Febri TALK 2022.03.23 │ 12:00

西田亜沙子 アニメーター/キャラデザイナー

②結城信輝が描く「少女像」に
衝撃を受けた『X-エックス-』

アニメーター・西田亜沙子のアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。第2回では、彼女自身も原画で参加した劇場作品『X-エックス-』を取り上げる。アニメーターに大きな影響を与えたという結城信輝の「絵」の魅力とは? 制作当時の状況を振り返りつつ語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

「次に目指すべき山はこれだ」と思った

――2本目は1996年に公開されたCLAMP原作、りんたろう監督の劇場映画『X-エックス-』です。キャラクターデザイン・総作画監督を務めた結城信輝(ゆうきのぶてる)さんの話になるかと思うのですが、西田さん自身もアニメーターとして参加していますよね。
西田 そうですね。初めて劇場作品で原画を担当したのが『X-エックス-』でした。「アニメーターになる」という夢は高校生になってからも変わらなかったのですが、私は大阪出身なので、やっぱり東京に出るしかないのかなと思っていたんです。でも、当時『装甲騎兵ボトムズ』や『蒼き流星SPTレイズナー』が流行っていて、雑誌などで調べているうちに、大阪にあるアニメアールというスタジオがその作画を担当していることがわかったんです。

――アニメーターの谷口守泰さんが主宰する作画スタジオですね。
西田 「こんなスタジオが大阪にあるなら、行くしかないだろう!」と(笑)。そこで運良く、村中博美さんが主宰していたアニメアールの第二スタジオ(スタジオ・ムー)に入ることができたんです。そういう流れでタツノコプロやサンライズの作品にアニメーターとして参加しているうちに出会ったのが『X-エックス-』でした。当時、結城さんはすでに華々しく活躍されていて、私は結城さんが参加された『ロードス島戦記』を見たり、原画集を手に入れて、せっせと模写をしていました。

――結城さんの絵のどこに魅力を感じたのでしょう?
西田 当時、私たち女子は少女マンガ原作のアニメに対して、少しいらだちがあったんですね。少女マンガをアニメ化したときに、原作が持っている魅力がなかなか伝わらない。たとえば『キャンディキャンディ』にしても、アニメとして動かすために必要なことではあったのですが、シンプルにキャラクター化されていたんです。なので、もうちょっとふわふわしてかわいいものがアニメーションで描けないだろうか?と。

――フラストレーションがあった。
西田 少女マンガの絵は2.5次元というか、半立体の魅力があると思うのですが、結城さんが描くとそこに立体感がより加わって、2.8次元くらいの説得力が出る。結城さん自身は「あとづけのデッサン」とおっしゃっていますけど、それが衝撃的だったんです。私にとって、3つの目のショックが結城さんの絵でした。

――なるほど。
西田 結城さんは「なんでも描ける人」で、70年代の少女マンガ、それこそ萩尾望都さんや竹宮惠子さんの絵から、現代のマンガ家さんの絵まですべて描くことができる。たとえば『風の大陸』では、キャラクター原案のいのまたむつみさんの絵を、いのまたさん以上に「いのまたさんらしく」描かれていたりします。私の中では、あそこまで「いのまたさんらしさ」を描きこなせるのは、結城さんと千羽由利子さんしかいないんじゃないかな、と思っているのですが。加えて、結城さんは女の子の髪の毛だったり、あるいはピンクハウスのデザイナーである金子功さん的なフリルやレースといった衣装を、ある種のフェティッシュを持って描くことができる。そういう人はアニメ業界でそういなかったと思いますし、すごく影響を受けました。「次に目指すべき山はこれだ」と思ったんです。

結城信輝さんが登場してから

アニメが、絵において

少女マンガに追いついた

――まさしく目標になったわけですね。
西田 これは余談ですが、結城さんの次の4つ目のショックは、平松禎史(ひらまつただし)さんでした。結城さんの登場以降、アニメが絵において少女マンガに追いついたと思うのですが、そこからさらに描き込むことによって少女マンガの密度を表現しようとする流れができる。ところが、平松さんはシンプルな線で少女マンガを表現したんです。結城さんが立体で表現していたとすれば、平松さんはフォルムを洗練させることで少女マンガに近づいたというか。代表的なのは『彼氏彼女の事情』だと思いますが、平松さんの登場によって、少女マンガに対するアニメーターのアプローチはさらに変わったと思います。

――なるほど。『X-エックス-』の話に戻すと、西田さんはアニメーターとして参加していますよね。結城さんとは直接、やり取りしたのでしょうか?
西田 東京まで打ち合わせに行きました。これも初めての体験だったのですが、アニメーターだけが作画打ち合わせに参加するのではなく、キャラクターデザイン・総作画監督の結城さんはもちろん、りん監督や背景さん、彩色さん……と、そのカットに関わる全セクションが集まって打ち合わせをする。作画打ち合わせと演出打ち合わせを同時にやるような感じでしたね。

――かなり珍しいスタイルですね。
西田 これが『X-エックス-』だけだったのか、それともりん監督のやり方なのかはわからないのですが、でも「なるほど」と思いました。それまでは電話で打ち合わせをしたり、東京に出向いても演出さんと1対1で打ち合わせすることしかなかったので「これが劇場アニメの作り方かあ」と。……まあ、ああいう打ち合わせは今のところ『X-エックス-』でしか経験していないんですけど。

――(笑)。打ち合わせのやり方が違うことで、作品にも変化があるのでしょうか?
西田 たとえば、桜の木をひとつとっても「ものすごい年月を経ている樹で、この世のものではないようなねじれ方をしている」とか「花びらの降り方はこうで」とか、言ってみれば、役者に演技をつけるような打ち合わせなんですね。そうすると「こういう画面を作ろうとしているんだな」というのが明確にわかった状態で作業に入ることができる。……とはいえ、頭でわかったからといって、それをきちんと出力できるかというと、それはまた別の話なんですが(笑)。

――あはは。ということは、やっぱり苦労があったのですね。
西田 レイアウトを提出したあと、「こちらでお願いします」って完膚なきまでに修正されたものが返ってきたりしました(笑)。しかも、原画の1枚目は結城さんの味を殺さないようにトレスができても、2枚目から先が描けないんですよ。「これはどうしたらいいんだろう?」と。仕事としては苦しかったですし、難しかったですけど、ここで得たものはすごく大きかったと思います。endmark

KATARIBE Profile

西田亜沙子

西田亜沙子

アニメーター/キャラデザイナー

にしだあさこ 大阪府出身。アニメーター/キャラクターデザイナー。最近の主な参加作品に『ラブライブ!』『宝石の国』『ガンダムビルドダイバーズ』『アイドルマスター SideM』など。

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