Febri TALK 2022.03.07 │ 12:00

林明美 演出家/アニメーター

①華やかなキャラクターに魅せられた
『ベルサイユのばら』

『BANANA FISH』や『同級生』など、華やかさと繊細さを兼ね備えたキャラクターデザインも印象的なアニメーター・林明美。そんな彼女のルーツとなったアニメ作品を聞くインタビュー連載の第1回は、幼少期に夢中になったというあの名作について。

取材・文/宮 昌太朗

「もっと大胆にやっていいんだな」という勇気がもらえる

――今日は林さんのアニメ遍歴を伺おうと思うのですが、子供の頃に見ていて記憶に残っている作品というと何になりますか?
 いちばん古い記憶は、幼稚園くらいの頃に見ていた『タイムボカン』シリーズですね。たぶん再放送だったと思うんですけど、その頃はただ見て楽しんでいただけで、「絵がかわいいな」って意識するようになるのは、やっぱり『ベルサイユのばら』とか、あとは『花の子ルンルン』や『魔法少女ララベル』などの魔女っ子シリーズ。『花の子ルンルン』の前にやっていた『魔女っ子メグちゃん』もめちゃくちゃ好きでした。なので、系統からいうと間違いなく荒木(伸吾)さんですね。

――なるほど(笑)。
 とはいえ、女の子向け以外を見ていなかったわけじゃなくて、ロボットアニメもいっぱい見ていました。『闘将ダイモス』や『惑星ロボ ダンガードA』、あとは『UFOロボ グレンダイザー』とか。とにかくテレビで放送しているものは何でも見ていた感じでした。

――で、1本目に挙がったのは、先ほども名前が出た『ベルサイユのばら(以下、ベルばら)』。池田理代子原作、長浜忠夫総監督(途中から出﨑統に交代)の名作です。
 小学校2年生くらいのときかな。風邪をこじらせて肺炎になって、入院したことがあって、そのときに『ベルばら』の塗り絵を買ってきてもらったんです。たぶん、頼んで買ってもらったんだと思うんですけど。

――微笑ましいエピソードですね。
 きっと、すごく惹き込まれて見ていたんでしょうね。お話が面白かったのか、絵に夢中になっていたのか、そこまで自覚はしていなかったですけど、作品として惹かれるものがあって見ていました。あらためて当時を振り返ってみると、マリー・アントワネットのあのビジュアルが好きだったんだと思うんです。女の子は大多数そうだと思うんですけど、ドレス姿のアントワネットをずっと真似して描いていました。あとは『銀河鉄道999』のメーテルも(笑)。

――どちらかというとロマンティックというか、華やかなビジュアルのキャラクターに惹かれていたわけですね。大人になってから、あらためて見る機会はあったのでしょうか?
 DVDボックスを買って見直したんですけど、やっぱり面白いんですよ。自分で演出をやるようになって思うことなんですけど、見せ方だったり、ドラマの積み上げ方が飽きないんです。最近のアニメとは全然違うなって。しかも、演出と画がきちんと噛み合っている。子供向けに作った作品だと思うんですけど、大人が今見ても面白いというのは、やっぱりすごいなって思います。

――ストーリーを支えるだけの力強さが画にあるような気がします。
 そうですね。たまに深夜、『あしたのジョー』や『エースをねらえ!』をやっていると、つい見ちゃうんです。毎話作画がすごいわけじゃないんですけど、やっぱり画の力が強い。最近は作画も緻密なほうに行きがちなんですけど、大事なところはそこだけじゃないんだなというか。「そんな細かいところは気にしなくていいんだ」って勇気がもらえる(笑)。もっと大胆にやっていいんだな、と。あとたぶん、作る側に「こういうものが作りたい」とか「これが面白いんだ」っていう、根拠とか気持ちが強くあるんじゃないかなと思います。じつは今、『おにいさまへ…』を見直しているんですけど……。

子供向けに作った

作品だと思うんですけど

大人が今見ても面白い

――出﨑監督の作品ですね。
 これがやっぱり面白いんですよ。ただ、一気見するのがツラい(笑)。毎回話が濃厚なので、立て続けに2~3話を見ると「あー、お腹いっぱい」って思っちゃいます。

――あはは。当時、そういうアニメの話をする友達は、周囲にいたのでしょうか?
 マンガの話をする友達はいましたけど、アニメはそこまで話をした記憶がないですね。アニメの話ができる友達ができたのは、中学校に入ってからです。中学で親しくなった子がアニメやマンガにめちゃくちゃ詳しかったんですよ。彼女にはお姉さんがいたので、そのせいかもしれませんが。「アニメはこういう風に作られている」とか「あの画材はこの店に売っている」とか。私は愛知県出身なんですけど、「名古屋市のここにアニメグッズのショップがある」とか、そういう情報はみんな、その子に教えてもらったんです。

――それは運命的な出会いですね。
 その子とは中高が一緒だったんですけど、影響を受けて映画を見るようになったり。でも、いちばん大きかったのはアニメ雑誌の存在を教えてくれたことですね。『アニメージュ』や『アニメディア』『マイアニメ』、あとは『ジ・アニメ』とか。毎月、全部は買えないので、お小遣いでどれにしようか棚の前で悩んで買って。その中でいちばん安かったのが『アニメディア』だったので、『アニメディア』を買うことが多かったです(笑)。

――その気持ちはわかります(笑)。
 中学1年生のときに『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』が公開になるんです。アニメ雑誌でも大々的に特集が組まれていて――どの雑誌だったかはおぼえていないんですけど、リン・ミンメイのアップが表紙になっている雑誌があって、それがとにかくかわいかったんですよ。

――アントワネット、メーテル、ミンメイと並べると、なんとなく林さんが惹かれるキャラクターがわかる気が(笑)。
 そうですね。『マクロス』のときの美樹本(晴彦)さんの絵もすごく好きで。それで友達と最初に映画館に見に行った映画が『愛・おぼえていますか』。勇気を出して見に行ったら、映画館の中が大きいお兄さんばっかりで(笑)。しかも座席が取れなかったんですけど、どうしても見たくて、立見席のいちばん前に陣取って、座席との間を仕切るバーがあるところに手をついて友達とふたりで2時間立ち見をしたという。それはすごくおぼえています。endmark

KATARIBE Profile

林明美

林明美

演出家/アニメーター

はやしあけみ 愛知県出身。アニメーター、演出家。『少女革命ウテナ』『フルーツバスケット』『BANANA FISH』など、数多くの人気作にアニメーター、演出家として参加。ガイナックス、カラーに所属したあと、現在はフリーで活動中。

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