吉田玲子さんの脚本は演出家にとって「優しい」
――『フラ・フラダンス』のスタッフにはキャラクターデザインのやぐちひろこさんや音楽チームなど、水島さんとのお仕事で信頼の厚い方々がそろった一方で、脚本の吉田玲子さんとは初タッグでした。
水島 吉田さんの脚本は「優しい」んですよね。これは吉田さん特有のものだと思います。今まで組んできた脚本家は「さあ、お前はこれをどう演出する?」と斬りかかってくるような感じなんですよ(笑)。そういう鍔迫り合いをしながら押し返していく仕事も、それはそれでやり甲斐があるけれど、吉田さんの脚本は僕が描きたいと思っていることに寄り添ってくれるような印象でした。演出家として脚本の行間を読む楽しさを感じられるというか。読んでいて「この部分はこのくらいの温度感で演出したい」とか「このシーンは脚本の印象よりもうちょっと弾けたい」と思わせる一方で、伝えるべき部分はきっちりと伝わるバランスで書かれているんです。
――作業的にはストーリーの大枠とキャラクターを水島さんで作り、吉田さんはプロットから手がけたのでしょうか?
水島 そうですね。まず僕が作ったメモをお渡ししたのですが、完成したものよりもキャラクターが濃くて、コミカル要素が強めだったんです。最初のプロットでそのあたりが整理されたものが上がってきて、かつ僕がやりたいことの方向性を踏まえたものだったので、すぐに脚本に入っていただきました。脚本の初稿の時点で、主人公たちの役まわりが自然に落とし込まれていました。
全編を通して重要なドラマが自然に入ってくるお話
――脚本を経て、メインキャラクターのパーソナリティが成立していった様子をもう少し詳しく教えてください。
水島 まず、僕のメモの段階では、環奈とオハナが混ざっていたんです。ハワイ出身で地元ではダンサーになれなかったけど、日本に来て「私こそナンバーワンよ」と思っているような子だったのですが、うまく切り分けてキャラクターを立たせてもらいました。しおんは苦手なコミュニケーションを克服していく、という目的意識がより明確になっています。逆に蘭子は脚本で入ってきたキャラクターで、その時点でムードメーカー的な存在だったのですが、体型が変化していく様子を描こうと思ったのは画作りに入ってからです。彼女は取材で聞いたダンサーの方の実体験がモデルになっています。大きなドラマはないけど、努力を積み重ねていく様子をストーリーの進行に合わせて少しずつ見せられたら面白いなと思ったんです。
――主人公の日羽(ひわ)はどのようなキャラクターとして描いていきましたか?
水島 日羽は人に合わせることは苦にならないけど、流されやすい子なんですよね。スパリゾートハワイアンズへ入ったのも、お姉ちゃんの夢を追いかけてはいるものの、すごい決意があったわけではなく、両親に話してみたら笑ってくれたからという理由ですから。入社してから大変な思いをする、という展開は最初から決めていましたが、大げさなドラマは与えず、見ている間に自然と主人公に気持ちが寄っていって、見終えたあとは「よかった~」という気持ちになってもらえるバランスを意識しました。
――そのバランスはやはり、脚本が上がってきてから意識したのでしょうか?
水島 そうですね。日羽に限らず、全編を通して重要なドラマが自然に入ってくるお話なので、ここが節目のイベントだ、という見せ方をしないことが演出のうえでも大事だなと脚本を読んだときに思いました。この行間で何を描くか、キャラクターにどういう表情をさせるか、といったことも読みながらすぐに思いついたので、吉田さんの脚本はやっぱりいいなと思いましたね。
幅広い世代に見てもらうために、その世代が持つリアリティを盛り込む
――登場人物を見ていると、ファッションだけでなく考え方や悩みの方向性に「今っぽさ」を感じるのですが、水島さんはどのように若い人たちの感性を吸収しているのでしょうか?
水島 取材するのはもちろんですが、僕はアニクラ(アニソンが流れるクラブイベント)でDJをやったり、アイドル界隈の仕事もしていて、普段から若い子が周りにいるので、肌感覚でわかる部分があるんです。ファッションについては『夏色キセキ』の頃からファッション誌をスタッフに見せたりして、そのときの流行りをどんどん描いてもらっていました。本作でキャラクターデザインをしてくれたやぐちひろこさんは『アイカツ!』を見てもわかるように、もともとセンスが抜群ですし、彼女が作ったものをベースに酒井(香澄)さんや渡部(里美)さんが仕上げてくれました。酒井さんや渡部さんも『アイカツ!』のスタッフで、やはり今の若い子のファッションや考え方をわかっているし、リサーチもしてくれます。今回もキャラクターの性格や出身地によってファッションを変えていて、実際のブランドを見ながら細かいやり取りを重ねました。
――歳を重ねるとセンスを維持するだけでも大変なのに、水島さんは逆走する勢いですね(笑)。
水島 自分でもこんなふうになると思っていませんでしたよ(笑)。でも、若い子に見てもらおうと思ったら、その世代が持つリアリティを作品に盛り込む必要がありますし、調べるのも当然のことなんですよ。僕も最初は若い子が何を考えているのかを知りたくてチャンネルを開いていったんです。結果、自分が知らなかったカルチャーに触れられたのは、すごく大きな学びになりました。異業種の仕事であってもきっかけがあれば飛び込んでみて、そこにいる人たちの仕事を観察したり教えてもらったことが僕の創作には生きているなと思いますね。
- 水島精二
- みずしませいじ 1966年生まれ。東京都出身。アニメーション監督。主な監督作に『鋼の錬金術師』『機動戦士ガンダム00』『UN-GO』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『D4DJ First Mix』など。