Febri TALK 2021.12.22 │ 12:00

斉藤健吾 アニメーター

②仕事に対する姿勢が変わった
『キルラキル』

インタビュー連載の第2回は、斉藤自身がアニメーターとして制作に関わった『キルラキル』について。同年代のアニメーターも数多く集まっていたこの作品は、彼にどんな影響を与えたのか。当時、現場を包んでいた熱気を振り返りつつ、話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

自分が思うカッコよさと作画監督が考えるカッコよさの戦い

――2本目に挙がった『キルラキル』ですが、そもそも斉藤さんは、どういう経緯で参加することになったのでしょうか?
斉藤 専門学校を出たあと動画マンになったのですが、「俺には無理かもしれない……」とアニメーターをあきらめた時期があったんです。それで郵便局でアルバイトをしていたんですけど、でもやっぱり絵を描く仕事がしたいと思って、アニメの現場に戻ってきました。そのタイミングで文化庁の若手アニメーター育成プロジェクト「アニメミライ」の一作、『アルモニ』(吉浦康裕監督)に参加したのですが、そのプロデューサーだった稲垣(亮祐)さんの紹介で、トリガーに入ることになったんです。

――『キルラキル』に参加したのは何話からでしたか?
斉藤 『アルモニ』の作業に入る前に少しだけ原画をやらせてもらったんですけど、本格的に参加したのは『アルモニ』の制作後なので、第12話あたりからですね。最初は『天元突破グレンラガン』を作っていた人たちの新作だな、という印象でした。その頃の自分はレイアウトをこなすのに精一杯で「レイアウトの正解って何だろう?」と考えながら描くことが多かったんですけど、『キルラキル』は絵の力でねじ伏せる現場というか。上がってくるものを見ると「カッコよければなんでもいいんだ」という説得力があったんです。

――多少、構図としておかしくても、絵がカッコよければ成立するんだ、と。
斉藤 とくに今石(洋之)監督自らが参加しているエピソードは、各カットの絵をパースや整合性といった観点で見ると、どう考えても合っていないんです(笑)。だから当然、とまどったんですけど、「カッコよければ正解なんじゃないか」という話を聞いて「なるほど」と。自分が思うカッコよさと作画監督が考えるカッコよさの戦いというか、「相手がカッコいいと感じるものってどんなものだろう?」と考えながら、自分なりのカッコよさをどんどん出していく。「アニメって、こういう風に作ってもいいんだ!」と衝撃を受けたんです。

――他作品と比べても、目指している方向性がちょっと違っていた気がします。
斉藤 その時期、他の現場に入る機会もあったのですが、『キルラキル』は圧倒的に熱量が違いましたね。みんながひとつのスタジオに集まっていて、全員で作品に取り組んでいる。他の現場だと、スタジオに入っても人があまりいなかったりするんですけど、『キルラキル』の現場は同年代の人たちも多くて、みんなでモノ作りをしているという実感がありました。

すしおさんに褒められて

自分の「カッコいい」を

押し出していい仕事なんだと

思えるようになりました

――トリガーのアニメーターは、皆さん絵がうまいのはもちろん、絵を描くことそのものが好きな人が多いですよね。
斉藤 そうですね。そのせいで「僕にはついていけないな」思うこともありました(笑)。そこまでストイックになれなかったし、スケジュールの縛りもありましたし……。当時、僕は「絶対にスケジュールを守る」「絶対に連絡が取れる」ことを大事にしていて、今でも「できる時間内で最良の仕事をする」という目標は変わっていないんです。でも、たとえば、すしおさんは時間がなくても理想を追い求めるタイプで「これは僕には無理だな……」と(笑)。なので、できるところだけを真似していた感じですね。

――あはは。
斉藤 すしおさんが作画監督を担当されていたエピソードは、大変だった記憶があります。とくに第十五話は、かなり修正をもらいました。ただ、そのあと、第二十一話で流子の服がビリビリに破けるカットを担当したときに、すしおさんに褒められたんですよ。それは、めちゃくちゃうれしかったですし、そこでようやく「カッコいいって、こういうことなんだ」と自分の中でしっくりきた感じがあったんです。そこから、自分の「カッコいい」を押し出していい仕事なんだ、と思えるようになりました。

――なるほど。
斉藤 あと、他の現場ではアニメーターは紙の上(※編注:提出した素材を介して)でやり取りすることが多いのですが、『キルラキル』では直接話をすることが多かったんですよね。同年代のスタッフが多かったからこそ、気取らずにいろいろな意見を聞くことができました。映画の話もよくするようになって、レンタルビデオで借りてきた作品とか、各々が持っているDVDを貸し借りしたり、映画を一緒に見に行って「あのシーンはこうだよね」と語り合ったり……。映像に対する見方自体が『キルラキル』をきっかけに変わった感じがあります。

――『キルラキル』の現場を経験して、いちばん大きな影響を受けたことは何でしょう?
斉藤 レイアウトの描き方ですね。「俺がカッコいいと思うものはこれだ!」と思いながら出す。もちろん、演出さんや作監さんが「違う」と言えば修正しますけど、最初に「俺がいちばんカッコいいと思うものを出す」というスタンスで仕事をしています。自分のエゴを通せるくらい、説得力のあるものを出せればいい。そのことを『キルラキル』で教わった気がしますね。endmark

KATARIBE Profile

斉藤健吾

斉藤健吾

アニメーター

さいとうけんご 1988年生まれ。大阪府出身。専門学校を卒業後、アニメーターとして数多くの作品に参加。これまでに参加した主な作品に『アズールレーン びそくぜんしんっ!』『SSSS.DYNAZENON』など。初監督作『空色ユーティリティ』が2021年12月31日にオンエア予定。

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