Febri TALK 2022.01.05 │ 12:00

神山健治 監督

②ジュブナイルの基本を描ききった
『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』

宮崎駿監督の代表作に続いて第2回で取り上げるのは、松本零士とりんたろう監督によって生み出された、あの名作アニメシリーズの劇場版第2作。神山監督が「王道のジュブナイル」と語るその魅力、そして作品に刻み込まれた「終わり」の潔さについてインタビューした。

取材・文/宮 昌太朗 撮影/村上庄吾

映画が終わったら、彼らにもう会うことができない、という感覚

――2本目は『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅(以下、さよなら)』。1981年公開なので、『ルパン三世 カリオストロの城』からちょっと間が空きますね。当時はもう高校生ですか?
神山 高校でしたね。『銀河鉄道999』のTVシリーズは、部活が忙しくなってきたりして、さすがに全話は見ていなかったんです。もちろん、気にはしていたし、オタク仲間は部活そっちのけで録画して見ていましたけど、僕はそれほど積極的に追いかけていませんでした。映画の1作目はたしかにすごく面白かったんですけど、ただ、あくまでTVシリーズの延長線上というふうに受け止めていて、「映画だ」みたいな感じは――人によっては1作目のほうがインパクトが大きかったという人もいますけど、僕自身はそこまでではなかったんですよね。

――ということは、これも『ルパン三世 カリオストロの城』と同様、それほど期待していない状態で見たわけですね。
神山 そうですね。『さよなら』はTVシリーズという前段があったうえでの映画なので、『銀河鉄道999』をまったく知らない人が見て「面白い」と感じるだろうか?という部分もあるにはあるんです。でも、これはジュブナイルの基本というか、すごく王道の構造で作られていて、たまたま『さよなら』だけを見ても、きっと面白いんじゃないかなと思うんですよ。

――今回の取材にあたって久しぶりに見直したのですが、すごく充実感のある作品になっていますよね。
神山 そうですね。その頃、ちょうど「カタルシス」という言葉をおぼえたばかりだったので、「これがカタルシスってヤツか」と思った記憶があります(笑)。なんだろう、映画を見終えたあとに「ふーっ」と息をつく瞬間ってあるじゃないですか。「すごくいいものを見たな」というあとに訪れる、少し切ないような悲しいような気持ち。この映画の中にしか彼らは存在していなくて、このスクリーンがフェードアウトしたら、こいつらにはもう二度と会うことができないんだなっていう感覚。それこそが「まさに映画だ」と思ったんですよ。

――ああ、なるほど!
神山 やっぱりラストシーンですよね。999号が動き始めて、まだ自分の旅が続くと思っている鉄郎が、ふと振り返るとメーテルがすでにホームに降りているのが見える。で、メーテルの名前を呼びながら客車の中を走っていって、最後尾までたどり着いたときには、メーテルのいるホームから999号が遠ざかっていく。少年が旅立つきっかけになる誰かとの出会いがあって、道中の冒険があって、そして最後に別れがくるという、まさにジュブナイルの基本の物語をやっているんです。これはきっと『銀河鉄道999』の劇場版の2本目だからとか、たぶんそういうことを考えずに「これこそ、いちばんやりたいことだ」というのを、(原作の)松本零士さんとりん(たろう)監督がやった、ということなんだと思うんですけど、これも「まさに映画」というか……。僕が見たい――なんなら「作りたい」と思っている映画の基本が、ここにある。それを見事な形で見せられた感じがあって、終わったあと、しばらく立ち上がれなかったんです。

――しかも、最後に「……そして 少年は大人になる」というテロップが出て。
神山 そうですね。アニメを卒業しなきゃいけないんだ、みたいな潔さも感じるんです。今の作品って「永遠にファンを手放さないぞ」という構造で作られている気がするんです。少し余談になりますけど、『それいけ!アンパンマン』の映画は、ちゃんとファンを送り出す感じがあるんです。だから6歳より上になると、みんなちゃんと『アンパンマン』から卒業する。でも、最近のアニメは――僕が作っているものも含めて、潔くないから、最終回がないわけです。でも、『さよなら』は、ここから先はもう二度と作らなくてもいいんだ、というくらいの潔さでズバッと終わる。「ザッツ・終わり」なんですよね。

――だからこそ、切なさがより一層、際立つというのもあるんでしょうね。
神山 そうですね。そういう部分も含めて、見事に「映画」という形にパッケージされている感じがあって、そこに魅了されました。

――神山監督自身の作品に影響を与えているところはありますか?
神山 それに関して言うと、これまでいわゆるジュブナイル的な作品を作る機会がなかったんですよね。ただ、「出会いと別れ」という部分で言えば、『精霊の守り人』には少しあるかもしれない。年上の女性と少年が出会って、旅をして、別れるというストーリーなので、無意識のうちに影響を受けているかもしれないと思います。とはいえ、『精霊の守り人』はどちらかというとバルサが主人公なので、『銀河鉄道999』でいうとメーテル側の視点で進むし、どちらかというと出﨑統監督作品からの影響のほうが大きいんですけど……。ただ、ことあるごとに棚から引っ張り出してくるのは『ルパン三世 カリオストロの城』よりも多いかもしれない。

――なるほど。
神山 最終回というか、ラストをきっちり描いてみたいという思いはあるんです。『精霊の守り人』のときはできた気がするし、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の最初のシリーズは――あのときは、あれだけで終わらせようと思っていたので、できた感じがあるんですけど。ただ、実際にやってみると、たしかに難しいなと思いますね。endmark

KATARIBE Profile

神山健治

神山健治

監督

かみやまけんじ 1966年生まれ、埼玉県出身。美術スタッフを経て、『ミニパト』で初監督。そのあとに発表した『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』が大きな反響を呼ぶ。主な監督作に『東のエデン』『ひるね姫~知らないワタシの物語~』など。監督を手がけた『スター・ウォーズ:ビジョンズ』の一篇『九人目のジェダイ』がディズニープラスで配信中。また、脚本・監督を手がけた新作長編アニメ『永遠の831』がWOWOWにて2022年1月30日(日)20:00から放送・配信予定。

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