Febri TALK 2022.03.02 │ 12:00

manzo ミュージシャン/作詞家/作曲家/編曲家

②初のアニメ劇伴担当作
『秘密結社鷹の爪』

ミュージシャン活動や歌手への楽曲提供はもちろん、『伝染るんです。』や『怪人開発部の黒井津さん』などのアニメ劇伴から『弱虫ペダル』や『刀剣乱舞』などの舞台音楽も手がけるmanzoが選ぶアニメ3選。インタビュー連載の第2回は、ミュージシャンから劇伴へと仕事の幅を広げる転機となった『秘密結社鷹の爪』シリーズ。

取材・文/岡本大介

FROGMANとの出会いが今の自分を作った

――『秘密結社鷹の爪(以下、鷹の爪)』シリーズは、長年にわたりmanzoさんが劇伴を務めている作品です。
manzo 初めてTVアニメの劇伴をやらせてもらったのが『鷹の爪』なんです。それまではいわゆる職業作曲家で、いろいろな歌い手さんにポップスを提供していたのですが、やっぱりそれだとどうしても作曲の自由度は限られてくるんですよ。でも、劇伴、中でも『秘密結社鷹の爪』は自分の持っている音楽の言語を自由に出すことが許された現場で、結果として今の自分の土台を作ってくれた作品になりました。

――『鷹の爪』にはどのような経緯で参加したのですか?
manzo そもそも僕はFROGMANさんのファンだったんです。彼の出世作の『菅井君と家族石』を見て、とても感動しまして。タイトルからしてスライ&ザ・ファミリー・ストーンのパロディなのですが、主人公の菅井くんはスライ・ストーンがモデルで、兄ちゃんのモデルはジョン・コルトレーンだったり、僕が好きなミュージシャンをモデルとしたキャラクターがたくさん登場していましたし、『スター・ウォーズ』や『パルプ・フィクション』などの映画のパロディも豊富で。感動のあまり、いつかFROGMANさんと仕事がしたいと思って、彼のホームページの掲示板に直接書き込んだんですよ。そこからお付き合いが始まって、今に至るんです。

――そうだったんですね。『鷹の爪』シリーズはシナリオから演出、キャラクターデザイン、声優という主要なポストをすべてFROGMANさんがひとりで担当している、かなり異色なフラッシュアニメですよね。
manzo 本当にすごい方で、尊敬しかないです。遊び心にあふれていて、コンプライアンスが厳格化するこのご時世でも、それを逆手に取ったりしながら、ギリギリのネタで攻めているんですよね。その姿勢にはいつも元気をもらっていますし、僕も負けていられないっていう気持ちになるので、すごく刺激ももらっています。

――『鷹の爪』シリーズの劇伴はジャンルも雰囲気も多岐にわたります。どのように制作しているのですか?
manzo 作品の特徴として、有名な映画を元ネタとしたパロディやオマージュを描くことも多いので、音楽的にも元ネタの雰囲気を拝借して作ることが多いですね。僕はこういうパロディ曲を作るのが性に合っているようで、いつもニヤニヤしながら作業しています(笑)。

――元ネタの雰囲気を残しつつも、パクリにならないように作るのは、かなり難しそうです。
manzo そうですね。パロディである以上は「この曲の元ネタってあの曲だよね?」って気づいてもらえないとダメですし、かといってやり過ぎるのもダメですし。でも、そのさじ加減を追求すること自体がとても楽しいんですよね。もちろん、普通にオリジナル曲を作るのも嫌いではないのですが、それとはまた違った楽しみがあるんです。

ギリギリのネタで攻める

FROGMANさんの姿勢に

元気と刺激をもらっています

――とても長いシリーズですが、これまでに作った劇伴曲で印象深い曲はありますか?
manzo いくつかあるんですけど、1曲だけ何度かリメイクしている曲があって、それがいちばん印象深いですね。僕とFROGMANさんの間では「ファイナルアタック」と呼んでいて、第1期の第11話「ファイナルアタック 前編」で初めて使われて以来、クライマックスの最終決戦になるとよくかかる曲なのですが、じつはこの曲はこれまで3回くらいリメイクしているんです。個人的にはリメイクするたびにクオリティが上がっていると感じていて、自分の成長がその都度体現できているような気がするので、とても思い入れがあります。

――好きなキャラクターはいますか?
manzo 総統です。人情味があって哀愁感が漂っていて、間抜けなんだけど漢気にあふれていて。世界征服を企みつつも、それは人々の幸せのためだったり。なにより何度失敗してもメゲないし、決してあきらめない不屈の闘志を持っているじゃないですか。僕は総統のセリフに何度も泣かされています。

――最新シリーズの『秘密結社鷹の爪 ~ゴールデン・スペル~』では、総統の中学時代が描かれていましたね。
manzo クライマックスで、総統と同級生の黒輝 誉(くろきほまれ)が和解したシーンは号泣しました。40代のおっさんが仲直りするシーンで泣くなんて、やっぱり僕はおっさんキャラが好きなんでしょうね(笑)。しかも、あのシーンではわりと自信作だった泣き系の曲がドンピシャで使われていて、ボロボロと泣きながら「そうそう、この曲だよ」って(笑)。

――内容的にも大好きだし、自身のキャリアにとっても重要な作品なんですね。
manzo 本当にその通りなんです。FROGMANさんに誘っていただけたことで、それまでにはなかった新しい世界が開けましたし、劇伴の面白さを知ることができました。もっと個人的なことを言えば、妻との出会ったのもじつはFROGMANさんの紹介がきっかけなんですよ。もう15年以上のお付き合いになりますが、まさしく公私ともにお世話になっている方であり、シリーズですね。endmark

KATARIBE Profile

manzo

manzo

ミュージシャン/作詞家/作曲家/編曲家

まんぞう 東京都出身。1994年よりミュージシャンとして活動を始め、日本ブレイク工業の社歌で注目を集める。『秘密結社鷹の爪』でアニメ劇伴デビュー。主なアニメ劇伴作品に『伝染るんです。』『声優戦隊ボイストーム7』『アニマエール!』などがある。

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