ロボットアニメの監督は初めて(あおき)
――公式サイトのインタビューでも触れられていますが、アニプレックスの岩上敦宏プロデューサーから声をかけられたのが、企画の発端と伺っています。あおき監督が、いわゆるロボットアニメを手がけるのは、これが初めてですよね。
あおき そうですね。これまでも絵コンテや演出で関わることはありましたが、監督としては初めてです。その頃は、どんな作品にするのかまったく決まっていなくて、なんとなく「面白そうだな」というふわっとしたところがスタート地点でした。「ロボットアニメ」というキーワードだけがあるような状態でしたね。ただ、最初の頃に岩上さんから「王道のロボットアニメがやりたい」というお話があったので、そこを中核に企画を膨らませていきました。
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――ストーリー原案の虚淵玄さんも加わって、内容を詰めていったと思うのですが、企画の中核が固まったのは……。
あおき だいたい2年くらい前でしょうか。そこで、大まかな方向性はできていた気がします。火星の強いメカに対して、地球側の弱いメカが戦う。火星側と地球側、ダブル主人公というかたちで物語が進む。虚淵さんから出していただいた、ざっくりとしたストーリーの構成――2クール分のだいたいのかたちも存在していました。
――あおき監督から見て「これは行ける」と思えたのは、どのあたりだったのでしょうか?
あおき じつを言えば、2クール目の構成にすごく惹かれたんです。スレインを待ち受ける運命に。もちろん「強い火星側と弱い地球側が戦う」というコンセプトも面白いと思いました。力と力がぶつかるというよりは、頭脳戦みたいなものが描けるかな、と。
高山さんが描くSFが見たかった(あおき)
――高山さんが参加したのはそのあとですか?
高山 一昨年の暮れあたりだったと思います。
あおき 虚淵さんのお仕事の都合で、ひとりで脚本をやるのは難しいというのは、初期の段階でわかっていたんです。それで、どなたかライターを立てなきゃいけないとなったときに、僕から推薦させていただきました。高山さんとは以前、『喰霊 -零-』という作品でご一緒していて、もう一度組みたいとずっと思っていたんです。ただ、なかなかタイミングがなかったというか、「これ」という素材がなくて。個人的には、高山さんが書くSFが見たかったんですよね。高山さんは科学の知識も豊富だし、ギミックについてもしっかり描かれる方なので、ロボットものはきっと合うだろう、と。
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――そういえば、高山さんがシリーズ構成を担当した作品で、がっつりロボットを扱ったものはそんなにないですね。
高山 デビュー作が『勇者警察ジェイデッカー』だし、脚本だけでいえば『ゼーガペイン』にも参加していますが、シリーズ構成では初めてですね。
あおき 『ストラトス・フォー』もメカは出てきますが……。
高山 あれもSFではあるんですが、ロボットものではないですしね。だから、以前からやってみたかったというのは、たしかにありました。ただ『ストラトス・フォー』以来、なかなかアニメオリジナルの作品の、シリーズ構成を手がける機会がなかったんです。むしろアニメオリジナルだったというのが、個人的にはいちばんのポイントでした。
『アルドノア・ゼロ』に“センス・オブ・ワンダー”を感じた(高山)
――高山さんが参加した時点で、先ほど監督のお話にあったおおまかな構成はもうすでにあったわけですよね。
高山 そうですね。加えて、第3話までの脚本がすでに完成している状態でした。
あおき ただ、細部に関しては決まっていないことも多かったんです。火星と地球の大まかな歴史については、虚淵さんが用意してくださったものがあったのですが、ストーリーを展開していく上で、辻褄が合わなくなってしまう部分もあった。それで一度、高山さんたちと一緒に設定を詰め直しているんです。虚淵さんに書いていただいた設定をベースに、もう一度ブラッシュアップしました。
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高山 僕が個人的にカギになると思ったのは、まず『アルドノア・ゼロ』が現在(取材時は2014年)の話だ、というところです。アポロの月面着陸から、後にヴァース帝国の皇帝になる科学者が出てきて、地球といろいろと軋轢があって……というところまで、虚淵さんが書かれた年表があったんですけど、物語の舞台はあくまで2014年なんです。あともうひとつは、ある意味、俯瞰で見ると『アルドノア・ゼロ』には新しい要素がひとつもないんです。火星から地球にロボットが攻めてくるというのは、それこそ『宇宙戦争』(H・G・ウェルズ)の頃からあるネタのひとつではある。でも、それをこういうかたちで、しっかりと歴史を積み重ねて見せることで、どこか新しく感じる。そこにSF文学で言うところの“センス・オブ・ワンダー”と呼ばれるような、ドキドキやワクワクする感覚を感じました。
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――ファンタジックなストーリーを、ある種のリアリティを持って描くということですね。
高山 以前、あおき監督が他のインタビューでも言及されていたんですが、クリストファー・ノーラン監督の映画『ダークナイト』3部作もそうでした。あの作品では、昔のヒーローであるバットマンを、今のリアリズムで描いたことにドキドキやワクワクを感じた。それと同様に、ロケットパンチであったり、ビームサーベルであったり、あるいはバリアであったり、今ではもう珍しさを感じなくなったスーパーロボットのギミックが、リアルロボットの世界観の中で再定義されることで異化作用が生じる。その結果、センス・オブ・ワンダーを感じる表現になったんじゃないかと思います。
1話だけ見ても「これはロボットアニメだ」と思える作品に(高山)
――なるほど。監督がコンセプトを詰めていく際に気にしたポイントというのは?
あおき やっぱり「王道を目指す」という部分ですね。シンプルに、毎週見ていて楽しいアニメにしたい、と思っていました。今週見たら来週も見たくなるし、また再来週も見たくなる。純粋にそこを中心に考えようと。
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――「ロボットアニメ」とか「SF」というところよりも、ちゃんと面白いものにしたいということでしょうか?
あおき もちろん、ロボットアニメであるというのは大前提なんですけど、あまり論理のほうに傾きすぎるのもよくないんじゃないだろうか、と思ったんです。僕が子供の頃って、まだビデオがない時代だったこともあって、リアルタイムで見逃すとその回はもう二度と見られなかったりしたんです。だから、なるべく早く家に帰ろうとか、そういう感じでアニメに接していた。そんな感覚を呼び起こすアニメになればいいな、と思っていました。そのためになるべく毎週、見ている人を惹きつける要素を入れる。そこは意識していますね。ワクワクできるネタが、1話に必ずひとつは欲しい、とか。
――それが、シリーズ構成にも反映されているわけですね。
あおき そうですね。岩上さんから「毎週、ロボットバトルしてください」というオーダーもありましたし。
高山 バトルでなくてもいいので、なんらかのかたちでメカを出してください、と。『機動戦士ガンダム』で言うところの「ククルス・ドアンの島」とか、ワッパが爆弾を貼っていく話(第14話「時間よ、とまれ」)みたいな、ああいうかたちでもいいからロボットを出しましょう、と。
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――それこそ、24話あるなら24体のロボットが出てくるような(笑)。
あおき 理想を言えばそうですね(笑)。昔のロボットアニメは、玩具メーカーがスポンサーだったので、毎週強制的にロボットを出さなきゃいけなかったわけです。でも、今はそういう縛りがなくなった。実際にロボットの作画は―― 今はCGがメインになったとはいえ、やっぱりカロリーが高いわけで、その結果、現場的な戦力の分散を優先するようになったんです。ロボットバトルがあった次の回は人間ドラマを中心にしよう、とか。でも、そこは見直したほうがいいんじゃないの?ということを岩上さんは意図したと思うんです。僕もそれはその通りだな、と思うし。
高山 たとえ回想シーンであっても、必ずロボットが出てきて、なんらかの見せ場を作る。とにかく1話だけ見ても「これはロボットアニメだよね」と思える作品にしよう、と。
あおき ある意味、そうやって作り手の自由を奪うことで、工夫だったりアイデアが生まれる。そこを期待されたんだろうな、と思います。最終的にはそういった意見を踏まえた上で、今のシリーズ構成になっていますね。
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界塚伊奈帆は悩まないヒーロー
――少しドラマの話も伺おうと思います。先ほど監督のお話にも「頭脳戦」という話が出ましたが、これは主人公のひとり、界塚伊奈帆の設定を決めるにあたって、大きな要因になっていますよね。
あおき そうですね。まず最初に、地球側が弱いという前提があって――ということはつまり、未熟な主人公が強いロボットに乗って、ロボットの性能の高さゆえに勝つ、みたいなある種のロボットものの成長のフォーマットは使えない。ゆえに主人公が――強くなくてもいいんですけど、機転や頭の回転の早さで勝つ。そこが前提になったんですね。ただ問題は、その機転をどう描写するのか、そこのバランスがポイントだろうな、と。
――なるほど。
あおき 実際、第3話あたりまでは、僕の中でも伊奈帆のキャラクターがそれほど固まっていなかったんです。第6話あたりまで進めたところで、ようやく彼のイメージが固まり始めた。そのため、最初の3話分に関しては、虚淵さんの脚本に自分の中の伊奈帆像をプラスして、絵コンテを描きながら最終的なキャラクターを固めていった感じです。冷静だけど無感情ではない、顔には出さないけれど、胸の内に熱いものを秘めている。伊奈帆はそういうキャラクターなんだ、と。
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高山 僕のほうでも、その第3話までのコンテを読んで、そこから続きの脚本を書き直したりしています。「あ、伊奈帆ってこういうヤツなんだな」と。以前、新房(昭之)監督がおっしゃっていたんですが、「ヒーローは、悩まないんだよ」と。今でこそ、ヒーローが悩みを抱える作品は多いですが、たしかに昔のヒーローは悩まなかった。そういう意味でも伊奈帆は悩まない。身の回りの人にとっていちばん良い結果を生むように、自分自身を計算に入れないで、最善手を探りあてる。結果的に、すごく純粋なヒーローになったな、と思いました。
あおき 悩まないヒーローというのは本当にその通りで、打ち合わせの際にも『週刊少年ジャンプ』というキーワードが何度も出ていました。たしかに『ジャンプ』を代表する作品の主人公って――『ドラゴンボール』の悟空にしろ『ONE PIECE』のルフィにしろ、一度こうと決めたら悩まない。多少揺れる部分があっても、次とかその次の週には元に戻るんですよね。結果的に、伊奈帆はそういう主人公になりました。
「語らないことによって語る」キャラクターたち
――そういった主人公像だから、新鮮な気持ちで見ることができているんですね。
あおき ただ、伊奈帆のキャラクターを誤解している視聴者の方もいるみたいですね。ユキの付箋をはがす芝居や、卵焼きのくだり、「友達の分だ」というセリフなど、彼の持つやさしさや熱さをさりげなく表現しているんですけど、ちょっとさりげなくやりすぎちゃったのかな、と。
高山 僕はあれくらいがちょうどいいと思うんですけどね。
――そういえば、あまりくどくどとセリフで語るような局面も、ほとんどないですよね。
あおき あまりこの作品ではモノローグを多用したくない、と思っていて。
高山 せっかくのアニメオリジナル作品なので、そこは活かしたいんです。昨今は原作ものが多くて――とくにインタラクティブノベルゲームやライトノベルが原作だと、もともとが文字媒体なので、表現が饒舌になりすぎてしまう傾向があると思うんです。でも、映像作品というのは、あるセリフの次にあるセリフが来ると、その行間で自動的にある感情が表現できたり、カットやシーンのモンタージュによって生まれる意味で語ることができる。本来そこは、映像作品の持っている武器なので、脚本上でもセリフに頼りすぎないように、また、段取りやつなぎの芝居もできる限り省略し、むしろ削ることによって、感情を浮き彫りにするという表現に寄せています。
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――ヒロインのアセイラム姫もそうですし、火星側の主人公であるスレインも、まさに「語らないことによって語る」キャラクターですよね。
あおき スレインは、なんとかしてお姫様を助けたい、彼女の無事を伝えたいという意志がすべてで、わかりやすいし一途なキャラクターなんです。アセイラムも地球と和平を結んで仲良くしたいという思いはブレていない。
―― そうしたキャラクター同士の―― お互いの意思とか利害がすれ違ったり、ぶつかったりすることで、ドラマが動く。
あおき スレインと伊奈帆にしても、普通に描けばわかりやすく、ライバルだったり、立場は違えども共闘していく……という関係になるはずなんです。でも、そうはならない。そもそも、なかなか顔を合わせないですし。
高山 ようやく出会ったと思ったら、共闘した次の瞬間には撃ち落としちゃうし(笑)。キャラクターがみんなまっすぐな人たちばかりで、もともと交わらない人たちなんですよね。そこもちょっとややこしいといえば、ややこしいです。
あおき 当然、第12話までにやらなければならないタスクというのは存在しているんですけど、こっちの思った通りにキャラクターが動くとは限らない。そういう場合はゴールまでの道筋をキャラクターに合わせて変えてあげる。そういう調整をしています。
高山 その一方で、タスクをこなすためにキャラクターをズラすことは禁じています。あくまでもキャラクターを守りながら、いろいろなドラマを起こすことで、自然と目的地に向かう。そんな風に描くように心がけました。
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2クール目は大人たちの活躍も見えてくる
――しかも子供たちが一直線なのに対して、周囲の大人たちは右往左往している印象ですよね。
高山 大人たちは、15年前のヘブンズ・フォールを経て、いろいろなものを背負ってしまっているわけですよね。それで身動きが取れなくなっている。対する子供たちは、何も背負っていないから、すぐに行動に移れます。……ただ、第12話で、子供たちもまたいろいろなものを背負ってしまうんですよね。ゆえにこれから先は、どうしようもなく、大人たちの側へと行かざるをえない。その一方で、大人たちは子供たちの行動に影響されて、ようやく次の一歩が踏み出せるかどうか。
あおき 幽霊の正体見たり枯れ尾花……じゃないですけど、火星のロボットは脅威なんだけれども冷静に対処していけば勝てない相手ではない、ということなんですよね。怖がったり、固定されたイメージを持ってしまうと、火星には到底勝てないと思ってしまう。でも、伊奈帆が冷静に「彼らはたしかに強いけども、まったく勝ち目がないわけじゃないんだよ」と教えてくれたわけです。最初のクールは、その様子を中心に描いていたので、どうしても大人たちが右往左往しているように見えてしまったんですよ。でも、2クール目からは逆に彼らが伊奈帆の意志を継いでいくかたちになる。だから、もう少し大人たちの活躍が見えてくるようになるかな、と思っています。
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――では、最後にこれから先、2クール目の展開について、今、言える範囲で教えてください。第12話は非常にやきもきする終わり方になったわけですけども……。
高山 とりあえず、スレインは生き残りましたね。
あおき スレインはこのあと、火星に戻って、騎士として戦います。第12話で彼は、もともとクルーテオが乗っていたタルシスという機体に乗り込んだわけですけども、正式にタルシスのパイロットとして登用されて、地球側と戦うことになる。
――そういえば、スレインはアルドノアの遺伝子を受け継いでいないはずなのに、タルシスを動かすことができましたよね。あの場面も、気になるところです。
あおき たしかに現状では謎のままなんですが、1クール目でも「もしかしてこれは……」という伏線が張られています。そのあたりも踏まえながら、今後の展開を楽しみにしていただければと思います。
- あおきえい
- 1973年生まれ。アニメーション監督・演出家。初監督作品は2004年に放送された『GIRLSブラボー』。その後も『喰霊 -零-』や『劇場版 空の境界』『放浪息子』など話題作を次々と手がける。最新作はオリジナルTVアニメ『オーバーテイク!』。
- 高山カツヒコ
- 脚本家。1994年『勇者警察ジェイデッカー』第38話にて、脚本家デビュー。2003年には『ストラトス・フォー』で初めてシリーズ構成を担当するなど、数多くの作品に関わる。あおきえい監督作品『喰霊-零-』『オーバーテイク!』にも参加。
アルドノア・ゼロ(Re+)
地球と火星の戦争と、人間ドラマを描いた
オリジナルロボットアニメ「アルドノア・ゼロ」
TVシリーズ総集編に新作アニメ「雨の断章」を加え、
待望のスクリーンへ
2025年2月28日(金)期間限定上映
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アルドノア・ゼロ Blu-ray Disc BOX
Blu-ray Disc BOX 予約受付中︕
発売日︓2025年3月26日(水)/価格︓38,500円(税込)
/品番︓ANZX-17801~17811
収録話︓TVアニメ全24話、
新作アニメ『EP24.5:雨の断章 -The Penultimate Truth-』
※新作アニメ『EP24.5:雨の断章 -The Penultimate Truth-』あらすじ
地球と火星の戦争終結から約9ヶ月後。
伊奈帆は収容施設のスレインと再び対面する。
その言葉に耳を貸そうとしないスレインに、伊奈帆は投げかける。
「どうして鳥は飛ぶのか︖」
- ©Olympus Knights / Aniplex•Project AZ