらいでデザインしています。鬼太郎の父がモデル体型なので、並んだ際にシルエットでもハッキリと違いがわかるようにしたくて、対照的な体格にしてバディ感を演出しています。ふたりが対になるデザインを心がけていました。

――なるほど。メインヒロインとなる沙代のデザインはいかがですか?
谷田部 彼女は村から一歩も出たことのない箱入り娘ですから、ひと言で言えば「深窓のご令嬢」というイメージでデザインしました。後半になると、当初の純粋無垢な少女の雰囲気とはまた少し違った一面も出すようになっていきますが、そちらはあまり意識しないようにしました。ホラーでありミステリーでもある本作なので、デザインですべての面を出してしまうのは逆によくないだろうと、古賀監督とも話しながら作っていきました。
――ありがとうございました。後半はその他の龍賀一族のデザインや、「真生版」での修正内容などについて聞かせてください。
谷田部 よろしくお願いします。endmark

谷田部透湖
やたべとうこ 栃木県出身。アニメーター、演出家、キャラクターデザイナー。主な参加作に『龍の歯医者』(絵コンテ・演出)、『チェンソーマン』(第2話絵コンテ・演出)、『モブサイコ100 III』(第9話絵コンテ)、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(副監督)などがある。
作品情報

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 真生版』
絶賛公開中

  • ©映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」製作委員会