Febri TALK 2022.06.15 │ 12:00

鈴木健一 アニメーション監督

②出﨑統監督の神演出に惚れた
『あしたのジョー2』の美しさ

『SDガンダム三国伝 BraveBattleWarriors』『DRIFTERS』などの監督であり、『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』の総監督を手がける鈴木健一のアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。第2回は、鈴木が絶賛する『あしたのジョー2』のアナログならではの自然な美の表現について。

取材・文/富田英樹

キャラクターよりも演出手法に衝撃を受けた

――宮崎駿監督に影響を受けたあとに来るのが『あしたのジョー2』ということですが、これはなぜ続編のほうなんですか?
鈴木 いや、悩んだんですよ(笑)。言わずもがなの名作ですから悩んだんですけれども、大人になってもやっぱり好きなのは『あしたのジョー2』なんです。

――力石徹よりもホセ・メンドーサ派とか。
鈴木 そういうストーリー上のことやキャラクターの好みではなくて、これはもう出﨑統監督の演出なんです。作った時期が違うとここまで印象が変わるのかと。最初に見たときはテレビ局が違うから作風が変わったのかなと思ったくらい、別の作品のような印象を受けました。それともちろん、ジョーは男の目指すべき最終地点というか、憧れとか生き方そのものでしたよね。そういう物語からの影響も大きかったのですが、当時とても衝撃的だったのが出﨑さんの演出手法でした。たとえば、クイックトラックバック(被写体からカメラが急速に遠ざかる)とか、パン3回とか。

――パン3回! ありましたね。
鈴木 ジョーが対象に向かっていくときなどによく使われていた技法ですが、とてもスピード感があって、テンポが良い。そういうものを含めて、現在でも使用されている出﨑さんの演出手法はたくさんあります。ドラマ作りもそうですが、当時は技巧に惚れていたのかもしれないです。演出論というよりは、光の使い方や画面分割、カメラワークだったり、あるいは美麗なハーモニーの絵そのものだったり。そういう視点で作品を見ていた気がします。

――原作マンガとアニメでは時代も異なる印象でしたね。
鈴木 たしかに『あしたのジョー2』は80年代にアレンジされていました(笑)。絵も撮影処理も綺麗になっていたし、ストーリーも構成もところどころ異なっていました。そういう意味では、原作マンガとは大きく印象が違っています。当時は原作マンガ通りにアニメ化すればいいのにと思っていたのですが、大人になった自分が原作がマンガのアニメを監督してみてようやく理解できました。そもそも表現する媒体が違うと、構成も演出もそれに合わせて変えざるを得ないんですよね。たとえば、週刊連載のマンガの場合は、毎週掲載されるページ数の中で盛り上がりや抑揚が設定されていますが、それをTVアニメにする場合、30分のフォーマットに置き換えて考える必要があります。マンガの内容にもよりますが、そのまま忠実に映像化すると、まず尺が映像フォーマットに乗らないし、原作で設計されていた盛り上がりポイントが放送尺の途中に来たりする。30分の枠の中で盛り上がりがデコボコになってしまうと、作品の面白さが伝わらないし、原作の印象と異なるアニメができてしまう。見る側としては面白くないし、中途半端なところで終わったりして気持ち悪いものになってしまいます。「また次回も見たい」という映像にならないんですね。

――なるほど。
鈴木 なので、映像化するには盛り上がりや抑揚なども含めて作品全体を再構成し、原作では描かれなかった部分を追加したり、セリフやシーンを変更するなどのアレンジが必須になるというわけです。それが『あしたのジョー2』は完璧だったので、このシーンの原作はどうなっているんだろう?と思ってマンガを読み直すと、ないんですよ(笑)。原作にない、アニメにしかない名シーンがかなりある。そのときの驚き! 当時の私と同じように、原作ファンの皆様が「絶対このシーンあったよね」と思ってくれるアニメオリジナルのシーンを入れることができたら、アニメ監督としては勝った!と思える瞬間だと思うんですよね、私的には(笑)。だから、今制作中の『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』はもちろんですが、過去にやらせていただいた『はたらく細胞』や『DRIFTERS』のような原作マンガのアニメ化でアニメオリジナルシーンを入れる場合、『あしたのジョー2』の出﨑監督のように、原作にもあると思わせるようなシーンができればといつも考えて制作しています。

第3話のジョーと葉子の

短い会話の中での探り合いが

しびれるほどカッコイイ(笑)

――とくに印象的なシーンはありますか?
鈴木 たくさんあって絞りきれないんですけど、第3話「地獄からの使者…矢吹丈」のジョーと白木葉子の会話なんですが、チャンピオンになりたいというジョーの言葉に対して、葉子が以前の矢吹君ならそんなことは言わなかったと返すんですね。「力石徹とグローブを交えた矢吹丈は、なりたいとか、ためにとか、そんなことを言う前にリングに立っていた」と煽る葉子に対して、ジョーは「じゃあ、どっからか連れて来いよ。もう一度、力石徹をよ……」と答えるんです。この短い会話の中でのジョーと葉子の探り合いがしびれるほどカッコイイ(笑)。

――『あしたのジョー2』は、オープニング映像がCGっぽいイメージでしたね。
鈴木 初めて見たときに、本当にスゴイと思いました。どうやって作ったのかと。あとは先ほども話しましたが、やはり画面の美しさですね。とにかくパラ(※)が印象的なんですよ。3クール目のオープニングのジョーが夕日を背にしているシーンは本当に美しかったし、あとは川面に反射する光の表現ですね。今では、あそこまで自然に美しく表現するのは難しいと聞きます。というのも、当時はアナログで撮影しているわけですが、撮影監督の独自の技術であるとか、フィルムに落とし込む際の職人技のようなテクニックがたくさんあったからできたことなんです。デジタルだからすぐにできるだろうというのは逆で、当時は撮影台にセルを置いて撮影しているから、生ものというかセルの間の空気も一緒に撮っていることになる。そこで出る空気感というものがあるわけですが、デジタルになった今はそれを再現するには手間がかかるし、どうしても自然にはなりにくい。自分がCG映像に一時期携わっていたことがあるからわかるのですが、アナログならではの自然な美しさを持った映像を作るのは本当に難しいし、それができていた当時の作品の素晴らしさを痛感する部分でもありますね。endmark

※ 画面にフィルターをかけてグラデーションのような効果を出す技術。影パラ、夕日パラなどとも呼ぶ。

KATARIBE Profile

鈴木健一

鈴木健一

アニメーション監督

すずきけんいち 1968年生まれ。千葉県出身。サラリーマンを経験したあとにゲーム会社、サンライズなどを経てフリーに。主な監督作品に『EVOLVE../14 頑駄無 異歩流武../十四 MUSYAGUNDAM』『SDガンダム三国伝Brave Battle Warriors』『はたらく細胞(第1期)』『DRIFTERS』『Fairy gone フェアリーゴーン』など。最新作は『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』(総監督)。

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