Febri TALK 2022.03.09 │ 12:00

林明美 演出家/アニメーター

②雑誌の記事から妄想を膨らませた
『幻夢戦記レダ』

アニメーター・演出家として活躍する林明美に、そのアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。第2回で取り上げるのは、1985年に発売されたOVA『幻夢戦記レダ』。「アニメーター」という存在を初めて意識するようになったという『レダ』をめぐって、存分に語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

『レダ』のムック本は、今でも大切にとってあります

――前回、『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の話が出ましたが、友達の影響もあって、中学に入ってからも継続的にアニメを見ていたわけですね。
 見ていましたね。その子は美術部に入ったんですけど、その美術部が「美術部」という名前のアニメ研究部みたいな感じだったんですよ(笑)。そこでアニメの話をしたり、情報交換をしたり。

――2本目に選んだのがOVAの『幻夢戦記レダ(以下、レダ)』なんですが、これも中学生のときでしょうか?
 そうですね。ただ、当時は見ていないんですよ。というのも、ウチにはビデオデッキがなかったから。

――ああ、なるほど。OVAだから、そう簡単には見られないですよね。
 発売前からいろいろなアニメ雑誌でたくさん特集が組まれていたんです。安彦(良和)さんの『アリオン』の公開のときもアニメ雑誌でめちゃくちゃ特集されていたんですね。場面写真、スチール、イラストとかで安彦さんの絵が雑誌にたくさん載るようになって、安彦さんの絵にハマるんですけど……。それと同じくらい『レダ』のキャラクターデザインを手がけていた、いのまたむつみさんのイラストが毎号のように載っていたんです。

――それを見ているうちに『レダ』本編に対する興味がむくむくと。
 そうなんです。とはいえ、実際にはなかなか見ることができなくて……。私の中の妄想「My『レダ』」が頭の中で膨らみまくっていました(笑)。その後、OVA全盛期に入って『戦え!!イクサー1』や『メガゾーン23』のような作品がいくつも発売されたと思うんですけど、それもすべて雑誌からの情報だけで。ひたすら版権イラストを模写していたのもその頃ですね。

――どんなアニメなんだろう?と想像しながら(笑)。実際に『レダ』を見たのはいつだったんですか?
 高校1年のときですね。高校に受かった記念でビデオデッキを買ってもらって、それで初めて見ることができました。でも、当時はソフトが1万円以上したから、近くのビデオレンタル屋で借りてきて。VHSとベータの両方がそろっているお店だったんですけど、アニメも充実していて、『レダ』がそこにあったんです。1泊500円だったと記憶しています。

――値段も鮮明におぼえているんですね。
 2~3年越しにいよいよ本編を見たんですけど……。脳内の「My『レダ』」のほうが面白かった(笑)。たぶん「見たい」という気持ちが高まりすぎたっていうのはあると思うんですけど、絶対面白いだろうと思って見たら「アレ? なんか思っていたのとチガウ……?」って。

いのまたむつみさんの

原画や修正原画を見て

アニメーターの仕事を

初めて意識しました

――あはは。
 本編を見る前に駅前の本屋さんで『レダ』のムック本(幻夢戦記レダ イラスト&原画集 デラックス近代映画版)を買っていたんです。A2判っていう大きなサイズの本で値段も――今でもおぼえているんですけど1,500円。中学生が買うにはけっこういいお値段で。それを買うのにも1時間くらい迷って、お店を出たり入ったりして。

――もう、めちゃくちゃ悩んで。
 で、勇気を出して買ったら、1,500円でもおつりがくるくらいよかったんです。原画や修正原画といった、作画監督のいのまたさんの絵がたくさん載っていて。それを先に見ていたのも、よくなかったのかなって思うんですけど(笑)。その本は本当にバラバラになっちゃうくらい繰り返し眺めていましたね。捨てられなくて、今でも家に大切にとってあります。

――初めてアニメーターの仕事を意識したのが、その本だったわけですね。
 そうですね。昔のアニメ雑誌はよくアニメーターさんの仕事が特集されていましたし、そこで原画とか修正原画が載っているのをちょこちょこ見てはいたんですけど、作り手として意識したのは『レダ』のムック本だと思います。

――それがきっかけでアニメーターを目指すようになったのでしょうか?
 それがそういうわけでもなくて。高校に入ると部活が管弦楽部だったこともあって、絵を描くことからはちょっと離れていました。そのせいで中学のときほど日常的に絵を描かなくなっていたんですけど、高校3年で部活を引退して「どうしようかな」と思っていたときに……アレです……。『聖闘士星矢(以下、星矢)』を見たんですよ。

――アニメ版のですか?
 そうです。シリーズの途中からだったんですけど、たまたまテレビをつけたときにオスカルみたいなキャラクターが出ていて……。「これはいったい何!?」と。

――小学校のときのトキメキが戻ってきたわけですね(笑)。たしかに『星矢』のキャラクターデザインは『ベルサイユのばら』と同じ荒木伸吾さんです。
 日常的にはアニメを見なくなっていたんですけど、そこから毎週追いかけるようになって。しかももうビデオデッキがあるので、録画して見るわけです(笑)。で、そこでまたアニメに引き戻された感じなんですよ。

――その流れで高校卒業後の進路も決まったのでしょうか?
 そうですね。名古屋には代々木アニメーション学院と東京デザイナー学院っていう、アニメ関係の専門学校がふたつあったんですけど、高校3年生の夏休みに両方の見学に行って。で、代々木アニメーション学院の体験入学に行ったら、クイックチェッカーでパラパラアニメを作るっていう講義があったんですね。「ボールが壁にあたって跳ねる」という動きを、お手本をもとに自分で考えて描くんですけど、それが面白かったんですよ。ああ、アニメってこうやって作るんだ!と。そこから本格的にアニメーターになろうかな?と考え始めるようになるんです。endmark

KATARIBE Profile

林明美

林明美

演出家/アニメーター

はやしあけみ 愛知県出身。アニメーター、演出家。『少女革命ウテナ』『フルーツバスケット』『BANANA FISH』など、数多くの人気作にアニメーター、演出家として参加。ガイナックス、カラーに所属したあと、現在はフリーで活動中。

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