Febri TALK 2022.03.04 │ 12:00

manzo ミュージシャン/作詞家/作曲家/編曲家

③ミュージシャンとしての幅が広がった
『天体戦士サンレッド』

ミュージシャン活動や歌手への楽曲提供はもちろん、『秘密結社鷹の爪』や『怪人開発部の黒井津さん』などのアニメ劇伴から『弱虫ペダル』や『刀剣乱舞』などの舞台音楽も手がけるmanzoが選ぶアニメ3選。インタビュー連載の最終回は、主題歌アーティストとして参加し、自身に多くの影響を与えた『天体戦士サンレッド』。

取材・文/岡本大介

僕は「音楽芸者」。お客さんの喜ぶ顔が見たい

――『天体戦士サンレッド(以下、サンレッド)』は、manzoさんが主題歌アーティストとして参加している作品ですね。
manzo アニメ主題歌を自分で歌うのは2004年の『げんしけん』以来2作目だったのですが、この『サンレッド』で歌った「溝ノ口太陽族」は、その後の自分にとって大きな転機となる楽曲だったので、今回選ばせてもらいました。

――具体的にはどんな転機につながったのでしょうか?
manzo 僕は今、舞台の音楽も手がけているのですが、そのきっかけは演出家の西田シャトナーさんに声をかけてもらったことなんです。そして西田さんがどうして僕を誘ったのかというと、この「溝ノ口太陽族」を聞いたからなんですよ。それまで僕は舞台音楽をやったことがなかったのですが、誘われるままにOKしました。それが舞台『弱虫ペダル』だったんです。

――そうだったんですね。「溝ノ口太陽族」は、昭和生まれの世代には深く突き刺さる名曲ですよね。
manzo ありがとうございます。僕の子供の頃って、まだ歌謡曲や演歌がヒットチャートに混在してあちこちで流れていた時代なんです。今よりも雑多な音楽に触れ合っていたはずで、その感覚を呼び起こすようなメロディラインや歌唱を意識しました。それこそもっと古い、僕の父や母の世代が聞いていた戦後歌謡のエッセンスも汲み取って、それを現代にアップデートしてよみがえらせたようなイメージなんです。タイトルの「太陽族」というのも1950年代の流行語から取っていますし。

――懐かしさはあっても古臭く感じないのは、そうしたミクスチャー志向があったからなんですね。歌詞について、こだわった部分はありましたか?
manzo 物語の舞台が溝の口という実在する街なので、何度もロケハンして街の雰囲気を感じ取ろうとしました。ただ、当時は作詞経験があまりなかったので、何度もリテイクと修正を重ねたのをおぼえています。

――なるほど。作品の世界観でいうと、奇しくも『秘密結社鷹の爪』と同じく悪の秘密結社とヒーローの対決という図式ですよね。
manzo そうなんですよ。それでいえば、2022年1月から放送しているTVアニメ『怪人開発部の黒井津さん(以下、黒井津さん)』の劇伴もやらせてもらっているんですけど、これもまた悪の秘密結社を描いた作品なんです。

溝の口の庶民的な雰囲気と

特撮ものの要素が融合した

あの世界観がたまらないです

――悪の秘密結社といえば、manzoさんというイメージが定着しているのかもしれませんね。
manzo どうなんでしょうね(笑)。ちなみに『黒井津さん』の音響監督は『天体戦士サンレッド』と同じ飯田里樹さんなんです。今回に限らず『天体戦士サンレッド』のスタッフさんが、その後、別の作品で呼んでくださることがちょこちょこあって、そういう意味でもとても縁の深い作品だなと思います。もちろん、作品自体もとても面白くて、個人的にも大好きです。

――どんなところに魅力を感じますか?
manzo 溝の口の庶民的な雰囲気と特撮ものの要素が融合しているじゃないですか。あの世界観そのものがまずたまらないです。それにキャラクターもみんな魅力的で、本当にあの街で暮らしているような生々しさがあるんですよね。

――好きなキャラクターはやはり……。
manzo ヴァンプ将軍です(笑)。

――やっぱり(笑)。
manzo ヴァンプ将軍はおっさんキャラですけど、掃除にうるさかったりご近所づきあいを大切にしたりと、中身はおばちゃんに近いんですよね。溝の口という街の雰囲気も手伝って、あの人情味がある感じが好きですね。僕からすれば、この作品の主人公はレッドというよりもヴァンプ将軍なような気がします。

――楽曲提供やアーティスト活動から始まり、劇伴や舞台音楽まで仕事の幅を広げてきたmanzoさんですが、今後の野望のようなものはあるんですか?
manzo 僕は自分のことを「音楽芸者」だと思っていて、お座敷に呼んでさえくれれば、なんでも全力でやりますよというスタンスなんです。若い頃は「こうなりたい!」という理想像もあったのですが、今ではそういう野心はあまりなくて、お客さんが喜んでくれさえすれば、それがいちばんだと思うようになりました。

――アーティストというよりも、エンターテイナーに近いですね。
manzo そうですね。歌舞伎町でスナックをやりながら、ちょっとエッチな曲を歌ってはお客さんを爆笑させていた母親を見て育ったせいか、僕も音楽という言語を使ってみんなを笑顔にすることが好きなんです。そこはメンタルの根っこの部分にあると思います。

――劇伴だけでなく、「溝ノ口太陽族」のように自分で歌いたいという気持ちも強いんですか?
manzo もちろん、ありますよ。今はなかなか自分の歌に時間を割くことができないんですけど、歌うことは好きですから。じつは『黒井津さん』でも、劇伴以外に歌っている曲が一曲だけあるんです。

――そうなんですか?
manzo 居酒屋のシーンで流れるBGMなんですが、堀内孝雄さんっぽい曲を作って、それには自分で声を入れています。僕も50歳を超えて、ようやく人生の哀愁を感じさせる渋い歌声が出るようになってきた気がしていて。歌い手としてはそういう変化も興味がありますし、これからも楽しみですね。endmark

KATARIBE Profile

manzo

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ミュージシャン/作詞家/作曲家/編曲家

まんぞう 東京都出身。1994年よりミュージシャンとして活動を始め、日本ブレイク工業の社歌で注目を集める。『秘密結社鷹の爪』でアニメ劇伴デビュー。主なアニメ劇伴作品に『伝染るんです。』『声優戦隊ボイストーム7』『アニマエール!』などがある。

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