パズルのピースがハマっていく物語の爽快感
――3本目は2021年アニメのダークホース的存在、かつ話題作となった『オッドタクシー』です。
藤原 この作品は去年、本当にいろいろな人からおすすめされました。父からも「これすごい面白いらしいけど見た?」と連絡が来ましたし、VaVaさんやスカートさんなど、私が一緒に仕事している方々も音楽の制作に関わっている作品だったので気になっていて。
――周囲の評判や関係者からどんどん気になっていって。
藤原 はい。久々にガッツリとアニメ作品にハマりましたね。とにかく良くできているなという印象で、あっという間に最後まで見てしまいました。序盤はキャラクターの点描というか、伏線を積み上げていく流れで、しかも完全オリジナルなので物語がどう展開するかまったくわからない。最後に伏線が全部回収されて、パズルのピースがハマっていくような構成は、私が好きな伊坂幸太郎さんの小説に近い爽快感がありました。もう一度見返したくなる中毒性もあって。ストリーミング・サービスで配信されている時代にも合っているなぁと思います。
――「田中」というキャラクターの半生を追う第4話の「田中革命」から、この作品に対する熱量がグッと上がったような気がします。
藤原 第4話、すごいですよね! 主人公の小戸川もほんのちょっとしか出てこないし(笑)。でも、田中みたいな不遇な人生もない話じゃないですし、運が悪かったらこうなるかもというリアル感がある。その一方で、見た目が動物という安心感もあって。私もあの回からノンストップで最後まで見てしまいました。
――物語としては、練馬で失踪した女子高生とその犯人を追う、という構成になっています。
藤原 最終回は終わり方もショッキングでしたよね。その後、YouTubeのオーディオドラマを聞いて、サントラも聞いて……と皆と同じように掘り下げていったのですが、そのなかでヤノが気になる存在になりました(笑)。オッドタクシー作戦の最後にテンパって韻を踏めなくなるところがかわいいです。本物のラッパーさんやお笑い芸人さんが声を当てているのもまたいいですよね。
なぜ動物なのか明かされたとき「そう来たか!」とゾッとした
――ラッパーやお笑い芸人の参加も『オッドタクシー』の特徴ですね。
藤原 トレンディエンジェルのたかしさんがやっている樺沢もすごく好きです。もうこの声でしか成り立たないキャラクターだなと思っています。それがキャラクターへの愛着にもつながっていますね。
――他に好きなシーンやキャラクターを挙げるとすると?
藤原 ダイアンさんが演じているお笑いコンビ(ホモサピエンス)って、津田(篤宏)さんが演じている馬場だけが売れていくじゃないですか。あのふたりにスポットが当たった第6話「なんでやねんが聞きたいよ」が、いつもと違うエンディング(トニーフランクが歌う「壁の向こうに笑い声を聞きましたか」)になっていて、すごく切なかったです。ユースケさん演じる、売れていないほうの柴垣が道を歩いていたら、相方の馬場だけが等身大パネルになっている広告を見てしまうんです。「……くーっ」となるツボを絶妙に突いてきますよね。
――見た目が動物、でもそこに描かれる心情や状況がリアルというギャップがいいですよね。
藤原 最後、なぜ動物だったのか、という理由が明かされるじゃないですか。それを踏まえて第1話から見返したら、たしかに会話の中でズレがあるんですよね。小戸川と白川さんの会話でも「君はアルパカだから」と小戸川が白川さんに言ったとき、白川さんが「ハハハ」って躱(かわ)すように笑うんですよ。初見だと気づかないような細かな伏線が多くて、でもきちんと回収されていくのが気持ちよかったです。脚本を書かれた此元和津也さんがすごすぎて、ちょっと怖いくらいですね(笑)。
――物語としては非常に驚きのある内容でした。
藤原 音楽の使い方もオシャレじゃないですか。制作でご一緒したことがあるVaVaさんには思わず連絡しました。「『オッドタクシー』、めちゃくちゃ面白かったです!」って(笑)。
――藤原さんもまわりからすすめられて見たということですが、自分でもおすすめして回ったのでしょうか?
藤原 もちろんです。一時期は勝手に歩く広告塔になっていました(笑)。
KATARIBE Profile
藤原さくら
ミュージシャン
1995年生まれ。福岡県出身のシンガーソングライター。シンガーソングライターとしてのみならず、役者としても活動。 天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。2022年3月に「わたしのLife」を配信リリース。現在は全国各地を回る弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”を開催中。