Febri TALK 2022.03.21 │ 12:00

西田亜沙子 アニメーター/キャラデザイナー

①いのまたむつみの絵に魅了された
『幻夢戦記レダ』

『ラブライブ!』をはじめ、『宝石の国』や『電波女と青春男』など、数多くのアニメでキャラクターデザインも手がけるアニメーター・西田亜沙子。そんな彼女が影響を受けた作品について語るインタビュー連載の第1回は、いのまたむつみがデザインを担当したOVA『幻夢戦記レダ』。

取材・文/宮 昌太朗

「こういうものを作りたい」と思わせてくれた

――事前に3本、作品を選んでもらいましたが、いずれも西田さんらしいセレクションだなと思いました。
西田 この連載に出ていらっしゃる方は、わりと演出さんが多い印象だったので、私は絵描きとしての感性でお話ができればと思って、作品を選んでみました。

――最初に挙げたのは『幻夢戦記レダ(以下、レダ)』。1985年に発売されたOVA作品ですね。
西田 『レダ』を見たのは高校生のときなんですけど……。その前に、私が絵描きになるにあたってショックを受けた作品が4つあって、そのひとつ目が『魔女っ子メグちゃん』なんですね。母の話だと、私が夢中で見ていた最初のアニメは(再放送の)『魔法少女サリー』だったらしいんです。アニメで描かれる「少女像」については、魔法少女ものの歴史と重なる部分があると思うのですが、『魔法使いサリー』以降も、魔法少女ものを好きで追いかけていました。『魔法のマコちゃん』あたりで、いきなりキャラクターの頭身が上がるじゃないですか。それまでマスコット的というか、性別的にも未分化で男の子でも女の子でもいいようなデザインだったのが、手足も長くなってミニスカートで「まるでリカちゃん人形が動いているみたいだな」と思いながら見ていたんです。

――マンガ的なデザインから、ぐっとリアリティを増したものに変わるわけですね。
西田 そういうなかで『魔女っ子メグちゃん』を見ることになるんですけど、この作品で荒木伸吾さんの絵に触れて「なんて生々しいんだろう!」と感じたんです。それまで私は、水森亜土さんだったり、サンリオのキャラクターのようなかわいらしい絵が好きで「将来はこういうものを描く人になろう!」と思っていたのですが、『魔女っ子メグちゃん』を見てからは、メグちゃんばっかり描くようになって。子供ながらに、女の子の脚だったり唇、あとは髪の毛にフェティッシュを感じていたんでしょうね。アニメにおける「少女」の描かれ方というのは、『魔女っ子メグちゃん』あたりからどんどん変わっていくのですが、メグちゃん以上にショックを受けたものはないです。

――それくらい大きい作品だったわけですね。
西田 中学生くらいになると、今度はロボットアニメも見るようになるのですが、何気なく見ていた『宇宙戦士バルディオス(以下、バルディオス)』や『戦国魔神ゴーショーグン』の版権イラストに、すごくかわいい女の子が描かれるようになる。それを手がけていたのが、いのまたむつみさんで。それが私にとって、ふたつ目のショックだったんです。

――そこで、いのまたさんがキャラクターデザインを手がけた『レダ』とつながる、と。
西田 私の人生をガタンと変えてしまうほどのショックでしたね。当時、版権イラストというとキャラクター表通りの、カチッとして動きのないものがほとんどで――一方で安彦良和さんや湖川友謙(こがわとものり)さんのアクリル画集のようなものも出てきたのですが、そんななかでひとりだけ、ふわっと水彩で描かれていて、絵の内容も――『バルディオス』は暗い作品でしたけど、すごく楽しそうな構図なんです。今で言う二次創作的な絵だったわけですけど、それを見て「なんてかわいいんだろう!」と。いのまたさんは金田伊功(かなだよしのり)さんの影響も受けている方なので、動きが軽やかで、髪の毛の表現ひとつとっても、これまで見たことがないような華やかさがありました。

若くて才気走った

アニメーターたちが自由自在に

暴れているパワーは

何度見ても楽しいですね

――いのまたさんの名前を知ったのは、当時のアニメ雑誌でしょうか?
西田 そうですね。当時、アニメ雑誌ではアニメーターさんがよく特集されていて、自然と作り手に意識が向くようになっていました。そうすると、「今日はこの人の作画だな」とか「どのスタジオが関わっている回なのか」とかが、だんだんわかるようになるんです(笑)。そういうなかで、いのまたさんのお名前をおぼえたんですね。描かれているもの自体が素敵だったのはもちろんですけど、アニメーターの世界は当時すでに女性が男性と並んで働ける世界だということにも驚いて。将来のロールモデルを見つけた気がしたんです。

――まさにアニメーターを目指すきっかけになったわけですね。いのまたさんの参加作品のなかでも『レダ』を挙げた理由は何でしょうか?
西田 当時のいのまたさんの魅力を存分に味わえる作品だからです。このあとの『ウインダリア』も素晴らしいのですが、『レダ』のほうが若くて才気走ったアニメーターが集まっていて、いのまたさんや脚本の武上純希(たけがみじゅんき)さんが作ったフィールドの上で自由自在に暴れている感じがあるんです。そのパワーは、何度見ても楽しいですね。『レダ』以降、同じような「アーマー美少女もの」がいくつか世に出たのですが、『レダ』のような上品さというか、ファンタジー世界を舞台に少女の心の葛藤を表現するみたいな感覚は、この作品にしかなかった。「こういうものを作りたい」と思わせてくれたのが『レダ』だったんです。

――自身の仕事にも、影響を与えているのでしょうか?
西田 自分の描いている絵は、いのまたさんの絵の延長線上にあると思います。というか、業界でいのまたさんの登場に影響を受けなかった人は、いないんじゃないかと思いますね。それまでアニメの女の子というと、四角い目のキャラクターばかりだったと思うんですけど、いのまたさんの登場によって丸みを帯びた目に変わっていく。ハイライトも、ただの丸じゃなくて、少しウルウルっと変形させた形が入っていたり。あと手の指の表現も、指の腹がぷくっとしていて、でも背の部分はしっかりと骨っぽい。まさに指先まで、かわいさが表現されていたんです。私自身、真似してたくさん描いていましたし、そのあともいろいろな人の影響を受けましたが、いのまたさんのラインは自分の中にずっと存在していると思います。endmark

KATARIBE Profile

西田亜沙子

西田亜沙子

アニメーター/キャラデザイナー

にしだあさこ 大阪府出身。アニメーター/キャラクターデザイナー。最近の主な参加作品に『ラブライブ!』『宝石の国』『ガンダムビルドダイバーズ』『アイドルマスター SideM』など。

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