男女というものに囚われない、 なんでもありの世界観が面白い
――内海さんは高校卒業後、専門学校を経てアニメーターの道に進んだわけですが、当時はどんな感じだったんでしょうか?
内海 『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ(以下、遊☆戯☆王)』を見て「作画監督になりたい!」と思ったまではいいんですけど、でもどうやってなるかなんて全然わからなくて(笑)。当時はネットもそれほど普及していなかったですし。ただ、専門学校に入ると内情が少しずつわかって、会社に入ってようやく道筋が見えてきましたね。
――家族から反対されなかったんでしょうか?
内海 わりとされなかったですね。ただ、会社に入ってからは、けっこう反対されました。当時は出来高で、自分の手が遅いのもあり給料が本当に低かったので……(笑)。親からも「毎日働いてこの給料はなんだ」みたいな。実際、同期のなかにはそれが原因で辞めていった子も多かったんですけど、私は親から「辞めろ」って言われても「うるせー!」と言って、実家から通っていました(笑)。今は固定給の会社が多くなってきたので、そういう人も減ってきていると思うんですけど。
――で、2本目が『エアマスター』。これは東映アニメーション制作の深夜アニメですね。
内海 深夜というか、もう朝じゃん!みたいな時間に放送していましたね(笑)。これは専門学校に通っていた頃に出会った作品なんですけど……。『遊☆戯☆王』が加々美(高浩)さんに出会った作品だとすると、この『エアマスター』は馬越嘉彦(うまこしよしひこ)さんに出会った作品です。
――なるほど! 馬越さんは『エアマスター』にキャラクターデザインと総作画監督で参加していますね。
内海 『遊☆戯☆王』を経て、絵柄の食わず嫌いをやめて、あらゆるアニメを見るようになった頃に出会った作品ですね。最初はとりあえず見ていただけなのですが、ストーリーとキャラクターがとにかく魅力的で面白く、回を追うごとにハマっていった感じです。しかも馬越さんが入ったときの画面が本当にすごくて。ある意味、『遊☆戯☆王』と同じというか、原作だけではここまでハマらなかったと思います。
――たしかにすさまじい迫力のアクションシーンを筆頭に、アニメーションならではの楽しさがあふれた作品ですよね。
内海 アニメって動いてなんぼだと思っていて、その躍動感や迫力を映像として見せられるのが魅力なんですよね。主人公の摩季ちゃんには新体操をやっていたという過去があって、そのリーチを生かして敵を倒していく。その新体操の躍動感みたいなものは、動きのあるアニメだからこその説得力があって。原作の上に、馬越さんの画力が乗ったときの画面のすごみには本当に感動しました。……あと、女の子がフルコンタクトで戦うじゃないですか。
――そうですね。そもそもストリートファイトがモチーフですし(笑)。
内海 そうなんですよ。女の子なのに、手加減なしにボコボコに殴られる。同じ女性だからこそ、こういう強い女の子が屈強な男たちと渡り合うのが、めちゃくちゃカッコいいなあ、と。
原作の上に
馬越嘉彦さんの画力が乗った
画面の躍動感に感動しました
――同性だからこそ、のめり込んだ部分があったわけですね。
内海 男女だとどうしても力の差があるんですけど、そういうハンデ込みで平等に描いてくれるスタイルに純粋に惹かれました。あとキャラクターの関係性でも男女の恋愛関係がありつつも、女の子同士や男の子同士のそういう関係まであって、男女というものに囚われない、なんでもありな世界観がすごく面白いなって思ったんです。自分がオリジナルで『SK∞ エスケーエイト(以下、SK∞)』をやったときも、そこは意識していましたね。固定観念に囚われないように――フィクションなんだからリアルに囚われすぎても面白くないな、って。
――リアリティを押さえながら、フィクションの面白味を盛り込んでいく、というか。
内海 劇中、コンクリートが吹き飛んだりするんですけど(笑)、完全な超能力というわけではなくて、ギリギリ現実味があるラインなんですよね。あまりハメを外しすぎるとキャラクターが受ける痛みだったり、ツラさが軽く見えてしまいかねないんですけど、そうならないギリギリというか。『SK∞』のときも、スタッフに作品のテンション感を『エアマスター』くらいにしたい、と伝えていました。
――今でも内海さんの監督作に影響を与えているわけですね。馬越さんとはそのあと、一緒にお仕事はしていないのでしょうか?
内海 じつは、馬越さんがキャラクターデザインで参加している『僕のヒーローアカデミア』のエンディングで一度、コンテ・演出を担当させてもらったことがあるんです(第2シーズン後半)。そのときに作画監督として入っていただいたんですけど……。いや、恐ろしかったです(笑)。
――馬越さんのすごさを体感したという。
内海 出久たちの衣装がいつもと違ったので、資料が原作の一枚絵しかない状態で制作することになったんです。その一枚の資料から妄想してコンテを切っていたので「どんな絵になるのかな」って思っていたんですけど、もう恐ろしいクオリティで上がってきて。キャラクターが本当に生き生きしていたんですよね。魅力にあふれていて。原作にないシーンでこんな魅力的な絵が描ける、これぞ馬越さんだなと実感させられました。もう、作画オタクとして片っ端からコピーしちゃいましたね(笑)。
――あはは。
内海 あと一度、馬越さんのスタジオに遊びに行かせていただいたことがあって。馬越さんご自身の机でお仕事をされている状態で、お話しさせていただいたんですけど……。会話をしながらも、ずっと手が止まらず絵が出来上がっていくんですよね……。恐ろしい人だなと思いました(笑)。業界内でも馬越さんほどの手の速さと、あの技術と絵の魅力を兼ね備えているアニメーターはごくわずかで。そんな方と少しですが、一緒にお仕事できたことはとても光栄でした。馬越さんは、私のこと全然おぼえていないと思いますけど(笑)。
KATARIBE Profile
内海紘子
監督
うつみひろこ アニメーター、演出家として『けいおん!!』『日常』などに参加したあと、TVアニメ『Free!』で初監督。吉田秋生原作の監督2作目『BANANA FISH』に続いて、初のオリジナル作品『SK∞ エスケーエイト』を発表。こちらも大きな反響を呼んだ。