TOPICS 2021.12.02 │ 12:00

映画『フラ・フラダンス』
水島精二が語る「総監督の“お仕事”」①

福島県にあるテーマパーク・スパリゾートハワイアンズの新人フラガール達の友情と成長を描くオリジナルアニメ映画『フラ・フラダンス』。念願の“お仕事青春もの”を作りあげた水島精二総監督の“お仕事”はどのようなものだったのか。第1回では、作品を手がけることになったときの心境と、舞台となったスパリゾートハワイアンズの魅力を語ってもらった。

取材・文/日詰明嘉

志のある仕事に参加できるのは名誉なこと

――『フラ・フラダンス』は「ずっとおうえんプロジェクト2011+10…」(東日本大震災から10年の節目となる2021年に、岩手県、宮城県、福島県をそれぞれ舞台とするアニメ作品を制作し、地域の魅力を伝えるプロジェクト)のひとつとして企画されたそうですが、たずさわることになったとき、どのように受け止めましたか?
水島 2011年の震災は同じ日本に暮らす者として他人事ではありませんでしたから、非常に心を痛めましたし、我々エンターテインメント業界の人間に何ができるのだろうと思い悩みました。それから「見た人がそのときだけでもつらいことを忘れられたり、見てよかったなと思ってもらえるものを提供するのが我々のすべきことだろう」と考えながら作品づくりに力を込めてきました。あれから10年が経って、こうして大きな志のあるお仕事に参加できることはとても名誉なことだと思いましたし、お話をいただいたときはすぐに「ぜひやらせてください」と答えました。

一度はトライしたかった“お仕事青春もの”

――今回のプロジェクトは、エンターテインメント業界の人として、直接的に復興支援ができる機会だったわけですね。
水島 そうなんです。僕のもとに話がきた段階で「福島県を舞台にした、フラダンスを踊る女の子たちのお話」ということは決まっていたので、まずは東京に来ていたダンサーさんの取材に行きました。その後現地にも赴き、まさに作中の主人公のように、スパリゾートハワイアンズへ震災のあとに入社した新人のダンサーや、それを支えるスタッフの方々も取材して、親戚のような温かい関係性に「ここを舞台に“お仕事青春もの”が作る事がベストだ」と確信しました。ハワイアンズや、いわきの人たちが頑張っている様子を描きつつ、主人公たちが新しいことに踏み出すお話を描けば、さらに皆さんを応援できるし、映画としても爽やかでチャレンジすることの大切さをメッセージとして打ち出せる。まさにこのプロジェクトにピッタリだなと思いましたし、個人的にも“お仕事青春もの”は一度トライしてみたかったジャンルでしたから、この舞台とテーマなら自信を持ってできそうだという手応えがありました。

――意外ですが、これまで“お仕事もの”は手がけてこなかったんですね。
水島 そうですね。人がよく死ぬタイプの作品とか、対極の作品をやることが多くて、そういうものが好きなんだと思われているのかもしれないですけど(笑)。僕はもともと周防正行監督の映画が大好きで、とくに『ファンシイダンス』『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』のラインが好みなんです。どれも日常的にみんなが目にするけど、中身は意外とわかっていない職業や趣味をテーマに、実際にその世界で生きている人たちにスポットを当てて青春ものとして描いていくスタイルですね。矢口史靖(やぐちしのぶ)監督の『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』も好きで、いつか自分でもそういった作品を手がけてみたいと思っていたんです。今回、取材をしてまさにそのラインに連なる作品になりそうだなと感じました。

現地の人たちの思いが刻まれた場所

――物語の舞台となるスパリゾートハワイアンズの魅力はどんなところでしょう?
水島 まず、造形が面白いんですよ。発展していくなかで増築を重ねた結果、迷路みたいになっているので、裏動線を見せたりするだけでも興味を惹く作りになっているんです。一方で、施設内は常夏にするため温度も湿度も高く、プールも温水プールで、フラショーは観客も常夏な雰囲気で見ることになる。まさにハワイを再現していて、一見しただけではわからない空気も画面でしっかりと見せたいなと思いました。なにより、すごく大きな施設にもかかわらずアットホーム感があるんですよね。映画『フラガール』でも描かれていますけど、もともと廃坑が決まった炭鉱の労働者の雇用を生み出す策として始まった場所ですから、その成り立ちからドラマがあって、いろいろな人たちの思いが刻まれているんです。

――そうした魅力を伝えるために、どのような工夫をしましたか?
水島 自然に画面のなかに収めていくのがいちばん伝わるだろうと思ったので、シナリオ上ではことさら場所について語ったりはせず、主人公の日羽(ひわ)と先輩社員の鈴懸(すずかけ)が会話をしながら館内を歩くシーンでカットを積み重ねて表現しました。画面作りにおいては、現地を正確に描くためには美術チームの協力が不可欠ですから、スタッフと一緒に何度も取材を重ねてイメージを共有していきました。美術監督の日野(香諸里)さんには最初の段階で「スパリゾートハワイアンズとその近辺はリアルに描きつつも、あくまでアニメの映像として落とし込みたい」と伝えていたのですが、非常にクオリティが高いものに仕上げてくれて、とてもスムーズに進めることができました。

――作中で震災を取り扱うことをどのように考えましたか?
水島 作中では「まだ震災の影響は残っていますよ」程度にとどめて、明るくみんなが前を向けるような映画にまとめよう、という方向性は早い段階で定まっていました。とはいえ、ほのめかすだけでは復興へのメッセージまでぼやけたものになってしまうので、短い時間ではあるものの「たしかに震災があったんだ」と強めの画で示すシーンを入れています。絵コンテの段階では「ちょっと印象が強く残りすぎませんか?」と懸念する声もあったのですが、そこから主人公の日常にすっと入る動線にテンポよく結んでいるので、後味は残らないはずだと思っていましたし、出来上がったものに対しても「これなら大丈夫ですね」と言ってもらえました。そのあたりのメリハリは、演出家として長年積んできた経験が生きていると思います。endmark

水島精二
みずしませいじ 1966年生まれ。東京都出身。アニメーション監督。主な監督作に『鋼の錬金術師』『機動戦士ガンダム00』『UN-GO』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『D4DJ First Mix』など。
中編(②)は12月7日掲載
作品情報

『フラ・フラダンス』
2021年12月3日(金)より公開

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