Febri TALK 2022.06.27 │ 12:00

錦織敦史 演出家/アニメーター

①アニメにハマる感覚を初めて知った
『らんま1/2』

『THE IDOLM@STER』や『ダーリン・イン・ザ・フランキス』などの監督を手がける錦織敦史に、心に残るアニメ作品を聞くインタビュー連載。第1回は、高橋留美子原作の人気シリーズをピックアップ。

取材・文/宮 昌太朗

僕の絵の根っこのところにあるのは、めちゃくちゃ『らんま』

――錦織さんは鳥取県の出身ですよね。鳥取は、テレビの放送局自体が少ないという印象があるんですが……。
錦織 そうですね。TVアニメもそれほどたくさん放送していたわけではなく、テレビ朝日系列の局でニチアサがかろうじて放送されていて、あとは夕方にマンガ原作の作品がいくつかあったくらい。なので、子供の頃は、アニメはマンガの一種くらいの感じで捉えていました。

――その頃に見ていたアニメで、今でもおぼえている作品は何になりますか?
錦織 幼稚園の頃だと、普通に『キン肉マン』とかが好きだった気がします。内気な性格だったので、描いたものを周りに見せたりはしなかったですけど、ウォーズマンの絵を描いて「俺は仮面の下のメカニカルなヤツも描けるぜ」ってひとり悦に入る、みたいな(笑)。もともと絵を描くのは好きだったんですけど、決してうまいわけじゃないんです。落書きは得意だけど、絵としてうまいわけじゃない。美術の成績で4は取れるけど、5は無理みたいな。わりと育ちの悪い絵描きではあるんですよ。

――いやいや(笑)。今回1本目に挙げたのが『らんま1/2(以下、らんま)』なんですが、これはマンガが先ですか?
錦織 小学4年生のときかな、従兄弟のお兄ちゃんの家で原作を読んでハマったんです。それこそお兄ちゃんが読んでいたくらいなので、当時の僕からすると少し背伸びした内容で。ちょっとお色気要素もあって、でもドタバタしたところもあって、あとはやっぱり高橋留美子さんの絵のデフォルメ具合とか、そういうところも含めてすごく刺さったんですよ。で、そのすぐあとにアニメも始まって、という。

――原作にハマってから、あまり間を置かずにアニメにも触れたわけですね。当時、『らんま』のアニメ化は、錦織さんの周りではどのように受け止められていたのでしょうか?
錦織 待望のアニメ化でしたね。ウチは田舎のほうでしたけど、それでも子供たちの間でけっこう話題になっていました。それこそみんながリコーダーで主題歌を吹くくらい流行っていたんですけど(笑)、第1シーズンが終わると同時に放送も終わっちゃったんです。

――ああ、「熱闘編」に入るタイミングでネット局から外れてしまった(笑)。
錦織 だから、放送していた期間はそれほど長くないんですよ。ただ、エンディング(「EQUALロマンス」)にアイドルグループのCoCoを使ったりとか、そういうところも含めて、田舎であまりアニメ慣れしていなかった僕にとってはすごく刺激的だったんです。もちろん、原作も好きだったんですけど、アニメというものを意識した最初の作品となると、世代的に『うる星やつら』ではなくて『らんま』になるのかなあ、と。

『うる星やつら』を通っていない

自分たちには

けっこう衝撃的でポップだった

――ああ、世代的な影響というと、そうなるのかもしれないですね。
錦織 トランスジェンダー的な設定もそうだし、ちょっと荒唐無稽な世界観とか、『うる星やつら』を通っていない自分たちからするとけっこう衝撃的、かつポップで。小学生だった自分にもすごくなじみやすい感覚があったんです。キャラクターの棲み分けや役割も、あとから考えるとすごくバランスが取れていて、しかもそれが計算された感じではなくて、高橋留美子さんが持っている絶妙なバランス感覚で成り立っている。キャラクターの面白さとラブコメ要素と、あとは箱庭的な世界観。それを植え付けられたのは『らんま』だったなと思います。

――なるほど。
錦織 あと、アニメにハマるという感覚を初めて知ったのも『らんま』だったんです。それこそ兄貴が持っていた『アニメージュ』にちょっとだけ『らんま』の記事が載っていたのを読んで「アニメ誌を読むと、アニメの情報が手に入るんだ」ということを知ったり(笑)。あとは当時、何を血迷ったか『らんま』のカレンダーを複数店舗で予約しちゃったんです。早く欲しかったからだと思うんですけど、最終的に同じカレンダーを2本買うことになってしまって「これは親に怒られるな」って机の下に隠したんですけど、案の定、親に見つかって(笑)。しかも『らんま』だから、カレンダーの中にはお風呂に入っている絵があったりするじゃないですか。親にはすごく警戒されましたね。

――別に成人向けではないんだけど、年齢的にちょっと恥ずかしいという。
錦織 そうですね。あと当時、『アニメージュ』にグッズの通販の広告が載っていて、クラスのみんなと「頼もうぜ」って申し込んだんです。僕は下敷きを頼んだんですけど、そうしたら裏がちょっとエッチなイラストで「これは学校じゃ使えない!」って(笑)。

――らんまの絵を模写したりは?
錦織 模写もやりました。ただ、女らんまを描いた記憶はあまりないんです。男らんま(乱馬)のほうが描きやすくて、あとはPちゃん(子ブタの姿になった響良牙)とか。振り返ると、自分がマンガの絵を意識的に描くようになったのは『らんま』がきっかけだったのかもなってずっと思っていますね。僕の絵の根っこのところにあるのは、めちゃくちゃ『らんま』だなって。

――当時、『らんま』以外にハマっていたアニメというと……。
錦織 これは他のところでも話しましたけど、『らんま』の少しあとに『ふしぎの海のナディア』が始まって、そこから本格的にアニメを「アニメ」として見るようになるんです。あとは『らんま』の前になるんですが、『ハイスクール!奇面組』。オープニングがうしろゆびさされ組だったんですけど、当時はおニャン子クラブが終わったあとの、アイドル冬の時代で。さっきチラっと『らんま』のエンディングにCoCoが起用されていたという話をしましたが、わりとアニメがアイドルの代わりになっていたというか。アニメのキャラクターをアイドル的に描く、みたいな流れがあったと思うんです。アニメ本編と独立してオープニングやエンディングがあって、それがアイドルのプロモーションになっている。オープニングやPVで、僕がそういう雰囲気を作りたくなってしまうのは、間違いなく当時の影響だと思います。

――そういう意味でも、錦織さんのルーツのひとつになっている。
錦織 小学校高学年くらいのタイミングで、このあたりの作品に出会えたのは、振り返ってみても大きかったと思いますね。逆にいえば、その呪いがいまだに続いているとも言えるんですけど(笑)。endmark

KATARIBE Profile

錦織敦史

錦織敦史

演出家/アニメーター

にしごりあつし 1978年生まれ、鳥取県出身。演出家、アニメーター。ガイナックスに入社し、アニメーターとして数多くの作品に参加。『THE IDOLM@STER』などの監督作の他、最近では『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に総作画監督・キャラクターデザイナーとして参加。

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