Febri TALK 2022.01.03 │ 12:00

神山健治 監督

①初めて衝撃を受けた「アニメ映画」
『ルパン三世 カリオストロの城』

『攻殻機動隊 SAC_2045』や『スター・ウォーズ:ビジョンズ』への参加など、従来のアニメの枠を越えて、意欲的に作品を世に送り出し続ける神山監督。『ロード・オブ・ザ・リング』の新作アニメ映画『The War of the Rohirrim』を制作中の彼に、そのアニメ遍歴をインタビューした。

取材・文/宮 昌太朗 撮影/村上庄吾

映画を見終えたあとに、しばらく席を立てなかった

――今回は、映画に絞って3本挙げていただいたのですが、まずは「映画に絞った」理由を聞かせてください。
神山 ちょうど今、映画を作っているというのがその理由です。これまで僕は映画とTVシリーズの両方を作ってきて――比率で言うとTVシリーズのほうが多いんですけど、あらためて映画とTVシリーズはまったく別物だな、と思うんです。野球で言えば、シーズンと日本シリーズくらい違う。当然、制作環境も違うし、映画は苦戦することが多かったので。で、そのときにやっぱり、映画が映画たり得ている理由って、いったい何なんだろう?ということを考えるんですね。今回のお話をいただいたときに、あらためてアニメの映画が持っている構造であったり、映画たり得る理由とは何なのか。そこを思い返したいのもあって、自分の中で柱になっている作品を選んでみた、という感じです。

――なるほど。で、1本目が宮崎駿監督の名作『ルパン三世 カリオストロの城(以下、カリオストロ)』。
神山 ちょうど、自分でもアニメを作りたいなと思い始めていた頃に出会ったんです。それこそパラパラマンガを描いたり、とりあえずタップと作画用紙を買ったり(笑)。実際にアニメを作り始めたのは高校に入ってからなんですけど、中学2年生くらいのときに『スター・ウォーズ』と『機動戦士ガンダム』のムーブメントがあったんですよね。

――『スター・ウォーズ』の日本公開が1978年、『機動戦士ガンダム』の放送開始がその翌年(1979年)ですね。
神山 そのときに「『スター・ウォーズ』を日本で作るとしたら、アニメが最適なんじゃないか」と。もともとアニメはいっぱい見ていたんですけど、そこで初めてアニメの持っているポテンシャルに気づくんです。で、安彦(良和)さんの原画が載っている本を買って、模写したりとか。そんな感じで「アニメを作りたい」という気持ちが高まってきたタイミングで『カリオストロ』を見に行くんです。……ただ、最初はそれほど乗り気じゃなかった。『ルパン』自体、ブームがひと段落していた頃で、宮崎さんが監督すると聞いても今いちよくわかっていなくて。むしろ「大塚(康生)さんが監督じゃないのか」みたいな感覚だったんですよね。

――ということは、あまり期待せずに劇場に出かけたわけですね。
神山 ただ、見てみたら、雷に打たれるというのはこういうことだな、というか……。『スター・ウォーズ』も衝撃でしたし『ガンダム』にも『未来少年コナン』にも魅了されましたけど、それとは全然違う感覚があったんです。ほぼ2時間の映画を見終えたあとにものすごい充実感があって、終わったあともしばらく席を立てない。そういう感動があって、他の作品とは明らかに別のものだったんです。正直、『ルパン』ブームは過去のものと思っていたのが、ひっくり返されるような感動があった。それで翌日から、フィアットに乗っているルパンの絵とかを描き始めるわけです。

――ダイレクトに影響を受けて(笑)。
神山 ある意味、アニメ映画としてのファーストインパクトは『カリオストロ』なんだろうなと思います。それまで『ガンダム』の映画もあったし、『宇宙戦艦ヤマト』の劇場版もありましたけど、それはやっぱり前段にTVシリーズがあって、最後のいちばん大きなお祭りとして映画がある。そういう感じだったんですよね。『カリオストロ』もたしかにそうなんだけど、TVシリーズとは切り離された単体の映画で、2時間に物語がギュッとパッケージされている。そのインパクトというか面白さがあったんですよね。

――そこに他との違いを感じたわけですね。
神山 ただ、宮崎監督の作品は真似しづらいというか……。画面を見ただけで「これは宮崎さんの作品だ」とわかるんですけど、真似をしたいかというとそうではないんですよね。今考えると、一枚の絵というよりはレイアウトと動きの魅力だったんだなと思うんですけど、当時はわからなかった。たとえば、安彦さんの場合は、キャラクターの顔だけとかガンダムのポーズだけ抽出して模写しても、酔いしれるカッコよさがあるんです。でも、宮崎さんはキャラクターだけを描いても、それほど面白くならない。構図も込みで、レイアウトもすべて描かないとカッコよくならないんです。ちょっと望遠に近いレンズで二点透視で描くという、宮崎さん独特の描き方にカッコよさがあったんだな、と。なので、真似をする対象としてはあまりに高度すぎるから、「面白かった」という自分の思いとは裏腹に、ちょっと棚にしまっていた感じなんですよ。

――なるほど。もし、『カリオストロ』から学びとれることがあるとしたら、どんな部分なんでしょうか?
神山 これは前に本にも書いたことなんですけど、『カリオストロ』だけが他の『ルパン』シリーズと比べて別格に思える理由を考えると、やっぱりTVシリーズから続いてきたルパンに別の人生を付与したこと。それによって、キャラクターに厚みとオリジナリティーを持たせたことなんじゃないか、と思うんです。主人公の行動原理に対して、まったくオリジナルな過去を――強いて言えばTVシリーズにも似たようなエピソードがありましたけど、でもそれを足すことで、すごく強固な構造を作っている。若気の至りでカリオストロに忍び込んで死にかけたとき、少女に助けられたと。その子が困っていたら、助けに行かないわけにはいかないだろう、っていう。

――たしかにそうですね。神山さん自身の作品で、影響を受けているなと感じるところはありますか?
神山 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』をはじめ、自分の作品でも散々やっているなと思います(笑)。登場人物にオリジナルの過去話をつけるってヤツですかね。やっぱり強烈なインパクトを受けましたし、その影響からは逃れられない部分があるんでしょうね。endmark

KATARIBE Profile

神山健治

神山健治

監督

かみやまけんじ 1966年生まれ、埼玉県出身。美術スタッフを経て、『ミニパト』で初監督。そのあとに発表した『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』が大きな反響を呼ぶ。主な監督作に『東のエデン』『ひるね姫~知らないワタシの物語~』など。監督を手がけた『スター・ウォーズ:ビジョンズ』の一篇『九人目のジェダイ』がディズニープラスで配信中。また、脚本・監督を手がけた新作長編アニメ『永遠の831』がWOWOWにて2022年1月30日(日)20:00から放送・配信予定。

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