当時のリアルと現在とのギャップ
――大国同士の戦争をテーマとすることが多い『ガンダム』ですが、本作ではもっと小規模な集団(鉄華団)の生存競争が描かれますね。
長井 企画当時は、大国同士の全面戦争ということに現実味がなくて、もっと小規模な地域紛争がリアルな日常の世界として存在していました。だから、そこに焦点を当てて物語を描いていこうという思いがあったんです。もちろん、今となっては世界情勢も大きく変化しているので、あくまでも企画当時の視点となりますが。
――そういった物語の中でモビルスーツをどうやって消化しようと考えたのでしょうか?
長井 まずモビルスーツというロボットに対して、富野監督が昔のインタビューで答えていたことがあって、それが「身体能力の拡張」ということなんですね。それを基準として考えたときに、『鉄血のオルフェンズ』では、過去に大きな戦争(厄祭戦)があって、モビルアーマーという人型ではない大型兵器に支配された時代があったと。そこから人間性を再獲得するために、人型ロボットのモビルスーツで戦ったという設定を考えました。だからモビルスーツというものが存在するのが当たり前、という世界観を構築したんですね。そもそも僕もスタッフもみんなガンダムが大好きなわけで、ロボットを出すことに躊躇や葛藤はないわけです(笑)。むしろどうやって成立させるかというだけの話なので、物語の中にモビルスーツを登場させることに苦労したというよりは、設定を考えるのに苦労したということでしょうか。
――ガンダムはキャラクター性の強いロボットでもありますね。
長井 『鉄血のオルフェンズ』でのガンダムは、兵器とか道具としての側面を強調した作りになっていて、とくに主人公機であるバルバトスは換装も多めで形状もコロコロ変わっていく。劇中でも、三日月たちはガンダムの形状や外観にこだわりはないという見せ方をしています。ただ、ガンダムという言葉自体がとてもシンボリックでヒロイックなため、どうしてもキャラクター性を持つ方向に引っ張られてしまう部分はありました。
――物語の冒頭でのバルバトスは基地の動力源でしたね。
長井 そうなんです。よくある最初の疑問が「なんでここにガンダムがあるのか?」という点だと思うのですが、それをどうやったら納得できる描写に落とし込んでいけるか、みたいなことを考えてやってみたシーンです。劇中でのガンダムが圧倒的な強さを持っているわけではないという描写も、古いものは古いという道具の扱いだからです。もちろん、設定的には過去の遺産にもかかわらず強力な機体もありますが、少年たちが足掻いていく物語の中で、そういう細かな裏設定をどこまで盛り込んでいくのかというさじ加減でしかないのかなとも思っていたので、結果的にああいう描写になったということですね。
「殴られたら壊れる」モビルスーツ戦を描く
――モビルスーツの戦闘描写がビームを使わない「格闘戦」主体になっていますが、これにはどんな意図があったのでしょうか?
長井 これは何度も言っていることではありますが、個人的にはビーム兵器の表現方法の進化に対して、これ以上の独自性は出せないと感じていました。たとえば、『機動戦士ガンダムUC』や『機動戦士ガンダムAGE』のようにビームに回転を持たせて……というような強さの表現を追求してもダメだろうと。それと当時、台頭し始めた3DCGによるメカの描写では、CGモデルゆえに攻撃されてもメカが基本壊れなかったのですが、僕としてはロボットが殴られても壊れないっていうことにフラストレーションを感じてしまう。『鉄血のオルフェンズ』はセル(手描き)だったので、だったらそれを生かして盛大に壊したい、破壊表現を追求しようと。そして、それをもっとも効果的に演出するために格闘戦が主体になったわけです。今でこそ表現の幅も広がっていますが、当時はCGモデルで作成されたロボットは「壊せなかった」んです。腕や脚といったパーツを外すことはできても「壊れ表現」ごとにモデリングする予算もスケジュールもないのが現実でしたから。
――とくに印象に残っている戦闘シーンはありますか? たとえば、ガンダム・バエルとガンダム・キマリスヴィダールの決戦では武器の使い方が特徴的でしたが。
長井 バエルの武器がとても少ないのに対して、キマリスヴィダールは全身に満載ですからね(笑)。あの隠し武器はメカデザイナーの形部一平(ぎょうぶいっぺい)さんからのご提案で、もう次から次へと武器の設定を描いてくれるんですよ。だったら、いっそ全部使ってやろうと。それで武器設定を持っていき、絵コンテを担当してくださった寺岡巌さんに「これ全部使いたいです」とお願いしました(笑)。ビーム兵器を使わないということで、基本的に殴打武器を中心にデザインをお願いしていたんですが、その際は「とにかく痛い武器」という発注をしています。見た目にも当たったときにも痛そうなヤツ、ということで鷲尾直広さんがバルバトスに持たせたメイスはとても素晴らしいデザインだと思いました。
――あのバルバトスの目から出る光の演出は長井監督のアイデアですか?
長井 そうですね。映像内での演出はもちろんですが、商品になったときのことも考慮しました。いわゆるクリアパーツなんですが、『鉄血のオルフェンズ』のガンダムはエフェクトを含めてクリアパーツを使う余地があまりないと。ビーム・サーベルみたいなものがないですからね。それで、エフェクトとしてああいう派手な見栄えのする演出を入れたということも若干ありました。
――今後、配信が予定されているスマートフォンアプリ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズG」の『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント』はどのような物語なのでしょうか?
長井 時系列上は『鉄血のオルフェンズ』の第1期が終わったあとから始まることになりますが、本編とニアミスしないように金星を舞台にしています。『鉄血のオルフェンズ』の本編は滅びゆく若者たちの重たい話だったので、『ウルズハント』はもっと気軽に楽しめるものにしようというところから始まっています。ゲームと一緒にぜひ楽しんでください。
- 長井龍雪
- ながいたつゆき 1976年生まれ。新潟県出身。フリーランスのアニメーション監督、演出家として活躍する。主な監督作品として『とらドラ!』『とある科学の超電磁砲』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』などがある。
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント
TVアニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のスピンオフ作品で、スマートフォンアプリ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズG』内で楽しめる最新作!
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