Febri TALK 2021.07.19 │ 12:00

佐藤大 脚本家

①何度でも自分のもとに帰ってくる
原点的な作品『AKIRA』

『交響詩篇エウレカセブン』を筆頭に、幅広いジャンルで活躍する脚本家・佐藤大が影響を受けたアニメ作品について語る連載インタビュー。第1回は、自分にとって「原点」のような作品と話す『AKIRA』について。

取材・文/宮 昌太朗 撮影/須崎祐次

「いつか世界が壊れればいい」という気持ちを、 そのまま体現してくれた

――事前に3本、影響を受けたアニメを挙げていただきましたが、1本目は大友克洋原作・監督の『AKIRA』。1988年に公開された劇場映画ですね。
佐藤 もともと大友さんのマンガが大好きだったんです。追いかけ始めたのは『ショート・ピース』あたりからじゃなかったかな。当時、実家が埼玉にあったんですけど、映画を見るときは新宿か早稲田の二番館まで出かけていたんですよ。ついでに新宿ペペに入っていた本屋とかアニメック(※編注:新宿御苑近くにあったアニメショップ)に寄ると『アップルシード』とか、怪しいマンガがいっぱい置かれているわけです。その中に「絶対に押さえておきたい一冊」みたいな感じで『ショート・ピース』があって。そういう意味で、いちばん影響を受けたのは『気分はもう戦争』かな。とにかく大友さんのマンガは、どれも滅茶苦茶カッコよかったです。

――それまで読んでいたマンガとは、ちょっと違った感覚があった。
佐藤 まさに「映画みたい」とはこういうことだ、というか。マンガを卒業しなくてもいいマンガが来た!みたいな感じだったんですよね。そのあと大友さんは『ヤングマガジン』で『AKIRA』の連載を始めるわけですけど……。なんだろう、やっぱり当時の映画で言うと『ブレードランナー』(リドリー・スコット監督)だったりトビー・フーパー、あとはジョン・カーペンターの『ニューヨーク1997』とかが好きで。ただ、そういうものは外国から来るものだと思っていたんです。

――海の向こうから来るものだ、と。
佐藤 でも、それを日本人が作って、しかも舞台が東京だよ!っていう。そういう感じが『AKIRA』にはありました。加えて当時はアニメブームの真っ只中で、『AKIRA』はその決定版みたいな感じで劇場に見に行ったんです。

――当時、佐藤さんは19歳くらいですよね。もう高校を卒業して……。
佐藤 専門学校生でしたね。とはいえ、学校にはほとんど行っていなくて。あるとき、授業に秋元康さんと堤幸彦さんがいらっしゃったんですけど、僕はおニャン子世代なので当然、秋元さんのことは知っているし、堤さんはすでに『コラーッ!とんねるず』とかで活躍されていて、めちゃくちゃ憧れの的で。それですぐにふたりの下で、放送作家見習いみたいなことを始めていたんです。

――すでに働き始めていたわけですね。
佐藤 とはいえ、まわりは業界人ばっかりだから、話が全然合わないんですよ。そんな中で、唯一話が合ったのが大根(仁)監督。僕が放送作家部に入るのとほぼ同時期に大根さんが演出部に入って、仕事の合間にアニメの話とかエレファントカシマシの話をする、っていう(笑)。そういう状況で『AKIRA』を見たんですけど、歌舞伎町に遊びに行くと――それこそ映画館とかゲームセンターでカツアゲに遭うんですよ。でも、自分の中で『AKIRA』レイヤーを1枚張ると「これは春木屋だから大丈夫」と思える(笑)。そういう意味でも、自分のすごく鬱屈した気持ち、「いつか超能力で世界がぶっ壊れればいいのに」みたいな気持ちを、そのまま体現しているような感覚もあったんです。

――中二病的な鬱屈を肯定してくれるような、そういう感覚もあった。
佐藤 本当に、いろいろな意味で影響を受けているって気がしますね。たとえば『AKIRA』の現場には、のちに一緒にお仕事することになる信本敬子さんが制作事務として参加していて。他にも、僕が脚本家デビューするきっかけになった『永久家族』の森本晃司監督とか、『攻殻機動隊S.A.C.』の神山健治監督もスタッフとして参加しているんです。もちろん、当時はそれを知らずに見ていたわけですけど、のちに知り合う人たちが『AKIRA』の現場にはいて。そういう意味で『AKIRA』は、僕のもとに何度でも帰ってくる作品なんです。

――ある意味、原点的な作品でもある。今のお仕事にも『AKIRA』の影響はあると思いますか?
佐藤 めちゃくちゃあるんじゃないですかね。たとえば、セリフの感じとか……。ヤンキーっぽさっていうんですかね。当時の埼玉といえばヤンキー全盛期で、めちゃくちゃ怖いんですよ。リアル『はいすくーる落書』みたいな世界というか。めちゃくちゃ怖いし、本当にイヤだったんですけど、『AKIRA』はそういうヤンキーをカッコよく描いていて。しかも、のちに渡辺信一郎監督と一緒に仕事をするようになると、作中にヤンキーがいっぱい出てくるようになる(笑)。あれは全部、『AKIRA』の影響です。

――あはは。
佐藤 ヤンキーはすごく動かしやすいんですよ。理由なく動いてくれるから。しかも、筋を通せば仲間になれる。だから本当に金田とか鉄雄とか山形、甲斐君とか、あのあたりの影響だなって思います。「筋を通してカッコいいことを言うヤツ」っていう意味では、のちの『交響詩篇エウレカセブン』に出てくるゲッコーステイトの連中がまさにそうだし、そういう意味でも、自分のキャラクター造形の一端は『AKIRA』に源流があるのかなって思います。endmark

KATARIBE Profile

佐藤大

佐藤大

脚本家

さとうだい 1969年生まれ、埼玉県出身。専門学校在学中から放送作家として活動をスタートし、1997年に放映された『永久家族』で初めてアニメ脚本を手がける。主な代表作に『交響詩篇エウレカセブン』『怪盗ジョーカー』など。2021年7月22日公開の『サイダーのように言葉が湧き上がる』に脚本として参加。

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