TOPICS 2021.09.23 │ 12:00

最終回直前! Sonny Boyを解き明かす、夏目真悟監督各話コメンタリー①

不可思議な世界を漂流してしまうことになった中学生たちを描くSF青春群像劇『Sonny Boy』。多次元論や量子論まで取り入れた複雑なルール設定と、各回で舞台や演出のテイストがダイナミックに変遷していく構成が話題となっている。その各話のコンセプトや狙いを、挿入歌の解説も含めて夏目真悟監督に語ってもらった。

取材・文/森 樹

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

第1話 夏の果ての島

夏目 状況説明はあとまわしにして、まずはキャラ紹介に重点を置きました。どういう個性の子供たちがいて、どういう関係性なのか――とくに第1話に関しては、長良(ながら)と希(のぞみ)が出会う話ですね。最初は自分でもひと言でうまく説明できなかったのですが、第1話の制作がある程度進んだところで峯田さん(峯田和伸。銀杏BOYZ)に主題歌を発注して、それが「少年少女」というタイトルで上がってきたんです。そのタイトルを見て、「見事に説明してくれた!」と。まさに少年少女、長良と希の出会いが象徴的な青春ものですね。

今回の構成は、オープニングがありません。峯田さんもそれを踏まえたうえで楽曲を制作してくださいました。劇伴を使わなかったのは、普通はシーンごとの企みやキャラクターの個性を音楽で盛り上げていくものなのですが、今回は大げさにしたくなかったんです。現象だけを見せて、それが積み重なっていくと、わからない部分もどんどん膨らんでいって不気味に見えるじゃないですか。そのストレスは実社会でもあることだし、なるべく作中でも再現したいという思いがありました。長良、希、瑞穂(みずほ)のキャラクターデザインをお願いした江口寿史さんは、もともとファンでした。江口さんが令和の中学生をどのように描くのかなという好奇心や興味があったのですが、上がってきたものは「今」の感じがしっかりとあって、物語にもハマりました。

第2話 エイリアンズ

夏目 第2話ではハテノ島が登場します。ハテノ島にもルールがあり、それが物語のなかで超能力と同じくらい強度を持っている、ということを示そうとしました。瑞穂が「もとの世界と何が違うの?」と言っているように、意外と現実社会と地続きなので、もとの世界と変わらずに生活できる環境なんです。一方で、中学生たちにはそれぞれ超能力が与えられています。ただ、これは足の速い子や野球が上手な子、算数が得意な子、頭の良い子……といったように、先天的な才能や、誰しもが持つ得意・不得意を、アニメならではの表現に置き換えているだけですね。別に風刺がやりたいわけではないんです。人間が普通に生きていくなかで実社会の秩序やルールに感じる「どうなんだろう?」という疑問を、(超能力やハテノ島を使って)わかりやすく表そうとしました。

ビジュアルも重要な要素だったのですが、美術監督をスタジオPabloの藤野真里さんにお願いすることができて、絵の具で力強い空の青を表現してくれました。背景に関しても、配色の妙も含めてセンスの良い方々に参加していただいたので、上がってくるものすべてが素晴らしかったですね。制作上のリテイクはとくになかったです。

第3話 下駄を履いたネコ

夏目 第1話と第2話では、漂流した生徒たちだけのクローズドな世界を映したので、第3話は物語の視野を広げることを意識しました。時間軸としては、漂流してから2カ月くらい経っていて、生徒たちも環境になじみ始めているくらいの時期です。そのときにちょっとした事件が起きて、長良と瑞穂がふたりで解決していく展開となっています。ふたりが謎に迫っていく姿を単純に楽しめる回ですね。全12話の中でも珍しい、軽い気持ちで見ていただけるお話になったのではないでしょうか。

長良と希に、瑞穂が絡む関係性というのは、気づいたらそうなっていったという感じです。長良は友達づきあいがあまり得意ではないキャラクターなので、男友達とワイワイやっているイメージが湧きづらい。それよりは、希や瑞穂と一緒にいるほうが自然、という形に落ち着きました。でも、3人は三角関係ではないんです。長良は希が好きかもしれないですけど、瑞穂とはあくまで友達なんです。中学生ならではの、そのあたりの雰囲気も出せたかなと思っています。

第4話 偉大なるモンキー・ベースボール

夏目 このお話は、第1話から映していたキャップというキャラクターを着地させる意図がありました。長良との友情とまでは言わなくとも、関係性が集約できる場所として、野球場をうまく使うことができたらなと。下地となっているのは、小説『素晴らしいアメリカ野球』ですね。そこに、異なる次元の世界との重なり合いを加えた構造になっています。サルをモチーフにしたのはなぜだったかな……(笑)。ジャングルでサルが野球をしている絵を想像したら楽しいなと思ったんですよね。映像的にも、モンキー・ブルーと倒れた球審は見せましたが、サルたちが野球をしているところは一切見せなかったので、視聴者が想像で楽しめるようにしました。

この回で、「テレポート」という長良の能力が明らかになります。以降の話数ではさらにその能力の別の側面が描かれていくわけですが、現実社会でも、新しいモノや概念が発見されるたびに、今まで古かったものが途端に新しくなることがあります。パラダイムシフトとまでは言わないですが、「価値観は常に変わっていくもの」という考えは、作品のメッセージとしてありますね。

第5話 跳ぶ教室

夏目 フラットランドという平面世界を描いています。これは『フラットランド たくさんの次元のものがたり』という小説がモチーフです。じつは『スペース☆ダンディ』でも円城塔さんの脚本担当回(第24話 「次元の違う話じゃんよ」)でチャレンジしていて、それをもう一度、新しく消化した形でやろうとしたのが今回ですね。『Sonny Boy』のテーマのひとつに「高次元の世界を描きたい」というのがあるのですが、二次元や平面世界もその中に含めることができたらと考えました。

ネズミをメインにしているのは、昔、ハムスターを飼っていたので齧歯目(げっしもく)に愛着があるからです(笑)。もちろん、生徒たちの立場と重ね合わせた部分もありますが。プログラミングに関しては、C言語を用いた大会(※C言語プログラムの難解さ、複雑さを競い合うプログラミングコンテスト、The International Obfuscated C Code Contestのこと)があって、そこで見たプログラムが面白いと思ったんです。ああいうことをやりたいと打ち合わせで話したら、プロデューサーの福士裕一郎さんが作者のYusuke Endoh氏に連絡を取ってくださって、「『難解』がほどけていくプログラム」をご本人に作成いただきました。それはとてもありがたかったですね。

Yusuke Endoh氏がYouTubeで公開している第5話に登場した『難解』プログラム

第6話 長いさよなら

夏目 この回のテーマは「卒業」です。中学校という大人や先生に保護されていた場所から、長良たちが社会に解き放たれていく、放り出されていくようなイメージを持ってやっていました。ヴォイスが長良に対して「キミたちだけが特別だと思っていたのか?」と問いかけるセリフは、その象徴ですね。そうした現実を、社会に出て実感していくことになる中学生たちの不安を描ければと思いました。

一方で、フィルムというのは繰り返しのメタファーとして用いていますが、人生自体も、ひとつのフィルムに巻き取られたもののような気がしています。現象や時代もそうですけど、ひとつひとつフィルムにまとまっていて、いろいろな世界が選択肢としてそこにはある。映画館という閉鎖された空間を舞台にしていますが、フィルムに記録された無限の情報が、これから社会に出る人たちにとっては無限の選択肢として広がっている――「上映」してみないとわからないこともありますが、希望も不安もそこにはあるというのを表現できたかな、と思っています。そこに、やまびこやあき先生という、長良たち以外の漂流者を登場させることで、一気に物語の世界を広げていこうとした回でした。

作品情報

『Sonny Boy』
好評放送・配信中

  • ©Sonny Boy committee