丁寧に作ったパロディで、元ネタがわからないときも面白い
――2作品目は『ギャラクシーエンジェル』です。この作品を選んだ理由から教えてください。
社 最初に『ギャラクシーエンジェル』がどんな作品なのかを説明すると、主人公のミルフィーユ(・桜葉)たちギャラクシーエンジェル隊の5人のメンバーは、「ロストテクロノジー」という古代文明の遺物を回収していて。その「ロストテクノロジー」は、非現実的なことを起こすアイテムだから、だいたい最後はとんでもない目に遭うんです。たとえば、宇宙が崩壊したり、メンバー全員が死んじゃったりする。でも、次の回は何事もなかったかのように平然と始まるんです(笑)。そういうむちゃくちゃな作りのギャグアニメで、自分の笑いに関する感性は、かなり影響されています。一時期、小説を書いていたこともあるんですけど、『ギャラクシーエンジェル』的なノリでギャグを連発する作品でした。
――『ギャラクシーエンジェル』は、2001年~2004年に全4期が放送された作品です。リアルタイムで見ていたのですか?
社 見たのは、高校生くらいになってからです。そのとき、なんて面白いアニメなんだって腹筋がちぎれるくらいに爆笑した話があって。(第2期第8話の)「ウェディングケーキ合体スペシャル』なんですけど、前の話まで全然出てこなかった「銀河獣」っていう敵が侵略して来るんですよ(笑)。それで、なぜかギャラクシーエンジェル隊には、五体合体のロボットがあることになっていて、全員で心を合わせて合体しなきゃいけないのに、ランファ(蘭花・フランボワーズ)という金髪の子が金持ちのセレブと結婚するっていう身勝手な理由で離脱していて。ミルフィーユたちは合体に挑戦するけど、失敗して2~3回、爆発するんです。でも、ランファが「もうちょっと独身生活を楽しむことにする」とか言って戻って来てくれて。
――ランファが帰ってくる場面は、少しカッコ良く描かれていますね。
社 5人での合体シーンもカッコ良くなっていて。それまでもコテコテのロボットアニメのオープニングみたいな曲が流れてはいたんですけど、イントロだけで終わったりしていたんです。でも、5人が揃っての初めての合体では、合体バンクみたいなカッコ良い絵も入っていて。「これは絶対に成功しただろ!」と思ったタイミングで、また爆発するんですよ(笑)。『ギャラクシーエンジェル』は1話が12分程度なのに、この1話のためだけにオープニングと合体シーン、さらに架空のお便りコーナーまで作っている。すごく丁寧に作ったパロディだから、元ネタがわからないときも面白いんです。
――社さんでもわからないネタが入っている?
社 制作陣は、僕よりもかなり年上ですし、「何のネタかわかんないけど、これだけ凝(こ)るってことは、何かのパロディなのだろう」みたいなことはよくあります。でも、元ネタがわからなくても面白いってことは、大事だと思っていて。僕、配信でよくネットミームを言うんですけど、聞いている人がわからなくても良いと思いながら言っているところもあって。別に伝わらなくても文脈の中に上手くネタをぶち込めれば、自分が面白いし満足するんです。とにかく面白ければいいんだ、みたいなところは、ギャラクシーエンジェル魂なのかなと思います(笑)。
「数珠つなぎ手打ちそばつなぎなし」は、とにかく面白い神回
――長く続いた作品ですが、とくに好きな時期などはありますか?
社 第1期も好きなんですけど、正直、まだ普通寄りの作品なんです。テンション的には、第2期から壊れ始めてきて(笑)。第2期から第3期くらいのノリが、僕はいちばん好きです。
――では、第3期でとくにお気に入りのエピソードがあれば教えてください。
社 (第18話の)「数珠つなぎ手打ちそばつなぎなし』は、神回ですね。この回も今まで聞いたことがない曲をみんなで歌いながら、ピクニックへ行くんです。そこで、ミルフィーユがおにぎりみたいな何かを追いかけて崖から落ちそうになり、他のみんなが助けようとした結果、5人が数珠つなぎになって崖にぶら下がってしまう。でも、自分だけは助かろうとして裏切るやつがいたりして、なんやかんやあり順番が入れ替わっていくんです。見ていても「なんで?」「ありえないだろ!」って展開になるんですけど、とにかく面白い。
――重要なのは、理屈じゃないと。
社 ありえなくても、制作側が「こうやったほうが面白いだろ!」って作っている感じなんです。たまに、お話を作るとき、まず整合性を求める人もいるんですけど。僕は、それって作品をつまらなくするスパイスだと思っていて。面白ければ、どうでもいいんですよね。整合性なんてあとからついてくればいいし、まずは勢いが大事だと思っています。SFアニメやマンガでは、お話的に整合性を求めてしまう作品もありますけど、『ギャラクシーエンジェル』は、まったくそういうアニメではないので、笑えればいい。この回には、ミント(・ブラマンシュ)って子が飼っているメーモンというペットがいきなり出てくるんですけど。
――前の回まで話題にすら出てきたことがない「名門のメーモン」ですね。
社 あとの回にも出てこないです(笑)。ミントが、そのメーモンに乗ってビームを撃ってくるんですよ。しかも、泣き声も「メーモン」ですから(笑)。そういったその話限りの謎の設定が毎回のように出てくるのが本当に好きでした。創作って、こんなに自由でいいんだと思わせてくれた作品です。
――配信活動にも影響を受けているところはありますか?
社 創作とはまた別ですけど、僕は、配信でもノリや勢いが大事だと思っているし、影響をかなり受けているはず。今の「にじさんじ」は、モラルさえ守っていれば、けっこう自由に活動ができるし、自由な発想も活動に活かせているのかなと思います。
――「にじさんじ」の同僚の皆さんの中で、「『ギャラクシーエンジェル』的な笑いのセンスを持っているな」と感じるライバーさんはいますか?
社 文野環(ふみのたまき)さんです。
――可愛いけれど、破天荒な行動で有名なライバーさんですね。
社 文野さんは先輩なんですけど、そのままギャラクシーエンジェル隊の中にいてもいいと思うくらい面白い方です(笑)。以前、「ナンを作る配信するから、朝5時半に待機しててね」と言われて、起きて待っていたんです。でも、全然連絡が来なくて、これは寝ているなと思っていたら、(通話アプリの)Discordにアルファベットで急に「GO」ってメッセージが来たんですよ。これは、「ごめん」の「ご」だなとか思っていたら、通話がかかってきて。「たまちゃん、なんすか」みたいなことを言ったら、すでに配信が始まっていて、僕の音声も乗っていたんです。「GO」は、「行くよ」の「GO」だったんですよ(笑)。
――それはわからない(笑)。
社 僕は、まさか配信に声が乗っていると思ってないから、自己紹介もしなかったんですけど、文野さんは何の説明もなく、そのままエンジンフルスロットル。そういう方なので、ギャラクシーエンジェル魂を感じますよね。しかも、まったく悪意がないし、面白いから許せちゃう。完全にミルフィーユですよ(笑)。
KATARIBE Profile

社築
バーチャルYouTuber
にじさんじ所属。IT企業に勤務する33歳のプログラマー。2018年6月5日に活動開始。『beatmaniaⅡDX』(通称:弐寺)、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(通称:プロセカ)など音ゲーに関しても造詣が深い。